三人の王 第一章 旅立ち <16>
三人の王

第一章 旅立ち

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 次の日、三人は大陸のリッペス王国への貨物船に乗りこんだ。そ
して、船の旅を楽しむつもりだったのだが、実際楽しんでいたのは
ローゲント一人だけであった。
 他の二人は情けない事に、船酔いで船室に伸びているのである。
苦しみながらも、ジルファーはある一つの決心をしていた。もう、
二度と船には乗らないと……。
「おい、客人。あんたらは本当にお尋ね者じゃないんだろうね?」
一人で海を見ていたローゲントに、船長室から出てきた船長が疑い
深げに聞く。
「ああ、大丈夫だ。お尋ね者じゃあないぜ。俺達はな」ローゲント
の言葉に嘘は無かった。ローゲントはともかく、他の二人は違うか
らである。
「本当だな?」船長が念を押す。
「海の神シーゴットに誓って」ローゲントは右手を上げて、神への
誓いをした。
 船長はやっとそれで納得し、船長室に戻っていった。海の男にとっ
て、海の神シーゴットへの誓いは最も神聖な物だからである。
「さてと、二人の見舞いに行くとするか」太陽が真上に来ているの
に気がつき、ローゲントは二人と一緒に昼飯を食べようと思ったの
である。
「冗談じゃない!」これが、リグラードの答えであった。
 ジルファーは声も出ない。
「そんなに苦しいのか?」ローゲントが不思議そうに聞く。
「船乗りなんてのは、体が丈夫なだけの馬鹿だと思っていたが、今
なら尊敬できるぜ」リグラードのその口調には、冗談の欠片もなかっ
た。
 ジルファーも心の中で、それに同意した。
(空を飛ぶ機械さえあれば、良いのに。)
 ジルファーはさっきから頻りと、そう考えていた。
 実際、そんな事を考えてはいたが、まさか本当に空を飛ぶ機械を
見る事になるだろうとは、この時は思ってもいなかったのだが。
「ローゲント。まだ、大陸には着かないのか?」昼飯を食べている
ローゲントを恨めしそうに見ながら、リグラードは聞いた。
「風向きが悪いとかで、後七日は掛かるらしいぜ」
「七日! 俺は一日で着くと思ってたぜ」リグラードが疲れたように
言う。
 それから八日後に船はようやく、大陸に着いた。
 ジルファーとリグラードの船酔いもどうやら治まり、二人はしっ
かりとした足取りで大地に降り立った。次にローゲントが大地を噛
み締めるように、ゆっくりと降り立った。
 それが三人の王への道の最初の一歩であった。
第二章 刺客


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