三人の王 第一章 旅立ち <14>
三人の王

第一章 旅立ち

< 14 >


 その頃、ローゲントとジルファーの二人は洞窟を探索していた。
 洞窟の通路は人が二人通れる程度の広さで、ヒカリゴケのおかげ
で暗くはなく、むしろ明るいくらいだった。
 奥に進んでいくにつれて、二人は寒さが増していくような気がし
ていた。実際には全く温度の変化はなかったのだが……。
「寒い、寒い。これじゃ死霊の王と戦う前に凍死しちまうぜ」
「ジルファー、ちょっと待て」ローゲントがジルファーの肩をつか
んで呼び止める。
「どうした?」ジルファーが振り向きかける。
 そのジルファーをローゲントは何も言わず、地面に引きずり倒し
た。その直後に、二人の頭上を数本の矢が飛んでいった。
「すまん、ローゲント」ジルファーが礼を言う。
「いや、いい。それよりもジルファー、この罠どう思う?」
「幽霊が罠を張るとは思えないな」
「俺もそう思う。まあ、奥に行けばその謎もわかるだろう」
 二人は再び洞窟の奥へと歩き出した。しばらくして、二人は広い
場所へと出た。
 そこはどうやら神殿のようだった。不思議なのはそこに祭られて
いるのが神の像ではなく、剣と鎧だった事であった。
「謎は解けたな。しかし……、凄い気だな」ローゲントがその鎧を
睨つけて言う。
「五百年前、何者かによって、この神殿が作られたという訳か」ジ
ルファーが呟く。
「そのとおりだ……」突然、声とともに鎧が人間が立ち上がるよう
に、ゆっくりと浮かび上がった。
 よく見るとそこには、うっすらとした人間の姿が見えていた。
「死霊の王か……」ローゲントが剣を抜く。
 それを見ると、死霊の王もゆっくりと剣を抜き、二人の方に近づ
いてくる。
「俺に任せろ」ローゲントが一歩、前に出る。
「任せた」ジルファーは後ろに退き、壁に寄りかかった。
 そして、戦いは始まった。
 まず、最初に動いたのはローゲントだった。ローゲントは死霊の
王の動きが鈍い事を最大限に利用しようとし、死霊の王の胸元へと
飛び込んでいった。
 すると、死霊の王は待ってましたとばかりに、ローゲントに向かっ
て剣を降り下ろした。
 その剣をローゲントは左手の剣で受け止め、右手の剣を死霊の王
の首目がけて繰り出した。
 死霊の王はそれをよけもせずに、左手をローゲントに向かって突
き出した。
 次の瞬間、ローゲントの剣は死霊の王の首を切り放したはずだっ
た。しかし、死霊の王の首は切り放されてはいなかった。
「くそ!」ローゲントは舌打ちして、死霊の王を睨つけた。
 そして、後ろに退こうとした。しかし、その瞬間ローゲントは腹
に痛みを感じて呻き声を上げた。
 ローゲントは自分の腹を見て驚愕した。死霊の王の左手がローゲ
ントの腹の中に入り込んでいたのだった。
 死霊の王が薄気味悪い笑みを浮かべる。
「くっ、くっ、くっ……。愚かな人間どもめ……。ただの霊ならい
ざ知らず、この死霊の王がそんな魔法の剣などで、倒せるとでも思っ
たのか?」
「くそっ!」無駄な事だとは知りつつも、ジルファーは死霊の王の
左手に向かってシルヴィファルツを振り下ろした。
「無駄だと言っておるだろうが……?」その直後、死霊の王から
笑みが消え去った。
「ぐっ! ば……、馬鹿な!」死霊の王は剣を取り落とした。体中
に激痛が走ったのである。
 そして、二人の見ている目の前で、死霊の王の体から黒い気が噴
出しだした。
「か……、体が焼けるように熱い……! いったい、その剣は?」
 ジルファーはシルヴィファルツと死霊の王を信じられないかのよ
うに、交互に見ていた。
 ローゲントは壁に寄りかかり、腹の痛みも忘れてジルファーをじっ
と見つめていた。その目はジルファーの全てを、見抜こうとするか
のようだった。
「……! シル……、ファル……。な……、なるほ……、無……、
の剣か……」死霊の王の最後の言葉はとぎれとぎれだったため、二
人は完全に聞き取ることができなかった。
 後に残った物は死霊の王の剣と鎧だけだった。ちょうどその時、
リグラードが神殿に入ってきた。
「だ……、大丈夫か?」リグラードが息を弾ませながら聞く。
「ああ、大丈夫だ。それよりも、外に出ようぜ。ここは暑い」ロー
ゲントが汗を拭いながら言う。
「本当だ。さっきまであんなに寒かったのに」
「死霊の王を倒したからじゃないか?」ジルファーの疑問に、リグ
ラードが答える。
 ローゲントとリグラードが神殿を出たので、ジルファーもそこか
ら出ようとした。
 が、ふと立ち止まり、振り返って死霊の王の鎧を見た。
(死霊の王はいったい何を言ったんだ? この剣には、何かあるの
か? それともシルヴィファルツという名前に……?)
 ジルファーはゆっくりとシルヴィファルツを引き抜き、刃に刻ま
れている文字を見た。その文字は古代ルーフ語でシルヴィファルツ
と刻まれていた。
 死霊の王は確かに、この文字を見ていたのだ。しかし、古代ルー
フ語という物がある事さえ知らないジルファーには、その文字を読
む事はできないのであった。
 ジルファーはシルヴィファルツをしまうと、神殿を出ていった。
「うわっ、眩しい」洞窟を出ると、ジルファーは当たりの明るさに、
思わず目を細めた。
 太陽が東の方角に位置している。どうやら、朝のようだ。
「そんなに時間は経ってないはずだが」ローゲントが朝日を見なが
ら、不思議そうに呟く。
「いや、かなりの時間が経っているはずだ。あの神殿だけ時間が歪
んでいたからな。おっと、忘れるところだった。ジルファー、リグ
ラード。これから話す事をよく聞いてくれ」そう言うと、リグラー
ドは巨人の民、ランクの事を二人に話し始めた。
「破壊と混沌の神?」ジルファーは思わず大声を上げた。
「ああ、奴はスタークと呼んでたな」
 その後、三人は押し黙った。自分なりにその話を解釈していたの
だ。
「思い出した。破壊と混沌の神に仕える、闇の民だ」ローゲントは
突然、大きな声を上げた。
「闇の民?」リグラードとジルファーは同時に、ローゲントの顔を
見た。
「ああ、闇の民だ。大陸に王国が興るより、遥か以前に、破壊と混
沌の神に忠実を誓った人間の末裔だ。だが、おかしいぞ。確か、大
戦争の起こる前に、ローフーン王国によって滅ぼされたはずだが」
「まあ、いい。とりあえず、刺客には気をつけろよ」リグラードが
念を入れる。
「よし、とにかくザボルに急ぐとするか」ローゲントが先頭切って、
歩き出す。
 その後は何事もなく、五日後に三人はザボルに到着する事ができ
た。
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