三人の王 第一章 旅立ち <11>
三人の王

第一章 旅立ち

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(ここは……? 体が動かない……。な……、何か聞こえる……)
「くそっ! あの藪医者野郎、散々ふんだくりやがって!」それは、
リグラードの声であった。
(リグラードか……。すると、ここはガルミッドなのか……?)
「まだ、意識が戻らないのか……。折れた肋骨が肺に刺さったって
言っていたから、無理もないか」今度の声は、ローゲントの物だっ
た。
(俺はどうしちまったんだ……? もしかして、死んじまったのか
……?)
(起きろ、ジルファー!)
 突然、静かだが力強い声がジルファーの頭の中に響いてきた。
(だ、だれだ……?)
(起きるんだ、ジルファー! まだ、こちらの世界に来てはならん)
(その声は……? 父さん……!)
 と、ジルファーの意識は遠くなっていった。そして、次に気がつ
いた時、ジルファーは宿屋の自分の部屋に横たわっていた。
「リグラード、ジルファーが気がついたぞ」ジルファーの側にいた
ローゲントが、安心したように言う。
「やっと、起きたか。睡眠不足だったんじゃないのか?」リグラー
ドが冗談を言いながら、近づいてくる。
「え……? そんなに気を失ってたのか?」ジルファーが驚いて聞
く。そんなに時間は経っていないと、思っていたからである。
「七日だ。少し寝過ぎだな」ローゲントが珍しく、冗談めかして言
う。
「一週間! そんなに……」ジルファーは信じられないかのように、
そう言う。
「ジルファーも気がついたことだし、俺はエンダーを出るか」
「そうか、リグラードもここを出るのか……。ジルファー、おまえ
はどうするんだ?」
「俺は……、俺は大陸に行くよ。戦争ってのを一度体験してみたい
しね」ジルファーが少し考えてから、そう答える。
「なら、俺と一緒だな。大陸まで一緒に行くか?」ジルファーの答
えを聞いて、ローゲントが聞く。
「なんだ、おまえ達も大陸に行くのか」
「じゃあ、しばらくは三人とも一緒の旅になるな」ジルファーがそ
う言いながら、立ち上がる。少しふらついたが、何とか自分一人で
立つ事ができた。
「なら、ザボルの俺の家で休んでから行こうぜ」
「リグラードの家って、ザボルにあるのか」ジルファーがなんとも
なしに言う。
「ああ、そうさ。さあ、早いとこバールに行こうぜ」
「いや、俺は一刻も早く大陸に行きたいんでな。まっすぐ、ザボル
に行くぞ」突然、ローゲントが口を開いて言う。
「ローゲント、まさか、死霊の森を通って行く気か?」リグラード
が驚いて聞く。
「ああ、そうだ」ローゲントがきっぱりと言う。
「死霊の王が出たらどうするんだよ?」今度は、ジルファーが聞く。
「さあな。その時は、その時だ」
「わかった、俺もつきあうぜ。なっ、ジルファー?」リグラードが
諦めて、同意する。
「ああ、なんとかなるだろう」ジルファーも説得を諦める。
 しばらくして、三人はエンダーから死霊の森へと消えていった。
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