三人の王 第一章 旅立ち <10>
三人の王

第一章 旅立ち

< 10 >


「しかし、おまえもとんでもない事をしたな」ジルファーが山の焼
け跡を見て、呆れて言う。
「何人か、焼け死んだらしいな」ローゲントがぼそりと呟く。
「逃げ切れなかった奴が悪いのさ」リグラードは自分のした事に、
全く後悔をしてはいなかった。
「ん……?」と、ジルファーは焼け跡の一部で、何かが動いたよう
な気がした。
「うわっ!」
 ジルファーがそこに近づいていくと、突然、焼け跡から体長十五
m程の大きさの大蛇が現れ、ジルファーに絡みついてきた。
「ジルファー!」リグラードが叫び、ジルファーの方に駆け出す。
 ローゲントも剣を引き抜き、ジルファーの方に駆け出していく。
「く……、くそっ……」ジルファーは大蛇の胴体を両腕で掴み、力
ずくで大蛇を引き剥そうとした。
 しかし、その行為も大蛇の圧倒的な力の前には、余りにも儚い物
だった。
 リグラードとローゲントはどうする事もできず、剣を構えて大蛇
の隙を窺う事しかできなかった。
(意識が遠くなってきた……。俺もここまでか……)
 大蛇に締めつけられ、ジルファーの意識はだんだんと遠くなって
いった。そして、両腕の力も尽きるかに見えた。
 しかし、不思議な事にジルファーの意識が遠のくにつれて、両腕
に新たな力が漲っていったのである。そして、ジルファーの指は大
蛇の胴体に突き刺さり、じわじわと大蛇を引き剥がしていった。
 大蛇が引き剥がされないように渾身の力を込めるが、それは無駄
に終わった。ジルファーの目が一瞬光った様に見えた瞬間、大蛇は
真っ二つに引き契られてしまったからである。
 ローゲントはしばらく唖然としていたが、まだ大蛇が動いている
のを見て、頭に剣を突き刺して止めを刺した。ジルファーはまるで
体中の力が抜けたかのように、その場に倒れ込んだ。
「ジルファー! ジルファー!」リグラードがジルファーを揺って
叫ぶ。
「ん……」ジルファーが呻き声を出した。
 それを聞いて、リグラードは胸を撫で降ろした。
「リ……、リグラード」ローゲントが掠れた声で、リグラードを呼
ぶ。
「何だ、ローゲ……?」と、ローゲントの方を見た、リグラードは
絶句してしまった。
 ローゲントの足下に、大蛇の死体は無かった。その代わり、そこ
にあった物は人間の死体だったのである。
 頭には、ローゲントの剣が刺さっていた。そのため、信じられな
いが、この人間が大蛇の正体である事がわかった。
「こんな……、こんな事が人間にできるのか、リグラード?」しば
らく経って、ローゲントは口を開いた。
「わからん。少なくとも、俺達ができる事じゃあない」リグラード
の顔は青かった。
「戻ろう。ジルファーを医者に見せなきゃならないからな」ローゲ
ントがジルファーを担ぎ上げて言う。
「ああ……」リグラードはただ、そう頷いた。
 その後、二人は無言のまま、その場を立ち去っていった。
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