三人の王 第一章 旅立ち <9>
三人の王

第一章 旅立ち

< 9 >


 首都バールの西に位置する、大都市エンダー。人口三百万のこの
大都市は、今、深刻な問題を抱えていた。
 その問題とは、一週間ほど前からエンダーの市民を襲い出した数
え切れない程の蛇達であった。その蛇達を従えているのが体長十m
とも二十mとも言われている大蛇であったが、誰も見た者はいない。
 そんなエンダーに、運命に導かれた三人の男達が現われた。ジル
ファー、ローゲント、そして、リグラードの三人である。
 この町には、指名手配の貼紙がまだ来てなかったので、ローゲン
トの正体を知る者はほとんどいない。それ故、ローゲントは何の咎
めも無しに、エンダーに入る事ができた。
 三人はエンダーに着くとすぐに蛇退治に加わり、奇遇にも同じ宿
に泊まった。
 さらに昼食の時に同じテーブルにつき、気が合ったため、それ以
来、一緒に食事や酒盛りをしていた。
 それが、未来の大陸の王達の最初の出会いであった。
「ジルファーはなぜ、旅をしているんだ?」蛇退治を明日に控え、
三人は宿の一階の酒場で酒盛りをしていた。
「さあ、わからないな。だけど、誰かに導かれているような気がす
るんだ」
「それは運命の女神かもな。で、ローゲントはどうなんだ?」
「ある男が、蛇退治に加われと言ったんでな」ローゲントが思い
出すように言う。
「ある男?」ジルファーが興味を示して、聞く。
「俺をあっさりと倒した男さ」ローゲントがそう、苦笑する。
「じゃあ、リグラードはなぜ旅をしているんだ?」
「俺は父さんを捜すために旅に出たのさ」
「じゃ、父親が見つかったら、その後どうするんだ?」ジルファー
が続けて聞く。
「大陸で一旗あげるさ。それが子供の頃からの夢だったしな」
「凄い夢、持ってるんだな」ジルファーが思わず、感心して言う。
「俺は魔道戦士だ。今まで、魔道士や魔道戦士の国王がいなかった
から、俺が最初の魔法を使う国王になってやるぜ」
「なるほど。ま、がんばってくれ」
 ローゲントは元々無口で、ジルファーやリグラードも特に話す事
が無かったので、三人はそれから一言も話さなかった。
 次の日、蛇退治の軍は蛇達の巣くう山、ガルミッドへと向かった。
 その数はロガルド王国正規兵十万、義勇兵五万、傭兵その他一万
の計十六万であった。
 彼らがガルミッドに差し掛かると、すでにそこは無数の蛇達が這
いずり回る場所であった。辺り一面が蛇で埋め尽くされているため、
まるで大地が脈動しているかのように見えた。
 正規兵と義勇兵達はその光景に恐怖し、動く事ができなかった。
その中で唯一動いたのは傭兵達であった。
 彼らは自分達の最も得意とする武器を使い、蛇を切り裂き、潰し、
死へと追いやった。それを見て他の人々も我に帰り、各々の武器を
持ち直し、蛇達に襲い掛かっていった。
 しかし、いくら殺しても蛇の数は全く減らず、人々はまるでそこ
に世界中の蛇が集まったかのような、錯覚に陥り始めていた。
「ローゲント、ジルファー、いっそのこと、この山ごと焼き尽くし
ちまおうぜ」リグラードが一緒に戦っていた、二人のそばに近寄っ
て言う。かなり苛立っているようだった。
「な……、何を言ってるんだ?」ジルファーが驚きの声を上げる。
「うるさい、やるぞ! 炎の神グレンザードよ。我に如何なる物を
も焼き尽くす、神の炎を授け給え」
 リグラードの呪文の詠唱が終わると、目の前に巨大な炎の玉が現
れた。そして、リグラードが右手で指差した方向に、それは飛んで
いった。そして、蛇の山に飛び込むと、それは破裂して燃え上がっ
た。
 その後、炎は一瞬の内に燃え広がり、蛇だけではなく、人間をも
一緒に飲み込んだ。その後、山は二日間燃え続け全ての物を焼き尽
くした。
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