三人の王 第一章 旅立ち <8>
三人の王

第一章 旅立ち

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 首都バールの北西に、ザボルという港町がある。ザボルの人口は
元々百五十万人だったが、今は大陸からの難民によって、三百万人
にも脹れ上がっていた。
 そのため、物資の需要は激増し、バールから調達しなければ間に
合わなくなる程になっていた。
 そのザボルに、一人の青年がいた。その青年の名はレンゲス・カ
ナン、二十歳である。
 レンゲスは少し足早に、ある家に向かって歩いていた。
 数分後、レンゲスは目的の家に着いた。その家は普通の家よりも
大きく、館と言った方が良い位の家であった。その館の門の表札に
は、グアード・テンダーと刻まれていた。
「リグラード、俺だ! レンゲスだ!」レンゲスは家に入ると、奥
に向かって叫んだ。
「何の用だ?」しばらくして、レンゲスと同じ年頃の青年が、奥の
部屋から出てきた。
 その青年の名は、リグラード・テンダー。今年で二十歳になる、
若き魔道戦士である。
「で、何の用だ?」レンゲスを客間に案内し、レンゲスの向かいの
椅子に座ると、リグラードはそう聞いた。
「リグラード、旅に出るって本当か?」そう、レンゲスが身を乗り
出して聞く。
「ああ、旅に出る」リグラードは簡潔に答えた。
「なぜ?」レンゲスが不思議そうに聞く。
「なぜかって? 母さんも死んだことだし、父さんを捜しに行こう
と思ってさ」
「そうか……。じゃあ、当分は、会えなくなるのか」
「ああ、しばらくはな」
「当てはあるのか?」レンゲスが落ち着きを取り戻して、そう聞く。
「ある。父さんがバールからエンダーに向かって、歩いて行ったの
を見た人がいるのさ」
「もし、エンダーにいなかったら?」
「大陸に行く」リグラードがきっぱりと、そう言う。
「た……、大陸だって!」驚きのあまり、レンゲスは噎せそうになっ
た。
「どうした、レンゲス?」リグラードがそのレンゲスの反応を訝し
む。
「リグラード、大陸が今、どうなっているのか知らないのか? 普
通の人間なら絶対に大陸には行かないぜ。やめとけよ」レンゲスが
そう、リグラードを止めようとする。
「いや、どっちにしても大陸に行くつもりだったんだ」
「じゃ、もしかして……」
「そうさ。子供の頃からの夢をかなえるんだ。王になる夢を……」
リグラードは目を瞑った。闇の中に、夢に見た自分の王城が映し出
される。
「そうか。俺はおまえならその夢を叶えると信じてるぜ、リグラー
ド」
「ありがとう。おまえの事は絶対、忘れないよ」
「いつ、出る?」レンゲスが話を変える。
「明日。明日の朝日が上った時、ここを出る」
「わかった。見送りに行くよ」
 次の日、リグラードはザボルからエンダーに向けて、旅立っていっ
た。その日、後のゼルフィック王国、将軍レンゲスはリグラードを
見送ったのであった。
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