三人の王 第一章 旅立ち <6>
三人の王

第一章 旅立ち

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 気がつくと、ジルファーは薄暗い、通りを歩いていた。
 どこをどうやって来たのかは、覚えてはいなかった。まだ、遺跡
で聞いた事が、ジルファーの耳から離れていない。
 ジルファーは頭を振って、その事を頭から追い出そうとした。
 わからない事はわかるまで考えない。それがジルファーの主義だっ
た。
「もし、旅の方……」と、突然、ジルファーは横から声をかけられ
た。
「な……、何だ?」驚いて、ジルファーが声の主の方を見ると、そ
こには一人の老人がいた。
 その老人は白いローブを身に纏い、右手には炎のように赤い宝石
が埋め込まれている杖を持っていた。
「あんたのその頭に王冠が見える。あんたは必ずや王になるであろ
う」老人は何とも言えない、薄気味悪い笑みを浮かべた。
「変なじいさんだなあ」ジルファーは思わず、ぼそりと呟いた。
 しかし、老人の声に、なぜかジルファーは聞き覚えがあった。が、
どこで聞いたのかは思い出せなかった。
「いったい、あんたは何者なんだ?」ジルファーはぶっきらぼうに
聞いた。
「わしの名はロンド、魔道士じゃ。主に占いをやっておるがな」
「俺は占いなんか信じないぜ」
「あんたが占いを信じないのならそれでもよい。しかし、あんたは
必ず大陸で一国を治める王になるであろう。この炎の杖にかけて誓
うぞ」ロンドが右手の杖を高々と上げて、そう言う。
「わかった。わかった。もしも、俺が一国の王にでもなったら、あ
んたを宮廷魔術師にでも何にでもしてやるぜ」
「それはありがたい。その言葉、忘れるでないぞ」ロンドの目が一
瞬光ったが、ジルファーは気がつかなかった。
「おい、あんた」その時、ジルファーは後ろから、肩を叩かれた。
「何だ?」ジルファーは振り向いた。
「いや、さっきから一人でぶつぶつと話してたから、何かと思って
……」
「何言ってるんだ? 俺はこのじいさんと……!」と、ロンドの方
を見たジルファーは絶句した。
 そこに、ロンドの姿が無かったからである。
「いや、すまん。なんでもないんだ」ジルファーは急いで、その場
から離れていった。
 男は首を傾げながら、そのジルファーの後ろ姿を見ていた。
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