三人の王 第一章 旅立ち <5>
三人の王

第一章 旅立ち

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 ネクスは人口百万のロガルド王国では、最も小規模の都市である。
特筆すべき点は、古代王国の遺跡がある事である。
 ネクスに着いたジルファーはせっかくネクスに来たのだからと思
い、最初にその遺跡を見に行った。
 遺跡の近くには人影は無く静かだった。ジルファーはこの遺跡に、
古代王国の呪いが掛かっているという噂を思い出した。
 しかし、ジルファーはまだ若く、呪いの類を信じない方なのでそ
んな事は気にもせずに、遺跡に近づいていった。
 遺跡は円形の建物で、直径は五十mはあると思われた。
 その遺跡はジルファーの見た事もない金属でできており、白い色
をしていた。
 入口の扉が破壊されていたため、ジルファーはそこから中に入る
事ができた。
 建物の中は中心に直径十m程の円形の台のような物があり、奥に
は何かの装置が置いてあった。
 ジルファーは興味をそそられ、その装置の前に近づいていった。
すると、突然、ジルファーの両側の床から二つの装置が迫上がって
きた。
「な……、なんだ?」これには、さすがにジルファーも驚いた。
 そして装置の動きが止まると、今度は目の前の壁が様々な色を発
したため、眩しさにジルファーは目を細めた。
 しばらくして、ジルファーの目の前の壁が黒いガラス板の様な物
に変わっていた。
 ジルファーが困惑していると、そこに白い服を着た老人が映し出
された。ジルファーはあまりの驚愕のために、声も出せなかった。
「我々は……。我々は何と言う事をしてしまったのだろうか……」
と、その老人は深刻な顔をして、話し始めた。
「これを見ている者は我々の子孫となるのか、それとも人類はすで
に絶滅していて、他の知的生物なのか……。私にはそれはわからな
い。私のこれから話す事を理解できる者達である事を祈ろう……」
老人はそう言うと、押し黙った。
 その老人からは、何かを恐れているような表情が見て取れた。
「まず、奴について話す前に我々が何を研究していたかを教えよう。
最初は……、そう、最初はただの遺伝子操作だった。そして、その
研究で自信をつけた我々は、次に生命を作り出そうとした。そして、
最初に生み出した生命体は鉄の鷲だった。その成功で我々はますま
す増長していったのだ。そして、我々は伝説の生物、龍をも生み出
すまでになったのだ」老人はそこで、言葉を切った。
 その表情からこれから話す事が、とてつもなく重大な事だと言う
事が、見て取れた。
「そして、最後に我々が生み出してしまった生命体……。それは人
間の姿をした悪魔だった」そこで老人は手で顔を覆った。額から汗
が滲み出ていた。
「我々は、奴にジャークという名前をつけた。ジャークは最初の一
年間は愛らしい子供だった。だが、それは我々を欺くための演技だっ
たのだ! ジャ−クはたったの一年で青年に達し、突然、我々に牙
を見せたのだ。私はその時、その場にいなかったので難を逃れた」
老人は服の袖で汗を拭い、目を瞑った。
「そして……、そして、私は監視モニタの記録で、ジャークが所員
を皆殺しにし、研究所から逃げ出した事を知った。我々はこれから、
ジャークを宇宙の果てに追放する。それまでにまた何億もの人間が
殺されるであろう。もしも、誰かがこれを見ているとしたら、我々
の勝利に終わったという事だろう。私は警告する! ジャークに二
度とこの星の大地を踏ませてはならん! 奴の力の源は、宇宙その
物だ! 奴と戦う事は、宇宙と戦う事だと思え!」そこで、突然、
老人の姿は消えてしまった。
 ジルファーはしばらくその場から離れる事ができなかった。ジル
ファーはただ呆然と立ち尽くしていた。
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