龍の契り | 服部真澄 祥伝社ノン・ポシェット 2001.05.23 |
服部真澄は、やはり上手いと思う。彼女のノンフィクション小説「骨董市で家を買う ハットリ邸古民家新築プロジェクト」を読んだ時に感じた絶妙の語り口に惹かれ、国際謀略サスペンスという初めてのジャンルに手を出す事になったのだ。そして、この650頁にも及ぶ長編を、思わず徹夜して読んでしまった。
話は飛ぶが、「ゴルゴ13」という漫画が、私は苦手だ。題材自体は時に面白いと思う事もあるのだが、あの、現実の事件の中に不自然に入り込んだフィクションという構図が、変に居心地の悪さを感じさせて、どうにも好きになれないのだ。そして、国際謀略サスペンスというジャンルが、皆そうであるのかは知らないが、少なくとも「龍の契り」は、その“現実の事件の中に不自然に入り込んだフィクション”という構図を踏襲している。名前こそ出ないけれど、誰でも知っているあの話…まで織り込まれ、もう少し歴史をきちんと勉強していたら、もっと面白かったのか、はたまた尚更に居心地の悪さを感じたのか、という感も有る。
しかし、服部真澄の語り口は、そんな私の不得手をも抑えて、650頁余を息も付かせず読み切らせてしまった。複数の登場人物の名前や関係を、どうも上手く覚えておけず、すぐに物語が解らなくなってしまう私にすら、彼らの役割を見失わせない描写とストーリー。多分服部真澄という作家は、非常に整然とした書き方をしているのであろう。もしかすると、多読のミステリ読みや、謀略物の好きな読み手にとっては、平易過ぎる展開なのかもしれない。しかし私にとっては、期待に違わぬ作家であったと言えよう。
問題は、既に出ている「鷲の驕り」「ディール・メイカー」をどうするか…という事である。ノベルスででも読むか、文庫落ちを待つべきか…。思案のしどころではある。