−鵜飼−
それでいきなり出てきたのが「鵜飼」。実はこの鵜飼、けっこうそれなりに近間でやっておりまして、嵐が来たりすると近隣の駅に「中止」のお知らせなんかが張り出されるくらいだったりするんですが、実物は一度も見たことがなかったのでした。そして時々「行きたい熱」が盛り上がる動物園。少し前に赤ちゃんが生まれた…という話もあって、ぜひ見に行こうという、これがまあ“ちょっとした動物記”の実態なのでありました。
鵜舎は、いわゆる動物園の(一種類な)鳥のオリよりも小さくて天井も低くて、それでも真ん中にはコンクリでできたプールがあります。でも昼日中だと外側の網越しでは薄暗い中の様子はいまひとつ見えづらくて、黒い鵜が十数羽バタバタしてるのがかろうじて確認できるだけなのでした。これでは何の気無しにこの辺りを通りかかっても、あまり興味の持ち様もないかもしれません。 暗い川面を松明で照らしその明かりに寄ってくる小魚を鵜が捕獲する、というその漁法故、鵜飼は日が暮れてから行うもんですが、一応それなりに観光地でもあるその辺りが、お盆まっただ中、混んでるのか空いてるのか皆目見当も付かなくて、ちょっと早い目に行ったら揃いの黒Tシャツ(背中に鵜の絵)のおっちゃん達が暇そうにうろうろしてましたよ。 人出はかなり波があるんだ昨日は貸し切り船が多くてね乗り合いの方は乗れない人も居たよでも今日は貸し切りが一艘も無いからゆっくりでも見てもらえるよとはそのおっちゃんの話で、それならずいぶん運がよかったと言いつつまだ明るい中あたりを散策していた時に見つけたのが前述の鵜舎なのでした。 しばらくすると鵜舎の近くに一艘の小舟が近付きます。鵜舎の裏には円筒形の竹籠がいくつかあって、しばし鵜舎で動きがあった後4つの籠が小舟に積み込まれるのが遠目に見えます。それから小舟は中州と対岸を結ぶ太鼓橋のたもとに繋がれて、また動きが止まるのでした。ちなみにその小舟には同じ黒T着たお姉さんが二人。船を舫−もや−う手つきがちょっと危なっかしかったのは新人さんだから?と思ったのが見立て違いだったのかは未だに判りません。
お客さんの乗る船は、定員30人強の屋根付きの小舟。ボートの腰掛けみたいなのは無くて一面ゴザ敷の片隅に靴を脱いで座ってしまうタイプです。前と後ろには黒Tのおっちゃんが一人ずつ、エンジンは無さげです。早めに満杯になった一艘目はさっさと船着き場を後にして少し上流に進みます。ほどなくして中州との間で行き止まりに。え?こんな淀みでやるの?と思っているとおもむろに方向転換。要するに何艘かまとまるまでの時間稼ぎというわけね。 そこからまた下流に流れていくと、さっきの籠積んだ小舟もそっち方面に移動してるじゃありませんか。船には人が3人。例の黒Tのおっちゃんらしきが2人と、黒っぽいの袴姿の女性が1人。あちこちに貼ってあるポスターともらったチラシからすると、この女性がメインの鵜匠さんに違いありません。その女性ともう一人が籠から鵜を順番に出していきます。暴れるその首根っこを押さえつつ、首に紐を巻いて行くのです。紐が付いた鵜はまた籠に戻されました。そして鵜匠と思しき女性が腰に長い目の腰蓑を巻くのが見えます。まだ明るさが残る中でのそれらの光景は、当然船が繋がれた岸辺から見た方がよほど良く見えるわけで、そのあたりには勝手知ったる?お金を払ってない人達がカメラなんかも構えて群がっているのでした。 そしてまた鵜の乗った小舟とお客の船が移動していきます。お客の船も徐々に増え、結局つごう4艘が揃いました。実はその内の一艘に、おっちゃんではなく明らかに鵜匠の格好した女性が乗ってるヤツがありまして、肉声でなにやら解説しながら流れてきたのですが、それが急遽作られた貸し切り船だったのか単に運がよかっただけの乗り合いだったのかは最後まで判らずじまいで、ちょっと羨ましくて「ずるいぜ」と思ったのは事実だったり。気がつくと4艘の船は一列に連なって、鵜の小舟は別の対岸側で対峙する格好になっていたのでした。
改めて黒い頭巾に布を頭に巻いた鵜匠の女性が、松明を背景に片手に鵜を止まらせて簡単な解説を始めます。これは流石にマイク使用。曰く、鵜はペリカンの仲間でクチバシの代りに喉のあたりに袋様のものがあるんです、鵜匠の衣装が黒っぽいのは鵜を驚かせず水中の魚にも姿を見えにくくするためです、鵜が獲るのはアユだけでなく他の小魚も、最近ではブラックバスなんかも捕まえます、漁が始まると鵜がみなさんの船にも接近しますので頭以外なら触ってみてください… て、触っても良いのかよ!! そして鵜飼の船は、縦に連なった客船の先頭の方に去って行ってしまいました…。と、要するに並んだ客船の横をゆっくり移動しながら一周する、という形式でして、これだと船のどっち側に座った人にも平等に見てもらえる、触るチャンスもやって来る、というわけなのでした。 行ってしまった向こうの端の方からトントントントンという何かを叩く音が聞こえてきます。しばししてワーッとわき起こる歓声と拍手。それが松明の明かりとともに徐々に近付いてきました。紐で繋がれた鵜が7〜8羽、水面をばしゃばしゃとやっています。確かにけっこう長い紐で、その紐を鵜匠が手元でひとまとめにして持っています。船を操るおっちゃん達が時々船縁や籠のフタをトントントントンと叩き、ホウホウホウともカウカウカウともつかない声も発しています。鵜は時々水中に潜ってはいますが、意外に客船の方に興味津々で、しきりと寄っていこうとするのを紐で引っ張り引き戻されていくのです。 松明はかなり低く垂れて、鵜の頭が焦げないか…と心配になるほど。そんな中、かなり鋭く曲がったクチバシに魚をくわえたヤツが出てくると、鵜匠は器用にその一羽の紐をたぐって鵜を船の上に引き上げます。そして「はい、吐かせますよ」の声のもと、喉を押さえて魚をぽろっと吐かせます。そこで拍手〜! そして鵜はぽーんと放り投げられて水面に戻ります。いやぁ、紐がよく絡まないもんです。その辺も鵜匠の技術の見せ所なのでしょう。ちなみに鵜の鳴き声は、ア゛〜ともグワともつかない、アヒルよりもっと野太い声でした。 鵜匠の船はゆっくりと船列の片側を二往復して、それから反対側を二往復します。あたりは真っ暗。松明の明かりだけがこうこうと照って、近くの岸から見ている人もけっこう居るようですが、実際の鵜の動きはたぶん客船からしかほとんど見えないと思われました。そして最後がやってきます。この時だけはなんとなく、魚を捕らせる、というよりはお客さんとの触れ合いが主になるのか、鵜飼の船も相当に接近して、鵜も船縁ぎりぎりまでやって来ます。そっと背中に触った人達が口々に「柔らか〜い!」と感激してました。 ちょっと早めに乗った一番船は鵜飼の列では最後尾でしたけれど、船着き場に戻るべく動き出すと鵜匠の船も併走して戻っていく形になって、ちょっとだけ得した気分。向こうは鵜舎近くの岸で止まり、こちらは船着き場へ。これで鵜飼の終了です。
鵜達はかなり興奮しています。当然状況が判っているんですね。鵜匠のお姉さんが上がってきます。ご出勤な鵜の籠も戻ってきます。そしてお姉さんが手にしているのは… さっき鵜飼で獲ってきた魚が入った赤いバケツ。それを見た鵜舎の鵜達の興奮はピークに達します。そう、あの獲ったお魚はどうするのかなぁ…という疑問がここで解決されるのです。 お姉さんが鵜舎の扉を開けて、そのバケツの中の魚を鵜舎の中に投げ始めました。鵜達は一斉に飛びつきます。プールの中に追いかけていくヤツもいます。次々とお姉さんの方に突進していきます。なんとあのお魚は鵜舎に残ってた鵜達のお食事になっていたのでした。昔鵜飼はちゃんとした狩猟のひとつであって、当然鵜が獲った魚は人間が食すものだったのでしょうけれど、昨今はすっかり観光のためのイベントと化している上に、見たところ魚もかなり小振り。バケツに目一杯という量にもほど遠く、また環境的な要因もあるだろうしで、一日一回のイベントで人の食卓に上げられるような内容は無理なんだろうとは思えました。 が、当然、鵜の方はそんな事は知っちゃいません。お姉さんの持つバケツをひたすら物欲しげに追いかけます。そしてお姉さん曰く「もらってない子居る〜?」。すかさず、も一人のお姉さんが「そんなん言うたらみんな手ぇあげるわ」。そらそうだ。とうとう空になったバケツ。でもまだ欲しがる鵜。お姉さんはバケツの中を見せつつ「はい、もうお終い」とか言ってますが、まだ諦めきれないのが扉から顔を出します。それを押し戻すお姉さん。未練がましくバケツを追いかける鵜。「また明日ね」と説得するお姉さんは、さながら幼稚園の先生みたいなのでした。 それからおもむろに、籠に入っていた鵜が戻されます。籠は真ん中に仕切りが付いていて、ひとつの籠に2羽、合計8羽が今日の出勤部隊だった模様。それも全てが戻されて鵜舎の扉が閉められます。ネットで調べたところだと、鵜飼の紐は微妙に調整されていて、小さ過ぎる魚は喉では止まらず完全に飲み込んでしまうとのこと。出勤してた鵜達は、実は結構吐かせられない小魚をお腹いっぱい食べてたのかもしれません。だってね、鵜匠さんが船まで引っ張り上げたのに吐かせなかった鵜もけっこういたもんね。 ぼちぼち帰宅の途につく対岸から鵜舎を見たときには、もう灯りは消えてました。そんなに言うほど遠い所じゃないし、お金払ってまで見る価値があるんだろうか…と思いがちでしたけれど、近くでしっかり見ないと、体験してみないと判らないことって、やっぱりあるんだねと思いました。それから最後まで、見られるところ全部見ないとね、というのもつくづくと。なかなか良いものを見ました。川から離れたらまた暑さが襲ってきたけれど、川の上は涼しかったですよ。鳥としての鵜も興味深いものでした。シーズンオフの鵜舎がどうなってるのか、何かで行ったときには観察してきましょう。 |