第43話 クーデター


 さてさて、エジンベアにてサスクハナ号(ちっとも出てこなかった名前ですね)と合流した勇者一行は、大海原を西へと進みます。商人が作った新しい街へは、距離的にはスーの方が近いのですが、道のりはエジンベアからの方が近いんです。なにしろ、くねくね曲がる河を下らなくていいというのは、船員も操舵がラクチンですし、プレーヤーもキー入力がラクチンです。


ひでかず(以下、ひで)「船長は幽霊船の話、聞いたことない?」
船長「う〜ん、その手の話ってありふれてるんですよね」
ひで「ここ最近、妙な船が現れたとか……」
船長「聞きませんね〜、ただ幽霊船の本拠地というか、昔から噂の絶えない地域っていうのはありますね」
ひで「どこです?」
船長「ロマリア周辺の地中海です。昔の戦争でずいぶんと軍艦も民間船も沈みましたから、その怨念が残っているんじゃないか、と」


 そうなんですね〜、幽霊船の昔話はけっこうポピュラーで、今じっさいに幽霊船がそこにいる!というような情報は、まず見つからないんです。


ほだか(以下、ほだ)「……で、だ。おかしいな、と思ったその乗組員が乗り移ってみると、そこには誰もいなかったんだ」
船員「……ごくり」
ほだ「なのに、食堂には食事の支度がしてある。スープは冷えていても、パンが固くなっていないからそんなに前に準備されたものではない、とその乗組員は首を捻って、今度は洗面台に行ってみた。すると、かみそりがケースから台の上に出されていて、シェービング・クリームも泡立てた跡があった」
船員「……ふぅ」
ほだ「あまりに異常なので、今度は船長室へと行ってみた。すると、航海日誌が書きかけのまま、机の上に置いてあったんだ」
船員「か、書きかけですか……」
ほだ「そうなんだ。それも、インクの渇き具合や内容から察すると、その乗組員の船がマリー・セレスト号を見つける直前に書かれたらしいんだよ。生活の匂いを残したまま、客船マリー・セレスト号の乗員乗客全員が、文字通り煙のように消えてしまったんだ」
船員「で、でも、海賊の仕業かも……」
ほだ「ところが不思議なことに、乗客の持ち物は全く荒らされた形跡がなく、救命ボートもそのままの状態で見つかった。また、マリー・セレスト号が他の船と接触した様子も、なかったんだ……」
船員「うわーっ、怖い!」


 なんかこっちは勝手な話で盛り上がってますが……ちなみに、ここで言うマリー・セレスト号の謎は実話です。昔、本で読みました。でも、それは全然関係のない話ですね。


まさはる(以下、まさ)「船の墓場、サルガッソ海域はどうかな?」
ともき(以下、とも)「は?」
まさ「だからサルガッソだよ。特殊な海藻が繁茂する水域で、そこに入った船は舵やオールを海藻に絡めて出てこられなくなるという場所さ」
とも「……で?」
まさ「なんだよ、ずいぶん冷たいなぁ。俺だって必死に考えてるんだろ?」
とも「いや、だからそのサルガッソってどこにあるんだよ」
まさ「……知らない」


 なんだか勝手な話に発展しています。そんなことをやっているうちに、ポンタの作った街へと着きました。


とも「うわっ、ずいぶん発展してるなぁ!」
ほだ「名前にセンスがないよな、しかし」


 ポンタの街はずいぶんと発展しているような感じです。以前、建設中だった劇場も完成しています!発展速度がすごいですね〜。


まさ「劇場か〜。ちょっと覗いてみようぜ!」


 まさはるは劇場のドアを開けます。中からは陽気な歌声が聞こえてきます!

*「どうぞ お通りください。

まさ「ああ、ありがとう」
ほだ「へえー、いい感じの建物だねぇ」


 勇者たちが中にはいると、ピンク色のライトとお酒の匂い!そしてお客に酒を勧めるバニーちゃんの姿が!


ひで「……ちょっとこれはやりすぎじゃない?」
まさ「……さすがに、ここまであからさまにやられると、背徳感も何もないよな」
とも「アッサラームみたいに夜ならともかく、昼間っからこんなところは良くないよ」
ほだ「じゃあ出ようか……ってあんた、邪魔」


 と、ドア脇にいた男がもみ手をしながら、道を塞ぎます。

*「お帰りですか? それでは
  お代を ちょうだいします。

とも「代金?入場料はいくらだい?」

*「しめて 50000ゴールド。
  はらって いただけますね?


ほだ「なに?内訳は?4人だけだぞ、入場料だけでそんなになるか!」
ひで「あ〜、そんなことよりもポンタに文句言おうよ、会ってちょっと意見してやらなきゃ」


 と、男の顔色がサッと変わりました。

*「おや?ポンタさまの
  お知りあい でしたか。
  いや〜 これは これは……。


 汗を拭き拭き、道を譲ります。が、勇者たちの胸には、ポンタへの疑念が沸き上がりました。

とも「いくら利益重視でも、こんなあこぎなことは駄目だよな」
まさ「ガツンと言ってやる必要があるな」


 そんな風にぷりぷりしている勇者たちをみつけて、一人の老人が駆け寄ってきました。

*「おお あなた! わし わし!
  ここ はじめから いた じい!

ひで「ああ、どうもご無沙汰しています!」

*「ポンタ よく やる。
  しかし やりすぎ……。
  町の者 よく 思ってない。

まさ「だろうな。さっきも劇場でボラれそうになったし」

*「わし とても心配。

ほだ「でしょうね……じゃあ、僕たちから少し言ってみますよ」


 勇者たちは老人と別れて、豪邸へとやってきました。門番までいて、警備も万全みたいですね。

とも「きっとここだろう。悪趣味な豪邸だよまったく……」



 ポンタは勇者一行を歓迎しています!

ポンタ「でも まだまだ やります。
  まあ 見ていてください。

ほだ「……でもさ、ちょっと強引すぎないか?劇場の会計は不明瞭だし、こんな豪邸作っちゃって、町の人の反感買うよ」
ポンタ「そうですかね……発展途上にはいろいろと問題が出るものです。強引に思えても、後々振り返れば良い選択であったと判るんですよ」
とも「???関西弁、やめたの?」
ポンタ「ええ、いつまでも方言では、商業都市にはそぐわないですから」
まさ「……それはいいとして、幽霊船についての噂を聞かないか?」
ポンタ「……いいえ、ここ最近は町の整備に手一杯で、情報も集められないんですよ」
ひで「そうか、ありがとう」


 すっかり様変わりしたポンタに興味を削がれた勇者たちは、気の抜けた顔でポンタに背を向けました。あまりの変わりように、がっくり来たんですね。


ポンタ「あっ、近日中にものすごい出物が手に入りますので、期待して待っててくださいね!」


 ひでかずは手をひらひらと振って、豪邸を出ました。みんなため息なんかついています。


まさ「……まぁなんて言うか、とにかく成功してるんだから、良かったんじゃないの?」
とも「ああ、彼は彼なりに生きていくことに精一杯なんだよな。地に足の着いた生活をしていない俺たちに、ポンタを非難する資格なんてないのかもな」


 勇者たちはげっそりした顔で宿屋へ向かい、やりきれない思いを発散するかのように大フィーバー!すると、隣の部屋にいた吟遊詩人も加わって、いつの間にか歌って踊る大宴会になっていました。さんざん楽しんだ吟遊詩人、肩で息をしながらにっこり笑います。

*「うわさでは シルバーオーブは
  ネクロゴンドの ほこらに……。

ほだ「へぇ、そうですか!それは知らなかったナァ!!」


 勇者は酔っぱらっています。

*「しかし そのほこらは
  あの ネクロゴンドの山の
  いただきにあると いいます。

まさ「おぅ、根暗なゴンドウ?ギャハハハハ、誰だそれ!」


 ……武闘家も、酔っぱらっています。

*「あんなところに たどりつける者が
  いるとは 思えません。

とも「なら俺たちが行ってやるぜ!なぁ!?」
ひで「……みんな、もうやめておいた方がいいよ、明日二日酔いでまともに戦えないよ?」

 戦士ひでかずだけは、お酒が苦手なので飲んでいないのです。吟遊詩人は言いたいことだけを言ってしまうと、そのまま床に大の字になっていびきをかきだしました。


ひで「まったくもう、酒臭いなぁ……ちょっと外に出てくるよ」


 ひでかずは宿屋を抜け出しました。満天の星空の下、静かな夜の町を歩きます。……と、何かヒソヒソと話す声が聞こえます。ひでかずは声の方へと歩いていきました。

*「……してしまうのは
  どうだろう?


*「しかし それでは
  あまりにも……。


*「だが このままでは……。


 なんと、町の南西にあった牢屋の影で、男たちが三人、なにやらひそひそ話をしています。

ひで「あ、あの、何を話してるんですか?」

*「ポンタの やりかたは
  あんまりです!
  ぼくたちは もう
  たえられませんよ!


*「こうなったら 革命を
  起こすしか なさそうだ。
  あんたたち 止めても ムダだぜ。
  オレたちゃ やるっていったら
  やるんだ!


*「この話……他言は
  なりませんぞ!


 ひでかずはそれを聞いて、宿屋に走って戻りました。

ひで「みんな大変だよ、クーデターが起きる!ポンタが危ないよ!」
ほだ「んにゃ?クレーターが墜ちる?」
まさ「食えたら起きる?」
とも「もう食えない……だから寝る……」


 全く役に立たない仲間を置いてポンタ邸に向かいましたが、門番が中に入れてくれません。だんだん眠くなってきたひでかず、しかも門番のそっけない対応に猛然と腹が立ってきました。


ひで「もう知らない、僕は寝る!後悔したって遅いからな!」


 そして次の日……町がざわついています。どうしたんでしょう?


まさ「えっ、どういうことだ?」
ひで「……クーデターだよ」


 町のあちこちに武装した男たちがいます。そして、牢屋の中にはポンタが!

ポンタ「やあ ほだかさん。
  私ですよ ポンタです。


ほだ「ど、どうしたんだ、どうして牢屋なんかに?」
ポンタ「私はみんなのためと思ってやってきたのですが、このありさまです……」
とも「……仕方がないと言えば、仕方がないんだろうね。町が大きくなれば人が集まる。そして、人が集まれば違う意見だって出てくる。これから時間が経って、デメリットよりもメリットが多かったと町の人が思えば、いつか外に出られるよ」
ポンタ「あっ、そうそう!私の屋敷の、椅子の後ろを調べてみてください。私はもうしばらくここで、私の何がいけなかったかについて考えてみます。町の人もいつか、私を許してくれるでしょう」
まさ「そうだな……誰だって最初から成功はしないんだ、失敗を反省して成長がある!」
ポンタ「……そのとき、また私に会いに来てくださいね」


 ポンタは淋しく笑うと、牢の奥へと戻っていきました。牢屋のカギは、勇者たちの持っている『最後のカギ』なら開けられるのですが、あえてそのまま牢を立ち去ります。


ひで「……じゃあ、ポンタの言ったとおりに、屋敷を調べてみるか」


 玉座の後ろの板を外すと、そこからは油紙にくるまれたスイカ大のものが。包みを開けてみると……

ほだ「ポンタの言っていた『すごい出物』って、これのことか」
まさ「……彼なりに、俺たちに協力してくれていたんだな」
ひで「残るオーブはあと一つ、ネクロゴンドの山頂にあるというシルバーオーブ!」
とも「……しかし、結局幽霊船の情報は掴めずじまいか」


 ともきは腹立ち紛れに、『変化の杖』と交換で手に入れた『船乗りの骨』を指でパチンと弾きました。すると骨はくるくると回り始め、目盛りに数字が現れました!


とも「なんだこりゃ?『南に24、西に74』だって?」
ほだ「なんだいそりゃ」
とも「知るか、いきなり数字が出てきたんだもの」
まさ「ううむ、このアイテムの名前は『船乗りの骨』……きっと、元々の持ち主が乗っていた船の場所を、指し示しているのかも知れないぞ!?」
ひで「なんか論理が飛躍している気がする……」
ほだ「……まぁ、他にヒントもないし、その座標がどこなのか調べてみるのも悪くないと思うな」
とも「でも、この単位が判らないぞ。24ってなんだ、24キロメートルか?それとも240メートルか?」



 一同は頭を抱えましたが……まぁとにかくということで船に乗り込みました。さぁ、『船乗りの骨』の指し示す場所には、いったい何があるのでしょうか!?といった所で今回はおしまいです。さてさて、これからどうなりますやら。


 では、次のお話でお会いしましょう。
 世界がこのまま平和でありますように……









次回予告



 海底に眠る沈没船。その中にあるという、エリックとオリビアの思い出の品……しかし、海流は激しく、近寄ろうとする勇者たちを固く拒んでいた。冷たい水、そして溢れる海の魔物……そう、エリックとは海王の嫡男であり、人間であるオリビアとの愛は、許されざるものだったのだ!



ひで「元アリアハン中学水泳部の実力を見せてやる!」
まさ「渦が激しいから気をつけろよ……ハックション!」


???「大人がそうやっていつまでも頭が固いから、若い者は苦労する!」
???「エルフの小娘ごときが何を言うか!」
ほだ「やめろ、何をする!」


とも「俺は……俺は間違ってなんかいない!」
???「誰もがそう言うよ……そして死の瞬間に、己の過ちに気づくのさ!!」



 エリックも、そしてオリビアも既にこの世に亡く、海王は痛恨の涙を流す。その光景が、かつてエルフの森でもあったことに勇者は気づき、人という命の悲しさと報われぬ愛の切なさを噛み締める。
 殴られてみなければ痛みが理解できないと言うのは、あまりにも悲しすぎることだと……


 次回、ドラゴンクエストIII「潮の底に流れた鎮魂歌」、ご期待ください!
 (内容及びサブタイトルは変更になる場合があります。ご了承ください)










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