第40話 勇者の系譜
海は静かに、そして厳然と勇者たちの面前にあった。波間を行く船の揺れ、船酔いさえなければその周期的な動きは人の心に平安を呼び起こす。 戦いとは無縁の、この一瞬は勇者たちの心を落ち着かせた。 「いい天気だよね」 戦士は、潮風に武器や防具が錆び付かないよう、手入れをしながら目を細めた。 「魔物が出ない海って、こんなに気持ちのいいものなんだね」 勇者のトヘロスの呪文によって、周囲一帯は聖空間になっている。そのため、低級な魔物は船へと近づくことすらかなわないのだ。 「青い空、白い雲、そして広がる紺碧の大海原!」 甲板に寝転がって、戦士は潮風を胸一杯に吸い込んだ。 「でも、嵐の海は大変ですよ」 船員がからかうように言う。 「それこそ、大地震じゃすまないくらいの揺れが来ますからね」 「緑の大地に寝っ転がるのも気持ちいいけどさ、潮風に吹かれるのも楽しいよ」 「そうですね……でもあっしらは、緑の大地が恋しいですよ」 「いつも陸にいる僕たちとは、逆なんだね」 船員は笑って、船室へと入っていった。戦士は磨いていた剣を鞘に収めると、舷側から海面を眺めている賢者へと近寄る。 「何か面白いものでも見える?」 「ん?違うよ、魚釣りだ……豚肉の塩漬けにはもう飽きてきたからな、別の食材を探しているんだ。あんまりうるさくするなよ、魚が逃げる」 「はいはい」 戦士は言って、糸の先の浮きに注目した。釣り竿を使わない漁法は、戦士が初めて目にするものだ。ロマリア地方に伝わる漁法である。 「サマンオサには、どう行くか判る?」 「俺が知るかよ……とりあえずアリアハンに戻って、あちこちの扉を開けるのが先決かも知れない。昔、城の資料で読んだんだが……アリアハンの国王とサマンオサの国王が連絡を取り合うための秘密ルートがあったらしい。もしそれが本当なら、それを使って行けばいい」 「なるほどね」 賢者は頷く戦士に、釣りの道具を差し出した。 「納得しているヒマがあったら、お前も釣りを手伝え」 ![]() 水平線の向こうに煙を見たのは、武闘家だった。 それは確かに燃えさかる炎と煙に思えて、武闘家は大声を上げた。 「船長、向こうで火事だ!」 乗組員たちが甲板に出てきて騒然とする中、船長が双眼鏡で水平線を見た。 「救難の旗信号を上げています!きっと船上火災でしょう、急行します!」 「任せた!」 勇者は言って、舳先で呪文を唱える。魔物が出てこないように、もう一度トヘロスを唱えたのだ。 「しかし、こんな時期に商船が出ているというのが判りませんな。一般航路からずいぶんと離れていますし、公的な商船であれば普通は護衛のために軍艦がついているはずなんですが」 「でも、回りにいる船が俺たちだけだったら、助けないわけにはいかないんだろ?旅の遅れなんかいくらでも取り戻せる、今は人命優先だ」 「はい」 船長は感謝の笑みを漏らすと、次の瞬間は部下に指令を飛ばす、厳しい船長の顔に戻っていた。 船が目視できる距離までくれば、だいたいどのような状況なのかは判る。護衛の軍艦ばかりが被害を受けていて、商船にまるでダメージがないという状況は、その海賊の手腕がいかに優れているかということの証明でもあった。 「海賊船だって!?」 勇者は悲鳴混じりに怒鳴った。 「こんな時代に、よくやってくれるよ!」 船上火災だと思われたそれは、海賊からの攻撃で軍艦が燃える、その炎だったのだ。しかも、よく見ればその軍艦は、砲を商船にも向けていた。 「いかん!船長、急いでくれ!」 しかし、砲は発射され、商船の甲板で大爆発がおきた。海賊船からの砲撃で軍艦はさらに大きく燃え上がり、ついには沈没を始める。救命ボートで脱出した兵士達に、商船へと移乗した海賊たちが弓矢の雨を降らせた。 「冗談じゃない、こんなのは一方的な虐殺だ!船長、あの商船に横付けしてくれ!あいつら全員とっつかまえてやる!」 「えっ!?」 武闘家は早くも武器を手に、いきり立っている。 「お前たちも早く用意しろ!」 「おう!勇者さまの目の前で、よくもやってくれるよ!」 船が横付けされ、勇者たちは一気に海賊たちへと躍りかかる。勇者たちの船は、彼らが乗り移ったのを確認してからそっと離れた。海賊が乗り移ってくるのを、防ぐためである。 「我こそはアリアハンの勇者オルテガが一子!無用の殺戮を行う海賊共め、この勇者が成敗してくれる!」 「なっ、勇者だと!?」 海賊たちに同様が走る。勇者たちは、甲板にいた民間人を背中にかばうようにして、海賊たちと対峙する。 「みなさん、もう大丈夫です。この僕たちが来たからには、ウグッ!」 突然、戦士が妙なうめき声を上げて崩れ落ちた。 「どうした!……えっ!?」 賢者が見たもの、それは武器を手にした民間人たちの姿だった。戦士はこんぼうで殴られて卒倒したらしい。 「な、なんだ、どうしたんだ!?僕たちは、あなたがたを助けに……」 勇者たちに飛びかかる民間人たち。アッという間に、勇者たちは気絶したままぐるぐる巻きにしばりあげられてしまった。その姿を見て、海賊たちはせせら笑う。 「こいつらどうしやす、おかしら?」 「参ったな、最初の手はずとはずいぶん違っちまったよ……まぁいい、このままアジトに連れて帰るぞ」 「えっ、本気ですかい?ほどかなくって、いいんですか?」 おかしら、と呼ばれた黒マントは、その覆面の奥でクスリと笑った。 「もし本当にこいつらが勇者なら、どんな扱いでも本当のことを聞けば黙っちゃいないさ」 頭がズキズキする。賢者は、前の晩にワインを飲み過ぎたかな、と苦笑して、頭に手をやろうとした。できない。手が動かない。手に力が入らないとか、手の感覚がないというのではない。何かによって拘束されているのだ。 そう気づいた時、賢者は体のあちこちをロープで固定され、冷たい石の床の上に転がされている自分の状況に、気づいた。 「ん?」 一瞬の混乱の後、自分たちが眠る……意識を失う直前に何をしていたのか、はっきりと思い出した。海賊を商船から追い出そうとして、なぜか民間人に襲われたのだ。 暗い牢の中でも、しばらくすれば目は慣れてくる。そこは独房ではなく、そこそこ広い空間だった。勇者も、戦士も、そして武闘家も、しばられたまま気を失っていた。 「しかし……猿ぐつわがなくてよかったよ」 賢者はモソモソと言うと、気を集中して、小声で呪文を唱える。 「ザメハ!」 とたんに、仲間たちは目を醒ました。ザメハ、それは覚醒の呪文である。 「おや?ここはどこだ?」 「いてててて……頭が痛い、あっ、コブができてる!!」 「んなっ、なんだこのロープは!?コラ、誰か来い!ほどけ!」 武闘家は暴れてみるが、ロープは切れず、しかも誰も来ない。 「呪文で切れないのか?」 「抗魔法繊維でできてるから、無理だ」 賢者は静かに言うと、目を閉じて記憶の糸をたぐる。まずは軍艦が商船に発砲した事実、そしてその旗に記されていた紋章、民間人たちの驚きに似た目の色…… 「しかし、なんで俺たちこんな所にいるんだろ」 武闘家がポツリ、と漏らす。戦士も武闘家も勇者も、商船に乗っていた一般人に襲われたことに気づいていないのか?賢者は目を開ける。 「海賊に捕まっちゃったのかな?」 「たぶんそうだろう……気づいているか、俺たち、あの時に商船にいた民間人にやられたんだぜ」 「それは僕も見た」 勇者は後頭部の痛みに顔をしかめながら、ため息をついた。 「海賊どもに人質を取られていて、やむを得なくやったのか、それとも彼らの意志か……」 「そんな!人を疑うなんてよくないよ!」 「だが、戦艦が商船に発砲したのも事実だ」 非難の声を上げた戦士を制して、武闘家が言う。 「海賊船に発砲するなら判る。護るべき商船に海賊が乗り移ったとしても、まさか大砲を撃つような馬鹿な真似は、どこの兵士でもしないだろう」 「となると、あの商船は偽装商船ということかな。民間人に変装した海賊が乗っていたとか」 「いや」 賢者は、今の勇者の言葉の中に何かヒントを感じた。 「民間人の中には老人も子供も、乳飲み子の姿さえあった。そいつは不自然すぎる。でも、あの商船と海賊船が繋がっていたというのは、あり得るな」 などと喋っているうちに廊下の向こうが明るくなり、二人の人影が現れた。薄れゆく意識の中で最後に見た黒ずくめの人物、そしてパリッとしたスーツに身を包んだ、おとなしそうな青年。 「ほう、気づいたようねぇ」 その覆面の下からのくぐもった声が、以外に高いので一同は拍子抜けした。海賊を従えているのなら、それなりに地位のある人物なのだろうが、それとはそぐわない声質はまるで少年のもののように思えたからだ。 「キャプテン、どうしましょう?持ち物を調べてみましたが、確かに彼らはアリアハンの勇者です」 「そうだね……アリアハンの国王から身代金をふんだくるっていうのも、いいかもな」 「馬鹿言え、アリアハンの国庫はカツカツだ!貴様らなんぞに払う金などない!」 武闘家はひとりでヒートアップしている。 「ほほう、威勢のいいこと……しかし忘れるなよ、お前たちの命は我々が握っている……少しの冗談に過敏に反応するのは、男ではないな」 黒ずくめは青年にアゴで牢を指し、海賊は「はい」と頷いて牢のカギを開けた。 「さあ、出てください」 勇者たちを縛っているロープはそれぞれじゅんぐりに繋がっており、勇者たちは一列になってもそもそと牢から出た。ロープの端は青年の手に握られている。 「ほら、ついて来い。事情聴取してやる」 「カツ丼くらい出せよ」 「……いちいち口の減らない奴だ。おい、アレックス!」 「はい」 青年はテープのようなもので、武闘家の口を塞いだ。 「悪く思わないでください、キャプテンはおしゃべりな方が大嫌いなんです」 ロープに引っ張られて、何度も転びそうになって階段を登ると……その上は、海賊たちのアジトだった。酒瓶を抱えて高いびきの海賊、盗品を抱えて運んでいる海賊、そしてそんな連中と一緒になって火を囲み、歌を歌っている若者や老人たち…… 「おい、あれはさっきの……」 「黙ってついてこい!アレックス、やんな」 「むぐ!」 勇者も口にテープを貼られた。 狭い部屋に連行された勇者たちの後ろで、ドアにカギがかかる音がする。黒ずくめは椅子にふんぞりかえって、横の海賊からグラスを受け取り、ストローで飲む。 「さて、と。まずは何から聞こうか……そうだ、お前たちはどうしてあんな場所にいた?あの海域は魔の海域、普通の羅針盤は狂って使いものにならない……」 勇者と武闘家は、テープを勢い良くはがされて悶絶した。 「それに通常航路からも外れている。なにか目的があってのことか?」 「だから言っているだろう、我々はアリアハンの勇者一行だと!商船ではないのだから、通常航路だとかそういったものは、関係ない!」 「黙れ!アレックス、こいつには貼ったままにしておけ」 「はい」 武闘家はまたテープを貼られた。 「あなたたちは海賊ですか?」 戦士がおどおどと訊ねる。 「はぁ?見て判んないかい?」 部屋にいた海賊たちの間から失笑が漏れる。戦士は顔を真っ赤にして、うつむいた。 「俺たちは海賊ダンディライオン、七つの海を股に掛ける海賊だ!勇者さんよ、あんたのうわさ話はちょくちょく耳にはしている。魔王を倒すために旅に出た若い勇者の話はね」 黒ずくめは指をパチン、と鳴らした。と、海賊たちが勇者たちの縄を解く。しかし、武闘家の口テープは剥がしてくれないので、武闘家は自分でゆっくりと剥がした。 「勇者さんよ、俺たちはあんたを尊敬しているんだ。まだ若い身空で途方もないことをやらかそうとしている、その心意気は大したもんだ」 「そうかい」 腕についた縄の後をさすりながら、勇者は油断なく答える。 「だがね……事情も知らないくせに事件に首を突っ込む、それは命取りになる。判るかい?」 「よく判らないね」 賢者は、部屋全体が抗魔の結界によって護られているのを見て、小さく舌打ちをした。 「どういうことなのか、せめて説明はして貰えるんだろう?そのために俺たちを引っ張ってきたのだろうからな」 「よし。連れてこい」 「へい」 海賊の一人が部屋から出ていき、戻ってきたときには一人の兵士を連れていた。その兵士の鎧には、サマンオサの紋章が刻まれている。ロープでぐるぐる巻きにされた兵士は、まるで汚物でも見るかのように周囲を見回した。 「こいつが、なんだってんだ?」 「本当にうるさい男だね……黙って見てろ!」 黒ずくめは腰から短剣を抜きはなって、兵士の頬に当てた。兵士は身をよじって刃から逃れようとするが、黒ずくめは構わず一筋の傷をつけた。 「やめろ、捕虜の虐待は……え?」 勇者は我が目を疑った。傷口から流れてくるのは、赤い血ではなく緑色の液体…… 「な、なんだそれ……」 懐から取りだした紙で刃を拭い、腰に短剣を戻すと黒ずくめは自分の席に戻った。 「判るかい?これは、魔族の血だ。そして鎧に紋章を刻むことを許される兵士は、軍隊内でも上級の兵士に限られる」 「そういうことか……」 賢者は呻いた。彼の中で積み重なっていたヒントたちが一列になって、真実へと彼の思考を導いたのだ。 「ほう?物わかりのいい奴もいるみたいだね?」 「どういうことだよ」 勇者が、賢者をひじでつっつく。 「つまり……あの軍艦に乗っていたのは魔物だったんだ。そしてこの海賊たちは、商船を魔物から護っていたんだろう。そして人間に化けた魔族の鎧にサマンオサ王家の紋章があったということは、サマンオサには多くの魔物たちが入り込んでいて……おそらくはあの商船も本当の商船ではなく……」 「そう、亡命者たちだ」 黒ずくめは嘆息気味にそう言った。 「最初は助かりたいが為の嘘だと思っていたが……そうじゃないと判ったのは、サマンオサ兵士と剣を交えてのことさ。真実を知ってしまった国民は次々と処刑される、それを恐れて逃げ出した亡命者を追って魔物の船がやってくる。サマンオサの湾岸警備隊もみんなグルになっていれば、俺たちがやるしかないんだよ」 「そうだったのか……」 戦士もため息をつく。 「もういい、連れて行け」 黒ずくめの指示に、海賊は魔物を連れて出ていった。 「俺たちは義賊をきどるつもりはない。他人様のものを盗めば、それは罪だ。だがな、善人や一般市民からは盗まない、それが俺たちなりの流儀だ。だからこそ、魔物から亡命者を護って戦うこともしている。事情を知らないあんたたちから見れば、海賊が船団を襲っていたかに見えただろうが……」 「判った、謝るよ。俺たちが悪かったみたいだ。な?」 勇者はうなづき、戦士も賛同した。武闘家はちょっと不満げではあったが、「そうだな」と言った。 「そういうことだ。今回の件では、俺たちの早とちりだった。すまない」 賢者の言葉に黒ずくめは笑った。顔は覆面で隠されていたから、表情までは判らなかったが……確かに、笑った。 「疑わないのか?俺たちが都合良く嘘をついているのかもしれないのだぞ?」 「嘘にしてはあまりにも真実味を帯びすぎているし、それにさっき中庭で船にいた人たちが楽しそうにしているのも見た。魔物の血なんかはいくらでも誤魔化せるだろうが、それ以上にあの人たちの笑顔は本物だ」 「いい答えだ、さすがは歴戦の勇者というところかな。その力を見込んで頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」 「盗みは手伝わないぞ」 武闘家はぶすっとした顔のまま言う。 「世界を救う勇者たちに、誰がそんな無粋なことを頼むものかよ……頼みというのは、サマンオサに潜入して、国をおかしくしている魔物たちをバッサリとやって欲しいんだ」 「なんだって?」 「亡命してきた連中の面倒を見るだけの余裕が、もうないんだ。あいつらは口封じの為に、このアジトに何度も攻め込んできている……防戦するくらいしか、今の俺たちにはできない。だから、その元凶をあんたたちに叩いて貰いたい」 「どうするよ」 部屋を与えられた勇者たちは、ベッドに横になっていた。疲れもあるが、それ以上にここで聞かされた話は重いものなのだ。 「どうするもこうするも……ジパングの時と同じじゃないか?ほら、あん時だってヒミコっていう女王に魔物が化けていたじゃないか」 「サマンオサか……でも、勇者サイモンのお膝元で、そんなことが起きていると思うか?」 「しかし、勇者サイモンの活躍なんてちっとも伝わってこない。そもそもお前の親父さんが行方不明になった旅で、合流地点にサイモンは現れなかったというぞ」 戦士はもういびきをかいている。武闘家はぶつくさいいながらも、話に参加はしていた。 「うさんくさい連中ではあるが……少なくとも嘘はついていないと思うな」 賢者は慎重に言葉を選ぶ。 「しかし、海賊ダンディライオンの頭領はじいさんだったはずだ。ニセモノかもしれないぞ」 コンコン、とドアをノックする音がして、僅かにドアが開いた。入ってきたのは、とても海賊とは思えない、普通の青年だ。 「ちょっといいかい?話しておきたいことがあってね」 「どうぞ、ご自由に」 その武闘家のつっけんどんな態度に苦笑しながら、青年はドアを閉めて椅子に座る。 「僕の名はショー・アラクラだ。航法技師をしている」 「それはどうも、ご丁寧に」 「キャプテンが君たちに頼み事をしたそうだけど……あの人、いまいち物の頼み方が下手くそだから、あんまりいいイメージ持っていないんじゃないかと心配してね」 「そうだな。いきなり捕まえられて牢屋に入れられれば、いい気分はしないさ」 「だろうね」 ショーは笑って、勇者の目を見た。 「でも、彼女の言うことは本当だ。そして、その証人と、魔物を倒すための道具もある」 「ちょっと待て。彼女って言ったか?ダンディライオンのキャプテンは老人だと聞いたぞ」 「それは先代だよ。今は孫娘のラジャが跡を継いだ。そして、ラジャの出身はサマンオサだ」 「サマンオサ……」 「ラジャの親友に勇者サイモンのご息女がいてね、母上と弟君と一緒に亡命されたところを、我々が助けた。そこにサマンオサ軍の追撃があって、弟君は行方不明に、そして母上は命を落とした」 勇者は言葉を失った。もしそれが本当なら、いや、本当だからこそ、勇者サイモンは父と合流できなかったのではないか? 「我々の調査では、どうも国王が魔物とすり替わっているらしい。国宝の変化の杖、あれを使っているらしいことは判った。そして、城の内勤をしている兵士達はまだ人間のままだ。だから、国王の化けの皮さえ剥いでしまえば、城から魔物を追い出すのは容易い」 賢者は目を閉じた。あり得る話だ、とも思う。そして海賊という彼らの立場なら、近隣諸国に助けを求めても、全てが嘘だとサマンオサが公言すれば、彼らは逆に追討されてしまうだろう。 「ん?さっき、証人がいると言っていたね?」 「ああ、勇者サイモンのご息女がいらっしゃる。彼女に話を聞けば、全ての合点がいくだろう。だが今夜はもう遅い、明朝でよければ引き合わせよう」 「そうして頂けると有り難いな。なにしろ、まだ全てが明らかにはなっていないからね」 そうだな、とショーは賢者に笑いかけた。その笑顔は、純粋なものだと賢者は思うのだ。 翌日引き合わされた少女は、確かに勇者サイモン譲りの紫の髪をしていた。 「セシリィ、と申します」 「僕はオルテガの息子でほだか」 「戦士のひでかずです」 「武闘家のまさはるだ」 「賢者のともきです。で、出来れば詳しい状況を」 ラジャも今日は覆面やマントを脱いで、ふつうの少女の格好で同席していた。中身がこれならば、昨日の少年っぽいつくり声も納得できる。 「私の知っていることはわずかですが……ラーの鏡、というものをご存じですか?」 「邪を払い、物事の真実を映す鏡と聞きます」 賢者は、以前読んだ昔話の小道具のことか、と思った。 「鏡に閉じこめられた姫の話に出てきました。『ラー乃鏡ニテ照ラサバ、邪悪ナル魔法使ヒ現レ、王子、是ヲ倒ス』と。でも、伝説のものでは?」 セシリィは傍らの袋の中から、古ぼけた手鏡を取り出す。 「これですわ。父が生前、悪戯好きな王が変化の杖で兵士に化けて城下を遊び回るのを、お諫めするために見つけだしたものです」 「これが、……これが伝説の『ラーの鏡』……」 賢者の手は震えた。遥か太古の伝説に残るラーの鏡……考古学的にも、そして文学的にも資料的価値の高い鏡が、目の前にある! 「これで判ったでしょ?あたしがあんたたちに頼みたいのは、この子の護衛とサマンオサの奪回」 ラジャは、昨晩とは違って少女らしい言葉遣いになっていた。それでも幾分は乱暴なのだが。 「もちろんタダとは言わないわ。引き受けてくれるなら、これを渡すわよ」 紫色のふろしき包みをドン!とテーブルに載せるラジャ。おずおずと武闘家が風呂敷の結び目を解くと、その中から出てきたのは深紅の輝きを持つ宝珠だった。 「フフン、あんたたちこれ集めてるんでしょ?正真正銘のレッドオーブ、本物よ。前にサマンオサの軍艦を襲ったときに手に入れたものなの。どう、悪くない話でしょ?」 「確かに、悪くないな。だが、こんなことをして、君たちには何の得がある?」 武闘家はあくまでも慎重に訊ねる。 「あたしたちは海賊、以前のように商船が行き交う海に戻したいだけ……そうでなければ商売あがったりだしね」 「その話、乗った」 「お、おい!」 賢者がオーブに手をかけたので、戦士は慌てる。 「いいのかよ、そんなこと……」 「僕も賛成だ」 勇者まで言うので、武闘家もいい顔をしない。 「本気か?」 「ああ、本気だ。以前に聞いたことがあるんだ、勇者サイモンの持つ剣について。道を拓くための剣、ガイアの剣。オヤジがサイモンと合流しようとしていたのは、サイモンがその剣を手に入れたからだと……バラモスへとたどり着くために必要な剣だと!判るか、きっとサイモンの失踪には、魔物が一枚噛んでるんだよ」 武闘家の表情が晴れていく。 「そうか……城内を人間で固めているのは、何も知らない兵にサイモンが抵抗できるはずがないからだ!だから、例え王が魔物であると気づいても、勇者サイモンには手出しが出来ない!ラーの鏡を使われることを恐れた王は、サイモンを捕らえたはずだ……王なら、なんとでも理由はつけられる」 「そういうこと。そして、鏡を持っているが故に追われたセシリィたち、その失踪に疑問を抱いた近所の人たち、王の変節に疑問を抱いた大臣たち……そんな人々が、このアジトで隠れ住んでいるというわけなのよ」 自分の言葉を聞いたセシリィの瞳から涙がこぼれたのを見て、ラジャはハンカチを差し出す。 「ちなみに……あんたたちの船の船長とあたしたちはグルでね、本当は正々堂々と頼むつもりだったんだ。だけど予想外の追撃があって、しかもあんたたちが早合点して」 「悪かったよ、それは謝るってば」 戦士は頭を下げた。 「なら、善は急げだ。さっそくサマンオサに乗り込もう。……だけど」 勇者は言葉を濁す。 「セシリィさんは連れていけないよ、危険だから」 「私なら大丈夫です、父について多少の訓練は受けましたから、足手まといにはなりません。父の消息を、知りたいのです!」 セシリィは必死に訴える。その真摯さは、勇者たちの心を打った。 「仕方ないか、じゃあ一番守備力の高い武闘家、君が護ってやってくれ」 「ああ、判ったよ……で、サマンオサに入るルートは?」 部屋の隅に立っていたショーが、テーブルの上に海図を広げる。 「このアジトはサマンオサの南に位置している。地続きだけど、途中には切り立った岩山があって陸路はほぼ無理だ。代わりに、ここからまっすぐ南に行くと……」 ショーの指が海図のいちばん下から一番上に、移動した。 「ここに旅の扉がある。ここから、サマンオサ近くの修道院まで、飛べるはずだ。亡命者はみんなそこから来ている」 「あれっ、この海図、ここに島がある!」 賢者が海図の左下を指した。以前、サスクハナ号の海図を見たときには、そこには島がなかったはずなのだ。ランシールの西、テドンの南…… 「ああ、これはレイアムランドだよ。うちで考案した新型の羅針盤なら、この海域でも正確に方向がわかる。テスト中に見つけたんだ」 「そこに神殿があるはずなんだ、見てないか?」 「さぁ、陸には上がらなかったから……もしいるんだったら、この海図と羅針盤もあげるよ」 「ありがたい!」 「隣、よろしいですか?」 賢者が顔を上げると、そこにはにっこりと微笑むセシリィがいた。 「あ、ああ、どうぞ」 アジトの一角に作られたバーのカウンターで、ラーの鏡をいじくりまわしていた賢者は突然の来訪者に驚きながら、椅子を引いた。 「あ、何か軽い飲み物をください」 「へい」 普段は海賊船で針仕事を一手に引き受けているというバーテンが、にこりともせずに返事をする。 「その鏡、決して曇ることがないんですよ。どうしてだか、判りますか?」 「真実は決して曇ることがない。だからでしょう?この鏡に映る貴女は、何か悩みを抱えているように見える」 「そうですわね……」 賢者は余計なことを言ってしまったのではないか、と思った。 「そういう貴男は、今の言葉を後悔なさっていますね」 そう言ってセシリィはくすくすと笑った。鏡に映る自分の顔を見て、賢者も笑った。 「どうしてだろう、なんだか初めて会ったような気がしませんね」 「そうですよね、どうしてでしょう?」 海賊たちが嗜む強い酒のせいかも知れなかったが、二人の心は急速に近づいていった。それが恋という感情であると二人が気づくのに、さほど時間はかからなかった。バーテンはただ静かにタンブラーを磨いていた。 一行が海賊の案内によって旅の扉を抜け、サマンオサにたどり着いた時に見たものは、長く続く葬式の行列であった。 「王様の悪口を言ったものは、処刑されるんです」 フードで顔を隠したセシリィが、そっと武闘家に耳打ちする。 「なるほどね……これなら逃げたくなるわけだ」 「おや?」 賢者は、しげみの中から城をうかがう少年の姿を見つける。その髪は、セシリィのものと同じく紫色だ。 「セシリィさん、あれ」 あっ、と言ってセシリィは立ち止まった。少年も、見つめられていることに気づくと顔をこちらに向ける。その表情が、パッと明るくなった。 「姉ちゃん、姉ちゃんかい!?」 「ドレル!」 「会いたかったよ、母ちゃんはどこ?」 「ドレル……お母さまは、お母さまは……」 セシリィの目に涙が浮かんだのを見て、勇者は慌てた。 「ストップ!感激の再会を邪魔したくはないけど、聞かれちゃまずい話もある。宿屋へ行こう!」 感激の涙に濡れた姉弟は、母を亡くした悲しみの涙も流した。そして、行方の知れない父への慕情……勇者は、ひとつ間違えば自分がこうなっていたのかも知れない、と思うと悲しくなってきた。 「僕は気を失って流されている所を、スー族の漁師さんに助けられたんだ。そこで戦いの技を学んで、父ちゃんを助けに戻ってきた」 「そう……私たちは、サマンオサの王に化けているという魔物を倒すために戻ってきたのよ。父さまの行方を知っているのは、あの王しかいないわけだし」 「そうだね、僕も戦うよ!……で、この人たちは誰?」 賢者は苦笑いをする。 「俺たちは、アリアハンからオルテガの息子と旅に出た者だ。バラモスを倒すために旅をしている」 「えっ、じゃああのヤマタノオロチを倒した勇者って……」 「僕たちだよ」 勇者はまだ幼さの残る少年に笑いかけた。 「なら、きっと倒せるよ!父ちゃんも見つけられる!」 「そうね、きっとそうなるわ。ラジャが見込んだ勇者さまたちですもの、きっと……」 階段を駈け登る音がして、勇者と賢者は身構えた。と、ずるべしゃ、と大きな音がして、階段を落ちていく音がする。 「あいつらだ……慌てすぎなんだよな」 ドアを開けて入ってきたのは、情報収集に出ていた武闘家と戦士である。それぞれひじやひざをすりむいている。足を滑らせて、階段を転げ落ちたのだ。 「ビンゴだ、やっぱり国王があやしい。しかも国王は、夜になると見張りの兵も立てずに、二階の寝室に一人で寝ているらしい」 「しかも最近は料理の好みも変わって、トカゲや虫を好んで食べるんだそうだよ。あ〜気持ち悪い」 戦士は身震いをして、ああいやだ、というゼスチャーをする。 「よし、なら見張りが手薄な夜を狙おう。今晩、忍び込むぞ」 賢者の言葉に勇者たちも、セシリィも、そしてドレルも頷いた。 「どう、しました?」 物憂げに窓の外を眺めているセシリィに、賢者は声をかける。 「いえ……この地で暮らしていた頃の、楽しかったことを思い出していました」 「……勇者サイモン、どのような方だったのですか?」 「父は、アリアハンのオルテガ様とは違ったタイプの勇者でした。剣術よりも魔法の力に重きを置く、オルテガ様とは正反対のタイプでした。ですからこそ、二人は親友になったのだと思います。自分にない力を認め合ったからこそ、実力以上の力を出せたと……」 「だから、オルテガはバラモス討伐のパートナーに勇者サイモンを選んだというわけですね」 「恐らくは……」 賢者は、セシリィの端正な横顔に、何か不吉なものを感じる。思い詰めた横顔…… 「あなたは……父上の敵を討ち、死ぬつもりですね」 だから、ふと思いついたことを、ぽろっと言葉にしてしまう。それほどに、セシリィの横顔は危険な色を帯びているように見えたのだ。 「そう……見えますか?」 「少なくとも、私の目には」 セシリィは背伸びをした。 「そうですね……私には、そうすることでしか父に詫びる言葉を持たない女ですから」 「どういうことですか?」 「ラーの鏡を……ラーの鏡をおもちゃにして、父から奪ったのは私なんです。そのために父は、魔物の正体を暴くことが出来ずに囚われた……父の力を恐れているバラモスが、父を五体満足で生かしているとは思えません。ならば、せめてこの命を捧げてでも、父に詫びたいと思うのです」 そう言い切るセシリィに、賢者は何も言い返せなかった。それが間違っているとは思うのだが、適切な言葉が見つからないのだ。 「で、でもそれは……」 「判っています、そういうつもりで事に当たるという、覚悟を言ったまでのこと……」 セシリィの瞳は熱く潤んでいて、賢者は慌てて視線をそらした。 台所の勝手口から忍び込む。城内の構造にはセシリィが詳しかったので、ごくあっさりと進むことが出来る。しかし、玉座の後ろにある扉には不寝番の兵士が、それでもいびきをかきながら寄り掛かっていた。 「どうする?あいつ……あんな所で寝てやがる」 すると、セシリィは何か思いついたらしく、ぽんと手を打った。 ![]() 「鐘楼の窓から、屋根づたいに王の部屋へと行けます。以前、王様が脱出経路に使っていました」 「秘密のルートか……ずいぶん暇な王様だな」 変なことに納得しながら歩いていくと、それらしき部屋の窓に行き着いた。窓の外からそっと覗いてみると、そこには確かに王がひとりで眠っている。 「ここだ」 賢者のその声に、勇者たちは武器を構え、セシリィは鏡を手にした。ドレルは弓矢を構えている。 「では」 セシリィはそっ、とラーの鏡に王を映し、鏡を覗き込んだ。すると、王の体から霧のような気体が飛び散り、その姿は醜悪なボストロールへと変化していく! 「うぬう、それはラーの鏡!貴様ら、サイモンの血族か!」 眠りから引き戻されたボストロールは怒りを込めて言う。 「ならば、貴様らの父と同じ所に送ってくれる!」 振り下ろされたこん棒を、セシリィはひらりとかわす。こん棒は床を砕き、ボストロールの尋常ならざる怪力を証明して見せた。 「父と同じ所ですって!?」 「食べ物も飲み水もなければ、人間は簡単に骨になる!」 「なんてことを!」 「許すわけにはいかないね!」 武闘家の右手に光る黄金の爪が、ボストロールの皮膚と筋肉組織をズタズタに引き裂く。戦士が振り下ろすハンマーが、骨を叩き潰す。 「な、なんだ貴様らは!どういう力だ、これは!」 「僕はアリアハンの勇者オルテガの息子だ!精霊ルビスの祝福がある限り、貴様などには負けない!」 「そういうこと。さっさと諦めな!」 戦士はハンマーを振り上げ、ボストロールの胸に打ち付けた。そのあまりの衝撃に、ボストロールは床へと倒れ込んだ。 「セシリィさん、さがって」 賢者は印を結び、呪文を唱える。 「人は子を産み育てる、それは次代へと命を繋げていくためなんだ!いくら贖罪とはいえ、我が子が命を捨てることを願う親はいない!だから、こいつは俺たちが倒す!」 ![]() 賢者の手のひらから放たれた巨大な火球はボストロールを包み、そして灰にした。ヤマタノオロチと違い、自ら化けるだけの魔力を持たない魔物では、もう今の勇者たちの相手にはならないのだ。 「必ず、お父上の安否を確かめます」 賢者はそう言って、セシリィの手を握った。 「いずれ、国を出た人々も戻ることでしょう。荒れた国が元に戻る、そのためには民衆のヒーローだった勇者サイモンのネームバリューが必要です。そして、そのためにもあなたは生きなければならない」 「ずいぶん……身勝手な仰りようですわね……」 「そう、人間というのは元来身勝手なものです。しかし、その身勝手さが命の方向を向いている限り……人はそれを美徳とするのですよ」 賢者は手を離して、笑いかけた。セシリィはそっと涙を拭く。 「父上に詫びるおつもりがあるのでしたら、この街の雰囲気を以前のものに戻すこと、それが父上を迎える上で最良のお詫びだと思いませんか?」 「そうですわね……あなたの仰る通り」 地下牢から解放された国王は、全ての顛末を国民に知らせた。その上で、国の復興を願ったのである。世界を代表するサイモン、オルテガの両勇者がこの世に遺した子息の手でもたらされた平和に、人々は新しい時代を肌で感じ取る。しかし、それは民衆の勝手な期待である。母を失い、父も行方不明の姉弟にシンボルとしての輝きを求めることは、あまりにも酷であった。 しかし、それを承知で賢者はセシリィにかくあるべし、と説いたのだ。死の世界へと旅立つことを厭わぬつもりならば、人と人の世界のために、生きてみてはどうですか、と…… 「このサマンオサが以前の輝きを取り戻した時、その時こそあなたが自分の人生について考えるときでしょう。今は生きてください、私たちがバラモスの魔力から世界を救うその日まで」 「……はい」 セシリィは涙を拭って、賢者の頬にそっとその可憐な唇を寄せた。賢者は目を白黒させ、セシリィはにっこりと微笑んだ。 「僕も連れていってください!」 ドレルは勇者の手を掴んだ。 「僕も勇者サイモンの息子です、足手まといにはなりません!」 しかし、勇者はやさしくその指をほどく。 「バラモスの軍勢は、君が考えているよりも強力だ。希望は分散しておいたほうがいいと思わないかい?」 「えっ?」 「もし僕たちが失敗したなら……その時こそ君の出番だ。僕たちの失敗を乗り越えて、君がバラモスを倒すんだ。だから、その時に備えて力をつけておいて欲しい。人々の希望が、一度に消えるわけにはいかないんだ。君も勇者サイモンの息子なら、判って欲しい」 「でも……」 「僕たちの父は……たぶん二人揃えば、バラモスを倒せたのだろう。そして、二人とも子供ができたから……次代に希望を繋げたから、二人で旅に出たんだろう。でも今の僕たちは違う、結婚すらしていない。なら、勇者の血脈を絶やすことだけは、してはならないんだ」 ドレルは鼻をすすり、ニッと笑った。 「判りました、バラモス退治は任せます!でも、僕はあなたたちがきっとバラモスを倒してくれると信じています」 「ありがとう、勇者ドレル!」 「頑張ってください、勇者ほだか!」 その頃、戦士は王宮で祝賀会に出ていた。というより、押しつけられていた。公式の場でのスピーチから逃れるために、戦士を代表として登城させたのである。 褒賞として国宝の「変化の杖」を与えられ、さらには豪華な料理を振る舞われ、戦士は満面に笑みを浮かべた。スピーチで大汗をかいたことなど、すでに忘却の彼方だった。 「な、ちょっと『いいな』って思ってたろ?」 武闘家が、わざとニヤついて訊ねた。 「美人だし気だてはいいし、芯も強いし。こういう男所帯の冒険してると、女の子がまぶしく思えるもんな?」 「そんなんじゃないさ」 賢者は歩く歩幅を広げた。 「ただ、死んで欲しくなかっただけさ。父の行方不明に責任を感じるのは判る。でも、死ぬことで責任をとれるなんて思って欲しくなかったんだ」 賢者は武闘家の目を見た。武闘家は、その真摯さにはっとする。 「お前……?」 「だってさ、あんな美人がいなくなっちゃったら、わざわざ世界を救う意味がなくなっちゃうだろ!?」 賢者は笑って、武闘家の背中を叩いた。その笑顔がいつもの賢者に思えて、武闘家も笑った。
一部ゲーム画面のように見えるものは合成画像です。実際にこんなイベントはありませんのでご注意下さい(笑)。
次回予告 次元断層に飲み込まれ、50年に1度だけ現れるという幻の街。そこには、想像を絶するドラマがあった。祖父の代から幻の街を探しつづけていた青年は、祖父、そして父が恋いこがれた少女に出会い、また彼自身も恋に落ちてしまう。しかし、一夜経てば街は消えてしまうのだ…… ???「通りすがりの魔法使いが親切のお返しに、願いを叶えてくれるって言ったの。それで、冗談半分に『長生きしたい』って頼んだら、こんなことになっていたのよ」 ほだか「朝目が覚めたら50年後か(汗)。ものすごい話だ」 ともき「こっ、これはアレクサンドロスの図書館にすら置かれていない幻の古代呪文書!」 ???「ああ、それは一ヶ月前に訪ねてきた神官が置いていったものだよ」 ひでかず「これ、何の肉?」 ???「ん?マグマグだよ、珍しくもなんともない」 まさはる「何〜っ、もう絶滅した動物だぞ!?」 時は容赦なく流れて行くが、その流れに抗うという事は、そのことによる幸福よりも大きな悲劇を連れてくる。未来も、過去も、等しく時が流れて行くからこそ意味があるのだと勇者は悟る。 次回、ドラゴンクエストIII「刻の間に」、ご期待ください! (内容及びサブタイトルは変更になる場合があります。ご了承ください) 第41話へ 「DQ3-Replay」トップに戻る |