第37話 喋る壁面
さてさて、一人で試練を受けることになってしまった勇者ほだか。仲間たちを神殿に置いて、単身洞窟に挑みます!強いボスモンスターなんかがいたらどうするんでしょうね? ほだか(以下、ほだ)「ちくしょう、こうなったら全部逃げてやる。戦わないぞ!」 なんだか妙な決意をしております。しかし、洞窟の中のモンスターは今となっては弱いものばかり……戦おうと思えば、簡単にやっつけられるのに、なんか意地になってますね。 ![]() ほだ「へん、どうせメタルスライムなんかすぐ逃げるんだ、その前に逃げてやる!」 さてさて、洞窟は基本的に一本道です。途中にいきどまりや袋小路があったものの、以外とすんなり進めます。あまり試練になっていない気もしますが……
ほだ「うわっ!」 なんと、壁の模様が喋りました!顔の形に浮き彫りされている彫刻、とつぜんほだかに命令します! ほだ「だ、誰だ?」 気づいていません(笑)。壁の顔が喋るとは思わないですもんね。
ほだ「んん?誰もいないのに声が聞こえるぞ……もしかして、幽霊?」
ほだ「……どうも壁の顔から声が聞こえる気がする」 ほだかが壁の顔に近づくと……目がぴかぴかと光って、壁の顔が喋ります!
ほだ「はは〜ん、さっきからうるさいのはこいつらか……」 勇者、たまたまそこを通りがかったキラービーを捕まえ、そのシッポの先に鋭く光る針で『プスッ!』と壁の顔の唇を刺しました……唇が腫れて、顔は痛みに涙を流しています。ひどいことするなぁ(笑)。 ほだ「うるさい、石のくせに人間様に指図するとは何事だ?」 さらに、偶然通りがかったベビーサタンからフォークを奪い取ると(ベビーサタンは泣いて走り去りました)、隣の顔のほっぺたをひっかいてミミズ腫れを作ります。 ほだ「しかし、なんで壁の顔にミミズ腫れができるのか不思議だね」 ついには、これまた偶然通りがかったさまようよろいから剣を脅し取り(恐喝は真似しちゃダメですよ)、壁の顔のまゆげを片方だけ剃り落としました……しかもポケットから油性マジックまで出して、カイゼル髭とほくろを付け足しました……そして相合い傘まで。便所のラクガキじゃないんですよ〜。 ほだ「あはははは、格好良くなったよ!」 ……これが勇者のすることなんでしょうか。まぁ、性格が「おちょうしもの」ですから、ツッコミ役がいないととことん受けに走る、ということでしょうかね。 壁の顔にいたずらすることに飽きた勇者は、別の方向へと歩き出しました。すると、袋小路に宝箱が。 ![]() ほだ「やりい!新しい防具見つけちゃった!」 しかしまぁ、こういう場所に誰が武器とか防具を置いていくんでしょうね? ほだ「んなことはどうだっていいの。まだ行ってない場所のお宝を探すぜ!」 いつもであれば、『ひょっとしたら手強いボスキャラが?』などと深読みするはずなんですが、なんだか今回は気楽に探索していますね??? ほだ「わざわざ一人で行かせるんだ、そんなに強い奴は出てこないって」 ごもっとも。さて、勇者は別ルートの探索に入りました。相も変わらず敵から逃げてばかりです。 ほだ「戦略的撤退だ。無駄に消耗するのは好ましくないし、弱い敵を倒しても貰える経験値はたかが知れているからね。少しは僕の立場も考えてよ、ここで死んだら末代までの恥だぜ?」 ……さて、壁の顔まで戻ると、今度は壁の顔も余計な口を開かなくなりました。露骨に目をそらしています。まぁこれ以上酷い目に遭いたくない、ということですね。 ![]() ほだ「へっへーん、これでこの洞窟にもおさらばだ!」 そうこうしているうちにブルーオーブを手に入れた勇者は、意気揚々と引き返していきました。あの、ブルーオーブが終点だとは、誰も言っていないんですけど? ほだ「いいのいいの!そのうち必要になったらまた来ればいいだけでしょ?あんまり考えすぎると、禿げるよ」 ……やっぱりツッコミ役がいないと、どうも暴走気味になるみたいですね。まぁ彼にもいろいろ苦労もありましたから、一人になった時くらい、羽根を伸ばしたいという気持ちは判りますね。 一方、その頃…… まさはる(以下、まさ)「……おいお前、その唇どうしたんだ?」 ひでかず(以下、ひで)「……キラービーの針で刺された」 ともき(以下、とも)「神官さんなんか、眉毛剃られてラクガキされてるぞ」 まさ「俺はほっぺたにミミズ腫れだ。あいつ、気づいてたのかな?」 ひで「いや、あの様子は気づいてないよ。気づいてたら、もっと色々するはずだもの」 神官「まったく、あれが勇者だとは、ルビス様は何をお考えなのか……ヒゲ、消えました?」 とも「まだうっすらと残ってます」 実は、壁の顔は残った仲間たちと神官だったのです!それとは知らずに勇者、いろいろとイタズラしちゃいました。 とも「だから言ったんだ。余計なことはするなって」 ひで「これ、どれくらいで腫れが引くのかな?」 まさ「さあな……半日もすれば目立たなくなるんじゃないか?」 神官「あの、ホクロはとれました?」 ひで「ホクロは目立たないんですが、相合い傘が全然消えてませんよ」 しかもその相合い傘に書かれている名前はまさはるとアンジェリカです。まさはる、意地になって雑巾でゴシゴシと神官の顔を拭きます。 灰色の絵の具で顔をメイクしていたのですが、油性ペンの威力は化粧の皮膜を突き抜けて、地肌へと到達していたのです!恐るべし、油性ペン! 勇者が仲間たちと別れた神殿に戻ると、みんな勢揃いで迎えてくれました。 ひで「心配したぜっ!でも無事でよかった!」 ほだ「当たり前だろ?この僕がそう簡単にやられるもんか!……ところで、その唇どうしたの?」 ひで「あ、い、いや、その、いちじくだよ!神父さんにいちじく貰って、ちょっと食べ過ぎたんだ」 ほだ「へー、いちじくかぁ……まぁいいや、僕いちじくあんまり好きじゃないし」 ひでかず、ナイスな誤魔化しです。 神官「これこれ、仲間うちでさわがぬように。ともかく……」 神官は、頬にハンカチを当てたまま、咳払いをします。 神官「よくぞ無事で戻った!どうだ?ひとりでさびしくはなかったか?」 ほだ「全然」 神官「ではお前は勇敢だったか?いや…それはお前が一番よく知っているだろう」 ほだ「そのとおり!勇気ある行動というものは、他人に理解されずとも、自分の心で納得できる行動であれば良いのだ!」 神官「……さぁ、行くがよい」 ほだ「あれ?神父さん、どうして眉毛が片方だけないんですか?」 神官「行くがよい!!」 勇者一行は、神殿から追い出されてしまいました!まぁ仕方がないと言えば、仕方がないですね。 ほだ「なんだいありゃ。いきなり怒って、わけがわからん」 とも「それより、これからどうする?船はもうすぐ着くだろうけど」 そうですね、最後のカギを手に入れたのはいいとして、これから先どのように進むのか、すっかりヒントがなくなってしまいました。 とも「やっぱり各地の扉を開けまくるのが正解ルートなんじゃない?」 まさ「そうだな……アリアハンにもポルトガにもロマリアにも、開けていないドアはあるし」 ひで「いや、ここから西南の方向にあるという、レイアムランドを目指そう」 ほだ「なにそれ?」 勇者は目をぱちくり。どこかで聞いたような地名ですが、はて、どこのことですかね? ひで「ひどいなぁ、ユキちゃんが死ぬ間際に教えてくれた、オーブを捧げる祭壇のある場所だよ」 とも「そうか!そういう場所なら、きっと残りのオーブについても教えてくれるかも!」 ほだ「なるほどね。アテもなく諸国を漫遊するよりも、その方が確実かもな」 まさ「どうでもいいけど、船、まだこないぞ」 勇者たちはルーラで先行しましたから、船の到着はまだすこし時間がかかるみたいです。しかたがないので今日はここランシールで一泊し、船の到着を待つことにしました。 神官「トホホホホ……長年壁の中から挑戦者を脅かしてはいるが、あんなイタズラされたのは初めてだよ……眉毛まで剃りやがって……」 さてさて、オーブを集めると何が起きるのでしょうか?判っていても言わぬが華、何も知らないつもりでストーリーをお楽しみくださいませませ。……さてさて、これからどうなりますやら。 では、次のお話でお会いしましょう。 世界がこのまま平和でありますように…… 次回予告 油断という名の心の隙に、悪魔はすばやく取り入ってくる。それは、普通の人間であろうと勇者であろうと、関係なくやってくるのだ。 街を襲った夜盗の集団を、命を奪うのはしのびないと救って逃がした勇者たちであったが、夜盗たちはそれを逆恨みし、陰湿なやりかたで勇者たちをつけ狙う…… ほだ「あれっ、さっきまで財布ここに入れておいたのに……」 ???「よもや勇者様ともあろうお方が、食い逃げなんかなさりませんよね?」 ひで「シッ、そのまま続けて……どうも、囲まれたみたいだ」 まさ「一般人がこんなにいたら、戦うどころの話じゃない!」 とも「情けは人のためならず、ってか?お前たち、性根から叩き直すことがもう無理なら、死んで貰う他に選択肢はないんだよ!!」 ???「ほざけガキが!勇者だかなんだか知らんが、死ぬのは貴様らだッ!」 一度道を外した者は、二度と元には戻れないものなのか?理想と現実の間で苦悩する勇者たちは、それでも夜盗たちの血を大地に吸わせることしか解決の手だてを持たない自分たちの無力さに嘆き、明日こそはと涙を拭く。 明日こそ、未来こそ、きっと人と人が解り合える時代になるのだと、信じて…… 次回、ドラゴンクエストIII「人が背負いしもの」、ご期待ください! (内容及びサブタイトルは変更になる場合があります。ご了承ください) 第38話へ 「DQ3-Replay」トップに戻る | ||||