第34話 嘘つかない
ジパングに平和をもたらした勇者一行、歓迎の祝賀会はありがたかったのですが、ジパングの名物と言われる『フナズシ』と『クサヤ』はさすがの勇者たちでもダメでした(笑)。しかも村の年間予算を全部お礼としてくれようとしたので、さすがにそれは断り、代わりにおいしいお米を頂いて出航しました。 ほだか(以下、ほだ)「いや〜、この米おいしいよ。たまらん」 ひでかず(以下、ひで)「あの国の黄金って、実った稲穂のことだったんだね」 ともき(以下、とも)「イカの塩辛買ってきたんだ。これで白米をもりもり食おう」 まさはる(以下、まさ)「おっ、いいねえ!グリーンティーも買ってきたから、ジパング人の真似してお茶漬けも楽しめるぞ」 甲板にちゃぶだい(ジパング土産)を出してごはんを食べる勇者たち。船員の迷惑なんか考えてもいないんですね、どうしてこの人たちはこうなんでしょう。 まさ「ところで船長、ここから近い街で今まで俺たちが行っていない所、あるかな?」 船長「そうですね……ムオルの村には、もう行かれたんですよね」 ひで「行った行った。寒かったなぁ……」 船長「そうですね……あとはこの東の大陸に、スー族っていう部族の村がありますが」 とも「へー、近いの?」 船長「いいえ、大陸をぐるっと回って反対側に出ないといけないですから、おおよそ3日はかかりますかね。川をさかのぼって行くしかないんですが」 ほだ「例のエジンベアとどっちが遠い?」 船長「ここからだとスーの方が近いですね。エジンベアはその先になりますから、まずスーに寄ってからエジンベア、という方がいいと思います」 まさ「そっか、ではそのようにお願いします」 船長「了解!……で、あのぅ……」 ほだ「はい?」 船長「私たちもそのお米、食べさせていただくわけにはいかないですか?」 ほだ「ああ、今日の夕飯は料理長に頼んでジパング・ライスにしてもらったから。僕たちが食べてるのは試食分だよ。乗組員みんなのぶんはあるから、安心してちょうだい」 とも「俺たちは、みんながいないと困るんだぜ?そんなに自分勝手じゃないよ」 船長「あっ、ど、どうもありがとうございます……」 そんなやりとりもあり、夕食には船員全員がおいしいごはんに舌鼓を打ちました!おかずは塩で焼いたシャケの切り身とミソ・スープ、そしてタクワンとかいう大根のピクルスでした。もっともほだかはそのタクワンがどうしても食べられずに残していましたが(笑)。 ひで「なんか寒くなってきたなぁ」 船員「あ、これからもっと寒くなりますよ。北極海通りますから」 ひで「ほっ、北極海?」 船員「ええ、北極海です。北アメリア大陸と南アメリア大陸は細い陸地で繋がっていますから、向こうに行こうと思ったら北極海か南極海を通るしかないんですよ」 ひで「へー、そうなのか……でさ、その細い陸地に運河をつくって通行料取ったら、儲かるんじゃないかな?」 船員「あっ、それいいですね、すごくいいアイデア!今は魔物が暴れてて危険だから船もそんなにいないけど、平和がくれば輸送の主役は船ですよ!」 ひで「むふふふふ……このアイデアは秘密だよ、世界に平和を取り戻したら実現しよう!」 後年、この運河は完成しました……太平洋と大西洋はその海面の高さが数メートル違うために、いくつもの仕切りを作って船を通過させる大がかりな運河……しかし、それはまた別のお話です。少なくとも運河建設の中にひでかずの名前はありませんでした。 とも「あれは?」 船長「ああ、浅瀬です」 ![]() ともきが指さす向こう、奇妙な形の岩影が海面から覗いていました。 船長「なんでも、昔はそこに灯台があったって話です。海の交通を遮断するために、バラモスが壊したってもっぱらの噂ですよ」 とも「へー、そうなんだ……」 船はどんぶらこっこ、どんぶらこっこと進んでいきまして、ある地点から南下を始めます。 ひで「つまり、もうすぐスーの村につくっていうことだね」 船員「そうでもありませんよ。川をさかのぼらなくちゃなりませんから」 さらに南下していく途中、海岸で誰かが手を振っているのを発見しました。すわ、難破船の生き残りか?と慌てて船を接岸させて、勇者たちは船を降りました。 ほだ「おじいさん、どうしました!?」 すると老人はニヤリと笑うと、片言の共通語で喋り出しました。
まさ「はぁ?何言ってんだ?」 ひで「町を……作る?」
とも「まぁ、確かにね……でもこのご時世に、わざわざここまで人が来るかな?」
ほだ「そりゃそうだ。よっぽどの資源がない限り、交易でもしないと町にはならないよね」
とも「え゛?」 まさ「ちょっとポンタ呼んでこい!」 ひでかずは船に走って、ポンタをつれてきました…… とも「……というわけなんだ。どうする?」 ポンタ(以下、ポン)「う〜ん……ちょっと地図見せてもらえます?」 ポンタは地図を広げて、首を傾げました。 ポン「よっしゃ、残りまひょ。ここ、地理的条件はバッチリですわ。西にスーの村、東にはエジンベア・ポルトガ。南アメリアのサマンオサもようけ近いし、越後屋の海外進出にはもってこいの場所です」 まさ「本当にいいのか?」 ポン「なに言うてますのん、私がついて来たのは越後屋海外展開作戦のためです!それに、交易で栄えた町が次々となくなっていくこのご時世、勇者はんたちに最も必要なのは情報です。町を作れば世界中から商人たちが集まって来ます、そしたら必ず有用な情報が手にはいるはず」 ひで「なんだか悪いね……」 ポン「いえいえ、ジパング・ライスのおいしさ教えてもろたお礼だすわ。あれ輸入してぎょうさん儲けたろ思てますねん」 まぁ、そういうことでポンタが残ることになりました…… ポン「勇者はん、役に立つ情報を仕入れてお待ちしてますよって、近くに来たら是非とも寄ってくださいな!」 ほだ「ああ、それじゃ元気で!」 とも「頑張れよポンタ、応援してるからな!」 ポン「ともきはん、おおきに!」 船はポンタと老人を残して岸を離れました……ちょっと淋しいですが、彼がきっと有用な情報を仕入れてくれるだろう!と期待することにしましょう。さて、さらに南へと進んだ後、川をさかのぼっていきますと見えてきました、あれがスーの村ですね! ![]() ほだ「しかし、この川すごいな……この船でも簡単にさかのぼれるなんて」 船長「この辺りは雨が多いんですよ。だから、川も自然に深く、幅広くなるんです」 まさ「へー、そうなのか……」 そんなうんちくを聞いているうちに、船は錨を降ろしました。スーの村に到着です! ひで「新しい武器、新しい武器!」 船長「スー族は穏やかな部族ですから、あんまり過激な武器はないと思いますよ……それはともかく、行ってらっしゃいませ」 村に入ってまず驚いたのは、人々の格好です!動物のなめし革で作ったと思われる衣服、そして頬に化粧でラインが入っています!赤銅色の肌と黒髪が野性的な美を演出していて、狩猟民族に独特の躍動感ある筋肉が日の光に輝きます。 まさ「うわっ、カッコイイ!俺もああいう格好したい!」 ほだ「絶対に似合わないから諦めな。ジパング人の格好なら似合うだろうけど」 まさ「ちぇっ……じゃ、情報集めでも始めるか!」 スー族の人々は独自の言語を使いますが、共通語も喋れます。これは、狩猟の習慣を捨て、他の地方の人々と交易をするようになってから必要になり、覚えたものです。だから、まだカタコトの共通語を使う人の方が多いのです。だって、自分たちの言語があるなら、そっちを使った方が日常会話はしやすいのですから。
まさ「ツボ?ひょっとして、『最後のカギ』に関係あるのかも……」
まさ「東か……ここからだと、ロマリア、ポルトガ、そして未だ見ぬエジンベア……」 とも「どうも、こんにちは……何でもいいんで、何か教えていただけませんか?」
とも「グリンラッド……新しい地名だ、メモメモ」
とも「偉大なる魔法使い、か。そのうち行ってみる必要がありそうだな……」 ひで「えっと、何か知っていることがあったら教えて下さい!」
ひで「山彦の笛?それ、何なんです?」
ひで「ええっ、ずいぶん便利なものがあるんですね!」 ほだ「さてと、さっき買ったパンでも食べるかな……ん?お馬ちゃん、君も食べるかい?」
ほだ「うわっ、うわわっ、馬!馬が喋った、馬が(泣)!」
ほだ「こ、怖いよ〜!馬が、馬が〜(泣)!」 まさ「というわけで、情報を総合すると『最後のカギを手に入れるにはツボが必要→かわきのつぼは東の国にある→消え去り草を持っているならエジンベアへ行ってOK→ツボを手に入れたら西の海の浅瀬で使う』と、こんな感じになるな」 とも「北の魔法使いに会うのは、ツボを手に入れてからでも遅くない、か」 ひで「山彦の笛は?」 まさ「どこの塔にあるのかはっきりしないもん、却下」 とも「しかし、ツボがエジンベアにあるという情報がないのが気になるぞ」 ひで「あれ?ほだかは?」 さっきまですぐそばでパニック状態になっていたほだかの姿がありません。馬が喋ったという事実に、心底驚いたんですね。でも、スライムが喋った時にはそれほど驚いていなかったのに。 とも「あっ、いた!今、井戸の中に入って行った!」 まさ「バカな、勇者が自殺で終わりなんて、そんなのあるか!」 ひで「追いかけよう!」 3人が井戸の底に降りると……そこにはなぜか家財道具と老人の姿が! ほだ「じいちゃん、こんな所でなにしてんの?」
まさ「おい、どうしたんだこれ?」 ほだ「あ、お前らも来たの?……いや、なんか井戸の底から聞こえるからさ、降りてみたんだ。またアリアハンみたいに変な親父でも住んでるんじゃないかな、って思って」 とも「立ち直り早いな(笑)それで、馬のことは納得できたのか?」 ほだ「認めざるを得ないだろう、あれ。俺のクリームパンうまそうに食って、お礼まで言いやがったんだぞ?しかも村人の誰よりも共通語うまいし」 ひで「その話はもういいよ、それよりこのおじいさん!」
とも「なに、ツボだと!?その話、詳しく聞かせろ!」
まさ「いや、誰かここにいるよって、外の連中に言いつければいい話だから」
ひで「エジンベア!」
とも「全てが繋がった……よし、では次の目的地はエジンベアだ!」 ほだ「せっかくだから、ポンタの様子を見ていこう」 ひで「そうだよ、きっと山彦の笛に関する情報があるかもしれないもん」 さあ、いよいよ『最後のカギ』を手に入れるためにどうすればいいのか、どこに行けばいいのかが判明しましたよ!あとは実際に行って確かめるだけ!といった所で今回はおしまい。さてさて、これからどうなりますやら。 では、次のお話でお会いしましょう。 世界がこのまま平和でありますように…… 次回予告 邪神崇拝……信教の自由というものは確かに存在する。しかし、他人に迷惑をかけたり、一般市民の生活を脅かすような社会通念に反する宗教は弾圧される。かつてルビス教会で大神官の高位まで登り詰めた高僧ハーゴンは、ふと思いついた疑念にとりつかれ、ルビスに反旗を翻し邪神とされた堕天使シドーを崇拝し始めた…… ???「真に平等に訪れるもの……それは死と恐怖だけだ!教会は人々の安寧を祈るふりをして自らの権益を守ることしか考えておらん!全ての人間に平等に愛を与える、シドーのもたらす死こそが本当の愛なのだ!」 とも「それは違う、精霊ルビスの教えはそうじゃない!」 ほだ「う〜、寒い……ロンダルキアってこんなに寒いんだ」 まさ「は、は、鼻水が……」 ひで「くっ、こいつ、なんだ!?」 ???「フフフフフフ……人間の力は悲しいな、その程度しかない……この世界に平等な死を、平等な恐怖を!お前ら人間が崇拝するルビスの教えとどう違う!?全ての人に光を、愛を、暖かさを!ならば、闇も、死も、苦痛も、恐怖も、全てを平等に分かち合え!」 まぼろしの町、そして悲しい現実。シドーにその魂を喰われたハーゴンはそれでも満足げに息を引き取る。ルビスの力を借り、シドーを再び封じた勇者たちだったが、なぜかむなしさだけが胸に飛来していた…… 次回、ドラゴンクエストIII「氷の微笑」、ご期待ください! (内容及びサブタイトルは変更になる場合があります。ご了承ください) 第35話へ 「DQ3-Replay」トップに戻る | |||||||||||||||||