第29話 海は広いな大きいな
さて、父の残していった『オルテガのかぶと』を手に入れ、そろそろ胡椒を届けようという勇者たちです。どうせ王様の道楽ですからと後回しにしていましたが、あんまり遅くなるのもいけませんね。『バーンの抜け道』は開いたままなので、別の旅人に船を取られちゃうとも限りませんから。 ほだか(以下、ほだ)「じゃあ、一気にルーラするか?」 ひでかず(以下、ひで)「僕は構わないけど……」 ともき(以下、とも)「絶対に反対。もっともっと経験値が欲しいぞ。俺だけレベルが10台なんて恥ずかしすぎる」 まさはる(以下、まさ)「そういや、胡椒は大丈夫なのか?」 ほだ「ああ、この密封ケースに入れてある。湿気も入らないし、蓋は蝋封したから大丈夫」 半透明の、漬け物石大のケースを振って勇者は答えます。このケースは先史以前に発達していた謎の文明が遺した超文明の遺産で……というような設定は世界観を崩しちゃいますね(笑)。 ほだ「まぁ、資金稼ぎという名目からも、歩いていったほうがいいことはいいんだけどね」 まさ「その代わり、経験値は期待できないぞ。レベルが一つ上がればいいほうじゃないか」 とも「それでも上がらないよりはマシさ」 ひで「うん、お金がたくさんあれば僕の武器も買い替えて貰えるもんね。行こう!」 見事に利害が一致した一行は、てくてくと歩いていくコースをとりました。最果ての村ムオルからダーマ神殿を経てバハラタの街を通り、バーンの抜け道・アッサラームでベリーダンスは見ずに(笑)、ロマリアで一泊しました。 とも「次のレベルまであと約500ポイントか……ここから先はちょっと辛いな……」 ほだ「予想より金が貯まってないな……せめてあと1000ゴールド……」 2人が顔を見合わせ、そして次の瞬間…… まさ「おはよう……なんか暑くないか?」 ひで「うん、ちょっと湿っぽいような気がする」 ほだ「おう、おはよう!今日はいよいよバーンの抜け穴を通ってアッサラームに出るぞ!」 とも「うんうん、経験値稼ぐぞ!」 まさ「ちょっと待ったぁ〜!ここ、バハラタじゃねぇか!」 そうです。まさはるとひでかずが眠ったのをいいことに、ほだかとともきはバハラタの街へとルーラしていたのでした(笑)。 ひで「……まぁ、稼ぐお金の大部分は僕の武器になるからいいけどさ」 まさ「せめて少しは相談してくれよな」 とも「いやあ、その、つい……すまん」 ほだ「あははははは、財布を預かる者として、つい」 再スタートを切ったものの、お金も経験値も予想の半分ほどしか貯まりません。またロマリアにたどり着いた一行ですが、さすがにもう一度戻るのは…… まさ「残りは海の魔物を倒して稼げよ(怒)」 ほだ「判ってまんがな、そない怒らんでもええやないの〜、ま〜さんのい・け・ず!」 まさ「やめんか気色の悪い!」 ほこらを抜け、いよいよポルトガに到着です! ひで「いよいよ船が僕たちのものになるんだね……って、誰か船の免許持ってる?」 まさ「おう、俺が二級船舶運転免許持ってるぞ」 とも「なんでそんなの持ってるんだ?」 まさ「いや、うちの流派、あちこち修行の旅に出るだろ?船の運転、馬車の運転くらいできないと修行にならんのよ。ずいぶん昔に取ったっきり、ペーパードライバーだけどな」 さぁ、王様に謁見です!密封ケースから取りだした胡椒、鮮度は落ちていないようです。 ![]() ひで「おっ、名前まで覚えてる……王様って、ヒマなのかな」 余計なことは言わない!王様、ちょっとムッとしてますよ。
まさ「人を信用してないな〜……」 ほだ「ま、今まで死人が出まくっていたんなら当然の反応だと思うけどな」
とも「誤魔化しなんかしてませんよ、ちゃんと胡椒屋で貰ってきましたから」
ひで「そんなに苦労してないのに、ここまで誉められるとなんか照れくさいなぁ」 ほだ「カンダタのバカをぶん殴ったくらいだもんな」
ひで「僕は戦士」 ほだ「勇者は僕」 とも「そして俺は神に選ばれしもの、賢者だ!」 まさ「それはもういいって(笑)。俺様は武闘家だけどな」
ほだ「よっしゃ!いくぞみんな!」 城の外へと走って出ると、そこには立派な帆船が!これが勇者たちのものになったわけですね、万々歳ではありませんか! ![]() まさ「おお、いいねぇいいねぇ!」 とも「俺たちの船!」 なんか興奮気味ですね。 ほだ「名前、名前決めよう!『ヤマト』とか『アルカディア』なんていうのはどう?」 ひで「いやいや、どうせなら平仮名で『さんふらわあ』っていうのが……」 とも「待て待て、俺なら『エクセリヲン』とか『ノーチラス』ってつけるが……」 まさ「違うなぁ、どうせなら『信濃』とか『武蔵』とすべきだろう」 名前論争は続いていますが……ようやくこの大海原にこぎ出すわけですが、この人たち次にどこへ行くのか、予定でもあるんでしょうか?名前なんかよりも、そっちのほうが重要だと思うのですが。 ほだ「ではこうしよう、籤をひいて当たったものが好きな名前をつけられる、と」 まさ「そうだな、それが公平だろう。でも、あんまり変な名前はナシな。『餃子丸』とか『ナンプラー号』とか『グレート・ザ・タワシ二世号』とか」 とも「なんだそりゃ(笑)」 ひで「そんな名前つけたら、センスを疑われるよ(爆笑)」 棒の先に一本だけ赤い印を付ける、という原始的な籤ですが…… ひで「ちぇっ、外れた」 まさ「俺も駄目だ」 とも「と、言うことは……」 ほだ「僕だ!」 ま、まぁ主人公ですから……仕方ないと言えば仕方ないです、はい。 ほだ「何言ってやがる、僕が籤で当たったのは事実だ!命名するぞ、この船の名前は『サスクハナ』だ!」 ひで「なにそれ」 まさ「焼き肉屋?」 とも「それは『肉のハナマサ』だよ(笑)。黒船の名前だよな、浦賀に来た」 ちょっとちょっと、そういう現実ベースのお話はちょっとやめて欲しいのですが…… ほだ「ふっふっふ、私が尊敬しているさすらいの吟遊詩人、マサ・ヤマモート氏が個人で出しているレーベルの名前が「サスクハナ」っていうんだよ。どこか異国の船の名前だったと思うが」 う〜ん、ちょっと微妙ですが……まぁいいとしますか。山本正之氏が設立したレコード会社が「サスクハナレコード」といい、ペリーが乗ってきた黒船そして長編少年冒険シリーズの『サスクハナ号の曳航』あたりから名前を貰いました。悪くないでしょ? まさ「出航だ、錨を上げろ!」 ほだ「へいへ〜い……って、俺がやるのか!」 まさ「黙って働け、帆を上げろ!」 ひで「ヨウソロ〜……って、僕がやるのか!」 まさ「俺は船長業務で忙しいの!面舵いっぱ〜い!」 とも「面舵いっぱ〜い……って、なんで俺なんだよ!」 まさ「俺は船長、『なんにも船長』って感じだな」 ひどい話です(笑)。しかし、頬を撫でる潮風が心地よいですね。海というのはなんとも心を落ち着かせてくれるものですが……対岸へと着岸しちゃいましたよ。 ほだ「灯台だ、寄ってみよう。船を貰うことで浮かれていたけど、これからどこに行くのかまるで予定がないもんね」 おお、ちゃんと状況を把握していたようです(笑)。灯台の最上階へとずんずん登っていきました。 まさ「ども、こんにちわ」 するとそこにいた灯台守はニヤッと笑って迎えてくれました。
ほだ「やっぱり?リーダーとして適任っつうことだよな」 とも「そういう意味じゃないと思うけど」
ひで「是非お願いします。うちの船長、頼りにならないから」 まさ「悪かったな、頼りなくて。でも素早さなら負けないぞ」 ほだ「そんなものが船長職に関係あるものか」
とも「残念でした、俺たちの船は最新式の帆船だぜ!貿易風さえ捕まえれば、手こぎなんかしなくったっていいんだぜ!」
まさ「アリアハンか……いっぺん帰ってもいい頃合いだよな……」
とも「いいねぇ、黄金の国!間違っても焼き肉のたれじゃないことを祈るよ」 ひで「そんなバカな(笑)」
ほだ「来た来た来た、『6つのオーブ』!これだこれだよ、冒険の基本!いや〜、楽しみだ!」 まさ「楽観的だなぁ」
とも「おうよ、そうさせて貰うぜ!」 ひで「どうもありがとうございました!」 さて、いよいよ大海原にこぎ出した勇者たち!まずは南、そしてアリアハンへの里帰りも考えています。6つのオーブとは、そして灯台守の語った『船を必要としなくなる』という言葉の真の意味は?……といった所で今回はおしまい。さてさて、これからどうなりますやら。 では、次のお話でお会いしましょう。 世界がこのまま平和でありますように…… 次回予告 霧に包まれた大地に降り立った勇者たち。夜も更け、街人は彼らを暖かく迎える……しかし、その笑顔の影には諦めにも似た寂しさが隠されていた…… ほだ「手入れしてあるわりに、カビ臭いベッドだなこりゃ」 まさ「むはっ、ベッドの下にキノコが生えてるよ……」 ???「へー、勇者さんか……ひでちゃん、役に立ってます?」 ほだ「え、ええ、そりゃもちろん。今ではなくてはならない戦力ですよ」 ???「なんだか信じられないな〜。知ってます?ひでちゃん幼稚園の給食で出された納豆食べられなくて泣いちゃったんですよ」 ひで「そっ、それは関係ないじゃないか!」 とも「あいつ……まだ悔やんでるのかな?」 まさ「さすがに今回はシャレにならないよな……」 友の思いを受け、霧をなぎ払う戦士の瞳に涙が光る……一刻でも早くバラモスを倒すこと、これが忍び寄る魔の手を振り払う最良の手段だと胸に誓い、サスクハナ号は海上を疾駆する。 次回のドラゴンクエストIIIは、小説版でのお届けになります。 「初恋の記憶」 お楽しみに! 第30話へ 「DQ3-Replay」トップに戻る | ||||||||||||