第28話 ちょっと遠出


 さて、悟りの書を使い賢者になったともき。これで戦力は倍増です!


ともき(以下、とも)「あ、ちょっと待った」
ほだか(以下、ほだ)「あん?」
とも「俺レベル1じゃん、せめて経験値稼がせてくれよ」


 そうなんです。転職をすると、レベルは1に逆戻り。魔法使いとして覚えた呪文を忘れはしないものの、HPもMPも今までの半分になってしまいました。これでは、これから先に予測される海の魔物とはとても対等に戦えません。


まさはる(以下、まさ)「じゃ、ガルナの塔でメタルスライム倒すか?」
ひでかず(以下、ひで)「一匹1000ポイントは大きいよ」
とも「う〜ん……でもあいつら逃げるじゃん。いつも会心の一撃が出るならいいけど、お前の攻撃外れすぎだよ」
まさ「ううむ……」
とも「ひでかずも、素早くなさすぎ。攻撃力がいくら高くても、逃げられちゃ意味ないんだぞ」
ひで「そう言われても……」


 そうでした。結局メタルスライムと遭遇しても、逃げられてしまう展開がかなりあったのです。しかも他のモンスターがあまり経験値を持っていない!


とも「このダーマを起点として南へと川は流れ、海に注いでいる。となれば、この川の東岸を伝っていって北上してみる……というのも面白いと思うんだけど」
まさ「北か……」
ひで「地図によれば……確かにそっちにも陸がある。ひょっとしたら、何か強い武器を売ってる町があるかもね!」
ほだ「どうせ胡椒なんか急いで届けるようなものじゃないだろ。なんせ今までの旅人はほとんど死んでいたって話だから、あんまり早く帰ってニセモノを掴まされたと思われるのはイヤだ」


 なんだかよく判らない理屈ですが(笑)、一同は北へと向かう決心をしました。まずは川沿いに南下、そして東に出た後、一気に北上!というルートです。


ほだ「あはは、見知らぬ大地、燃えるロマン!♪誰か〜がこれを〜、やらね〜ばならぬ〜♪」
まさ「やめろってば、世界観が崩れる!」
とも「俺、下のパート歌っていい?」
まさ「だ〜っ、やめんかおのれら!」


 見知らぬ土地には見知らぬモンスターがいるもの。巻き貝の貝殻をかぶったスライム(しかも緑色)なんていう珍しいモンスターもいましたよ。複数の呪文を自在に操る嫌な奴でした。


ひで「うわっ、この『バンパイア』、ベホイミ使うぞ!」
???「バカ野郎、あんな低級なモンスターと一緒にするな!我々は誇り高き種族、『バーナバス』であるぞ!」
まさ「なんでもいいけどね。どうせ一撃だし。サクッ」


 弱い割に経験値をくれるモンスター。5回戦闘すれば確実にメタルスライム一匹分の経験値が貰えます!これはいいですね、メタルスライムと違って逃げないし。


ほだ「あはは、お金も貯まるお金も貯まる★」
ひで「これで僕の武器も買えるし鎧も買えるし盾も買える!」
とも「その前に俺の装備をなんとかして貰おうか。魔法使い時代のものでは、力不足も甚だしい」
まさ「こういう話だと絶対に俺はのけものだからな……ケッ、金をかければいいってもんじゃないんだ、世の中気合いだ!」


 さてさて、魔物を蹴散らし蹴散らし北へと向かっていた一行の前に、小さな村が……


ひで「やった!武器だ防具だ買い換えだ!」
とも「とにかく一泊しよう。もうMPが尽き欠けているし」
まさ「可愛いねぇちゃんはおらんかな?」
ほだ「こいつら(怒)」


 長い距離を歩いてきた勇者たち、多少疲れていますが村の探索は出来ます。まずは情報集めと勇んで飛び出しました。


ひで「どうも、こんにちは」


 話しかけられた老人は、勇者たちのいでたちにちょっとビックリしたようです。目をパチクリさせています。

*「あんたがた 船で きたのか?

まさ「いいえ、まだ船は持っていませんから」

*「なんと!歩いてきたと?
  ものずきな 人たちじゃのう。

ほだ「大きなお世話だ!」


 老人に妙な意味で尊敬されてしまった(バカにされた?)勇者たち、とっとと別の人に話を聞きます。歩いて来ようが船で来ようが、どうだっていいじゃないですか、ねぇ。


ほだ「どうも、こんにちは」

*「あら ポカパマズさん
  おひさしぶり。

ほだ「ええ?僕、この村に来たのは初めてなんですが……」

*「ポポタが あなたに
  会いたがって いたわよ。

ほだ「誰なんだポポタって!?」
まさ「知り合い?可愛い子じゃん、紹介してよ」
ほだ「知らない!」
ひで「でも、『お久しぶり』って言ってたよ」
ほだ「知らない!誰かと間違えてるんだよ、絶対」
とも「ポカパマズ、って言ってたっけ……間抜けな名前だ、改名したら?」
ほだ「殴るぞ(怒)」


 しかし、会う人会う人こんな調子です。

*「いよう!ポカパマズ!
  ポカパマズじゃないか!

ほだ「誰なんだそれは!僕はアリアハンの勇者ほだかだ!」

*「え?ちがう?
  でも 似てるなぁ……。

ほだ「僕に似ているのか……」



*「いらっしゃい!
  ここは 市場です!
  とかいって…
  ポカパマズさんじゃ
  ありませんかっ!

ほだ「だから誰なんだそれ……」

*「おかえりなさい
  ポカパマズさんっ!

ほだ「だからここは初めてだっちゅーに!」



 似ている似ていると言われ、またまるで別人であることに気が付かない村人までいる始末。勇者はすっかりふてくされて、宿屋に引き返しました。


まさ「しかし、その『ポカパマズ』って誰なんだ?」
ひで「親戚かな。それとも、幼い頃に行方が判らなくなった双子の兄とか……」
とも「おおっ、俺も今それ考えてた。それか、オルテガさんの隠し子とか……」
まさ「うんうん、それあるかも。この村、『キメラの翼』じゃ来られないんだよ。浮気をエンジョイするには最適な場所だよな」
とも「そう言われればさぁ、『ほだか』と『ポカパマズ』って似てるし」
ひで「うわぁ、じゃあ勇者がもう一人いるっていうこと?」
ほだ「勝手な予想を立てるな(怒)!今晩一泊して、明日もう一度情報収集をする!」


 というわけで、一泊です。最果ての村ムオルの夜は更けて、再び朝がやってきました。気温が低く、地面から蒸発する水蒸気が白いもやのように漂っている光景は実に幻想的です。


ほだ「よし、武器屋を含めもう一度情報集めだ!」
ひで「おう!」


 ひでかずは武器屋で『大ばさみ』という武器を買いました。敵を挟んで切る、という非常にグロテスクな武器です。威力は強いのですが、敵を裁断するというのは見ていてなんだか嫌ですね……
 あちこち話を聞き歩いていくと、店の裏手に出てしまいました。そこには老人がひとり、椅子に座ってぼーっとしています。

ほだ「どうも、失礼します……こんにちは」

*「おお よくこられた
  ポカパマズどの。

まさ「しかし、これほどまでに間違えるか?いったいポカパマズって誰なんだ?」


 正体不明のポカパマズ。一行はその謎を解き明かすため、店の裏口から二階へと登っていきました。家宅不法侵入なんですが……ま、誰も文句を言わないのでいいでしょう(笑)。
 二階には2人の子供と、2人の若い男女がいました。どうも幼稚園の先生2人と生徒2人、といった雰囲気です。男の先生はほだかを見て「あっ」と小さく驚きの声を上げました。



ほだ「ええ、はい……そうですけど?」


 先生は納得したように深くため息をつくと、にっこり笑いました。

*「やはり そうでしたか。
  ポカパマズさまも そこからきたと
  申しておりました。

まさ「ポカパマズなんて人、アリアハンにいたか?」
とも「商人見習いの『ポンタ』なら知ってるけどな。小学校の同級生だったから」

*「たしか アリアハンでの名前は
  オルテガ……。

ほだ「えええっ!?」

*「まだ 赤ん坊の 息子を
  残してきたのが 心残りだと
  申しておりましたなあ。

ほだ「まさか……俺が赤ん坊の時に、既にここまで親父は来ていたっていうのか?ノアニールやアッサラームの情報と、ずいぶん違うじゃないか……」

*「なんと!あなたが その息子だと
  おっしゃられるのですか?

とも「そうですとも。今は行方不明の勇者オルテガに代わって魔王討伐の旅に出た、彼がアリアハンの若き勇者ほだかです!そして私は神に選ばれし賢者、ともきです」
ひで「そこで自己PRをするなってば(笑)」

*「なるほど……たしかに
  ポカパマズさまに 似てらっしゃる。

ほだ「だから、似てないっちゅうに!僕は母似なんだってば!」

*「して ポカパマズ……
  いや オルテガさまは
  お元気ですか?

とも「人の話聞いてないな……勇者オルテガは、行方不明なんですよ!」

*「それはいけませんね。
  おからだを お大事にと
  おつたえください。

とも「だから……」


 まさはるが、ともきの肘をつっつきます。

とも「なんだよ」
まさ「バカ、見てみろよ。子供たちが聞いている……オルテガさんは、ここでも英雄だったんだろ?その英雄が行方不明だなんて、子供たちに聞かせたくないんだ。だからこの先生は必死に話をはぐらかしてるんだろ?」


 ともきはハッとして、回りを見回しました。確かに、小さな子供が不安そうに見つめています。

とも「あ、オルテガさんに伝えておきますよ。そのうち、この村にももう一度来るようにって」


 子供たちの顔がぱあっと晴れました!先生たちも勇者たちも一安心、胸をなで下ろします。


ひで「じゃあ、行こうか……とりあえず当面の謎も解けたことだし」
とも「そうだな……俺ももうベホイミ覚えたし、武器も防具も揃えた。海に出ても、そんなに苦労はしないだろうし」


 一行が階段を降りようとすると、突然子供の一人が叫びました。


ほだ「ん?なんだい?」


 男の子は頬を赤く染め、何か重大宣言をするようです。

*「あのさ 下にある かぶと
  おにいちゃんに あげるよ。
  大きくて ぼく かぶれないしさ。

ほだ「いいのかい?大事なものなんだろ?」

*「おにいちゃんに つかって
  もらったほうが かぶとも
  よろこぶと 思うんだ。
  だから おにいちゃんに
  あげるよ。

ほだ「う〜ん……でも、貰えないよ」
ひで「他人の行為は素直に受けておきなよ。お返しは……オルテガさんをここに連れてくることで果たせばいいじゃないか」
とも「なんだい急にお前たち、優等生的発言が増えてないか?」
まさ「育ちの良さが、つい出ちゃうんだよ」
ひで「僕も」
とも「勝手に言ってろ。あのアリアハンで育ちの良さも悪さもあるもんかい!」


 ほだかは男の子の目をじっと見つめ、にっと笑ってから頭を撫でてやりました。

ほだ「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」


 一行はもう一度、部屋の人々に別れを告げて階段を降りました。すると、そこにいた商人が喜色満面で駆け寄ってきましたよ??


まさ「うわっ、なんだい急に!?」
ひで「聞こえていたというより、聞いていたんじゃないの?」


 商人は額の汗をハンケチ(古キ表現)で拭うと、早口でしゃべくりました。

*「あなたが あのポカパマズさんの
  お子さんとは おどろきです。

ほだ「でしょ?全然似てないものねぇ」

 商人は初めて、愛想笑いでない笑顔を浮かべ、兜を手に取るとほだかに差し出しました。

*「さあ このかぶとを
  おもちください。
  あなたなら きっと
  つかいこなせるでしょう。





 さてさて、『オルテガのかぶと』を譲り受けた勇者たち。そろそろポルトガの王様に胡椒を渡しに行ってもいい頃合いでしょうか?といった所で今回はおしまい。オルテガ氏の出没年度がどうもあやふやなようですが……何度も旅に出ているオルテガ氏、恐らくノアニールからここに来たのではないでしょうね。バラモスが暴れ回る以前にたどり着いた、と考えるのが妥当なようで。さてさて、これからどうなりますやら。


 では、次のお話でお会いしましょう。
 世界がこのまま平和でありますように……









次回予告


 猛烈なかゆみに目を醒ました勇者たち。布団の中には入れた覚えのない猫たちが眠っており、その体からノミが大量に進出を始めていたのだ!仕方なく、夜中しかも北の村だというのに川で水浴びを始めたのだが……



ほだ「うううううう〜、寒い〜。寒くてかなわん」
まさ「ハックション!……参ったな、風邪ひいたみたいだ……ハックション!」


ひで「どうして平然としてるんだい?」
とも「そりゃもう、俺はザキの呪文を使えるからね。俺の布団に入ってきたノミはみんな死んだ」



 寒い夜を快適に過ごして貰おう、という宿の主人の願いはむなしく粉砕された。小さな親切大きなお世話と人は言うが、それでも他人が善意でしてくれたことに勇者たちは怒ることが出来ない。
 それは優しさであり、忍耐なのだ……


 次回、ドラゴンクエストIII「ミクロの決死圏」、ご期待ください!
 (内容及びサブタイトルは変更になる場合があります。ご了承ください)







第29話へ

「DQ3-Replay」トップに戻る