第20話 届け、この想い


 魔法のカギがピラミッドにある、という所までは突き止めた。しかし、肝心のカギへの道は石扉で固く閉ざされ、それを開くためのヒントを求めた勇者たちはここ、オアシスの街・イシスを訪れた……




 「参ったな、下着が汗だらけだ」
 戦士はそう言うと、苦笑いを勇者に向けた。前夜はとても安らかに眠れると言った気温ではなく、そのために勇者たちは大量の寝汗をかいていたのだった。
 「おう、起きたか」
 朝の鍛錬を終えた武闘家は、冷たい水の入った桶を自分のベッド脇へと持ってくる。
 「どうするんだ、それ」
 「ん?これか、これは、こうするのさ」
 武闘家は、手ぬぐいを水に浸してから固く絞ると、体を拭き始める。汗と体温が同時に奪われていくその光景に、戦士と勇者は『その手があったか!』と納得し、慌ててフロントで桶と手ぬぐいを借りて真似をし始めた。
 「うひゃあ、気持ちいいなぁ」
 「ふふふ、君たちは不便だねぇ」
 魔法使いが、得意そうにそう言った。彼の周囲を氷の結晶が待っている。ヒャド系の呪文により、彼は快適な空間を実現していたのだ。
 「へっ、いいですよ~、だ。これで十分気持ちいいもの」
 戦士は体を拭きながら、ニッと笑った。武闘家も、それに答えて笑った。
 「それより、すっげぇ話聞いたぜ」
 「なに、どんな話?」
 武闘家は得意げに鼻をぴくぴくとさせる。
 「ここのお城を治めているのは、なんとまだうら若い女王様だってさ!しかも絶世の美人と、こういう話だ。どうだ、登城が楽しみだろ?」
 昨日の内に、宿の主人を通して登城の申請はしてあった。そして、他ならぬアリアハンの勇者一行ならばと、特別に午前中の謁見を許されたのだった。
 本来、女王は午前中を執務に当て、午後に来客と謁見するならわしであったが、その場合は謁見の時間がかなり制限された。どうせ話を聞くだけだからと午後の謁見を申し込んだつもりだったが、特例で午前中、しかも二時間程度の謁見を許されたのであった。
 「へー、相変わらずそういうことに関しては早耳だな」
 魔法使いが半分あきれたように言う。
 「まぁね。男ばかりの旅、せめてこういう話だけは絶やしちゃならないと思ってね」
 「でもさ、僕の鎧、最近壊れてきたんだよな……女王様の前に出るのに、ちょっと恥ずかしいよ」
 「そうか……長旅で少しお金も貯まったことだし、城に向かう前に武器屋にでも寄ってみるか」
 勇者はそう言うと、替えの下着を身につけた。



 「うへー、広いなぁ……」
 城内の広大さに、勇者たちは圧倒されていた。アリアハンの城が幾つも入るような広大な敷地、そして整然と並ぶ石像。オアシスの城らしい、人工的な美に勇者たちは息を飲んだ。
 「こちらです」
 衛兵の指示に従って、勇者たちは玉座の間へと向かった。途中、廊下の壁や天井に施された細工にため息をつきながら。
 階段を登ると、そこは玉座の間だった。正面の玉座には女王とおぼしき美女が悠然と座っており、衛兵はその美女に向かって軽く会釈をすると、声を張り上げた。
 「女王様に申し上げます、アリアハンの勇者ご一行四名、ただ今謁見のため到着なさいました!」

 女王は悠然とそう言い、勇者たちに手招きをした。
 「アリアハンの勇者、オルテガ殿のお噂はかねがね耳にしております。そちらは、オルテガ殿のご子息とか……ようこそ、このイシスへといらっしゃいました!」
 「ははっ、ご尊顔を拝し奉り……」
 戦士が口上を述べようとするのを制して、女王は玉座から降りる。
 「そのような挨拶は必要ありません。今は、あなたがたに世界の命運がかかっております。私のほうこそ、土下座をしてお迎えしなければならないのです」
 そしてじっさいに膝をつこうとした女王を、魔法使いが止めた。
 「女王様、そのようなことはおやめ下さい……我々はただ、女王様に伺いたいことがあって参上したまでのこと。まだ世界を救えてもいない我々に、一国の王がひざまづく理由はありません」
 武闘家は、そんな女王に何か既視感のようなものを感じた。が、彼は慌ててそれを打ち消す。知っているはずがない、遠い異国の地で……
 「それで……訊きたいこととは、何ですか?」
 女王は玉座に戻ると、そう言った。
 「わざわざイシスに勇者ご一行がいらっしゃる……ということは、『魔法のカギ』について……でございましょう?」
 「まさしくその通りです」
 勇者は、言葉を選びつつそう言う。女王が、あまりへりくだった言い方を求めていないと、彼は雰囲気で察したのだ。
 「我々は魔法のカギを求め、この砂漠に入りました。ピラミッドにカギがあると判ったものの、そこに行き着くためには幾つかの罠を解除しなければならないようです。王家の方であれば、そのヒントをご存じではないか、とこう考えたのです」
 「そうですね」
 女王はそう言うと、持っていた扇子を閉じて、頬に数回押し当てながらなにやら考え出した。
 「古来より伝わる童歌、というものならございますが……」
 「それは、どのような?」
 「では、ちょっと失礼して」
 女王は二、三回軽く咳払いをすると、透明感のあるつややかな声で歌い始めた。


♪まんまるボタンは不思議なボタン、まんまるボタンで扉が開く
東の西から西の東へ、西の西から東の東♪


 「それだ!」
 武闘家が叫んだ。
 「あの時、落とし穴に落ちる前に押したのは確かにまん丸なボタンだった!」
 「ああ、これで魔法のカギが手に入るぞ!」
 戦士も驚喜し、魔法使いは女王に深々と礼をする。
 「有り難うございます、陛下。陛下のお陰で、魔法のカギが手に入ります!」
 「そうですか、お役に立てて何よりです……ところで、みなさまはこれからすぐにピラミッドへと旅立たれるのですか?」
 「はぁ、そのつもりですが……」
 「もし差し支えなければ、今夜はこの城に泊まられて明日、ピラミッドに向かわれては?明日であれば、ピラミッドまで護衛の兵をお貸しできますが……」
 さっきから、武闘家と女王の視線が何度も合う。その度に女王がなにか落ち着かないように思えるのは、錯覚だろうか?
 「それに……皆さまに何のおもてなしも出来ぬとあれば、我が国の名折れになります。どうか今晩はお城にお泊まり下さい」
 「僕はいいと思うよ」
 小声で戦士が言う。
 「下にさ、可愛い猫がいっぱいいたんだ。ちょっと触りたいし」
 「俺も賛成。ここの宮廷魔術師に、城の防御についてちょっと聞きたいんだよね」
 魔法使いがそう言えば、
 「僕もいいような気がするな。人の好意は無にしちゃいけないと、常々親父も言っていた」
 と勇者も頷く。
 そうなれば、武闘家だけ反対する理由もないわけである。
 「まぁ嬉しい!では、今宵は存分にお楽しみ頂けるよう、皆に準備をさせますわ!」



 贅を尽くした宴を終え、一行は用意されたベッドで寝息を立て始める。しかし、武闘家は何か落ち着かないものを感じて一人、テラスで夜風に当たっていた。
 「そこに誰かいるだろう?隠れていないで出てこい」
 気配を感じた武闘家は、姿勢をそのまま、背後にいる誰かに話しかけた。
 「武闘家さまですね」
 振り向くと女官がひとり、そっと柱の陰から手招きをする。
 「女王様がお呼びになられています。玉座の間の左手に、寝室へと続く階段がございます。そちらから、どうぞ」
 「しかし……」
 「女王様は、ずっとあなた様をお待ちになられていましたのよ」
 女官はそう言って意味ありげに笑うと、武闘家の手にカンテラを渡してそそくさと走り去っていった。
 「女王が、俺を待っていた?」
 武闘家はしばし考え、仕方がないといった風に首を振ると、玉座の間へと通路を歩いていった。昼間とはうって変わって静けさに沈む玉座の間。言われたとおりに左手の階段を登るとそこは、優雅な内装で飾られた寝室だった……
 「お待ちしておりました、まさはる様……」
 名を呼ばれてぎょっとする武闘家に、ベッドの上から女王は優しく微笑んだ。
 「お忘れですか?子供の頃、あなた様のご実家に預けられていた、小さな女の子を」
 「ま、まさか……アンジェリカかい?」
 「はい、アンジェリカ・ラキシスです!まさはる兄さま、お会いしとうございました!」
 武闘家がまだ幼い頃、数年間一緒に暮らしていた少女がいた。父が知り合いから預かったというその少女は、武闘家を兄と慕い、いつも後をくっついてきていた……
 「でも、なんで?なんでお前がここの女王様に?」
 「混乱なさるのもご無理ないですわ……私は元々このイシス王家の者。かつてこの王国に世継ぎ争いが起こり、私はたまたま城下にて兄さまの父上に助けられたのです。そしてアリアハンで成長し、正統な王家を支持する者と共にこのイシスへと舞い戻ったというわけです」
 「……なんだかすぐには納得できないな……だって、ザリガニに指をはさまれて泣いていたあのアンが、イシスの女王様なんて」
 アンジェリカはクスクスと笑うと、ベッドから降りた。
 「意地悪な兄さま、そんなこと覚えていらっしゃるなんて」
 「……でも、綺麗になったよ」
 「ええ、人は私の美しさを褒め称える……けれど、一時の美しさなど何になりましょうか……」
 「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ……ただ、どろんこになって鼻をたらしていた昔と比べるとさ、どうもね……」
 「もう、兄さまの口の悪さは変わっていらっしゃいませんこと!」
 武闘家は、女王との会話に胸が弾むことに気づいていた。が、それ以上に、女王が晩餐会でも見せなかった等身大の笑顔をこの会話の中で見せている、ということに安堵を感じていた。
 「しかし、勇者様のお仲間として兄さまが加わっているなんて……とても嬉しゅうございますわ」
 「ああ、みんな友達なんだ。オルテガさんが行方不明になっちまって、それを探すっていう目的もある。だけど、一番の目的はバラモス討伐さ」
 「兄さま……笑わずに聞いて下さいましね」
 「ん?」
 アンジェリカが、真摯な瞳を武闘家に向ける。思わず、武闘家も見つめ返す。
 「私、兄さまのことが好きです」
 武闘家は一瞬、我が耳を疑った。そして次の瞬間には混乱した。
 「え?ええ?」
 「……でも、兄さまは勇者様たちと世界を救うために旅をしている身、私のわがままでその旅を終わりにするわけにはまいりません」
 アンジェリカはきっぱりと言うと、カンテラを手に取ると立ち上がった。
 「さ、兄さま、ついていらして」
 階段を降り、中庭から城の外壁を通って地下通路へと降りていくアンジェリカ。武闘家はただ黙って、少女の後ろについていった。
 「いつか、きっと兄さまたちが平和を取り戻してくれると、私は信じています……そして、その時でいい……もし私の想いに兄さまが答えてくださるなら、このイシスへとお戻り下さい」
 「アン……」
 「強制はいたしません、人の心というものは移ろいやすいもの……かく言う私とて、例外ではありません……今は私情を捨て民を守る、それだけなのです」
 「アン、強くなったな」
 武闘家は嬉しそうに、そう言う。
 「えっ?」
 「女王として立派になったよ、すごい。俺にはとうてい真似できない」
 「でも、兄さまは勇者様を助けて魔王討伐に参加されていらっしゃる……それに比べれば、造作もないことですわ」
 ずいぶん歩いただろうか、地下室の古びた宝箱の前でアンジェリカは立ち止まると、ふたを開けた。そこには、黄金に輝く腕輪と爪が、真っ赤な布にくるまれて丁寧に置かれていた……アンジェリカは腕輪を手に取ると武闘家の前に差し出す。
 「こ、これは?」
 「砂漠の民が、遙か昔に精霊ルビス様から頂いた至宝、『星降る腕輪』です……これを身につけた者は、神のごとき素早さを手に入れると言います」
 「しかし、これは……」
 「そう、イシスの宝……だからこそ、兄さまに使っていただきたいのです。正直なことを言えば、世界の平和なんかどうでも良い、兄さまとこの国で暮らせれば、もし一週間後にバラモスの手がこのイシスを引き裂いても、それでもいいと思うのです!……ですが、私は女王……この地に住む人々の命を、私は守らなくてはなりません!」
 アンジェリカはいつしか、その美しい瞳から大粒の涙をこぼして絶叫していた。女王という公の立場と、少女という内面が激しく衝突し、彼女は泣いていたのだ。
 武闘家はそっと彼女の肩を抱き寄せる。アンジェリカの涙が、胸に染みていくのがはっきりと判った。
 「大丈夫、俺は負けない!きっとバラモスを倒してみせる。そして……きっと戻ってくる。それまで、この腕輪は大事に借りておくさ。それでいいかい?」
 「兄さま!」
 アンジェリカは涙を拭いて、微笑んだ。涙のせいで化粧はくずれ、見る影もなくなっていたのだが、それでも武闘家にはアンジェリカが美しく思えた。
 「そして……そしてこれは、『黄金の爪』という武器です。普通の武闘家には使いこなせぬため、神の武器とされ封印されてきましたが……もしよろしければ、これもお持ち下さい」
 「ああ、じゃあありがたく使わせて貰うよ」
 「あらあら、見てらんないよ」
 不意に、高い声が地下室に響いた。
 「だ、誰だ!」
 武闘家は身構え、アンジェリカはその陰に隠れる。カンテラの明かりに照らされたその正体は……城の一階にいた、一匹の猫だった。その猫が普通の猫と違う点、それは映し出される影が悪魔のものだということだった!
 「貴様、何者だ!?」

 
 使い魔は舌なめずりをしながら、武闘家を無遠慮に眺め回した。
 「ククククク……どうりで城の中を探しても『星降る腕輪』も『黄金の爪』もないわけだよ……こ~んな場所に隠していたなんてさ」
 「ど、どうして……この城には、幾重もの結界が張られているはず!」
 猫は意地悪そうに笑った……確かに、猫の顔のまま、使い魔は笑って見せたのだ!
 「甘いよね、人間ってさ……オレさまにはそんなものは効かない、そう!効かないんだ。低級悪魔じゃない、このオレさまには人間の張った結界なんて無意味なんだよね~。それに女王様、そんな奴に腕輪を渡したって無駄だよ?」
 「そ、そんなことはありませぬ!兄さまは勇者様と幾つもの戦いを抜けてこられた強者、きっと魔王討伐のお役に立ちます!」
 「ヘッヘヘヘ……そいつはどうかな?だって……こいつはここで死ぬんだからさぁ!!」
 使い魔は、猫の姿から本来の姿へと変移すると、武闘家に襲いかかった。
 「ほらほらほら、よけちゃうと女王様がケガするよ?どうしたどうした、せっかく素早さが上がっても無駄だったなぁ!だってホラ、お前は女王様にホの字だからな!」
 武闘家の体に、みるみるうちに傷が付いていく。血が流れ、服が破れる。女王をかばって、武闘家はただ使い魔のつむじ風のような攻撃をその身に受け続けている。
 「アハハハハ、ほらほらほら!反撃してごらんよ、得意の突きを見せてみなよ!」
 武闘家は攻撃の合間を縫って、一撃を放つ。しかし使い魔は、武闘家の拳が届く瞬間に体を霊体へと変移させて、物理攻撃を無効にする。
 「こいつ、今までの魔物とは違う……」
 「だから言ってんだろ~?オレさまは、魔王さまに近い種族なんだってさ!たとえまだ子供でも、人間ごときに倒されるような低級悪魔とは違うんだよな!」
 小さな爪が、的確に武闘家の体を捉える。
 「ケケケケケッ、どうした、もうお終いかい?だったらそろそろ殺しちゃうよ?アハハハハ、死ねよ、死んでしまえよ、愛しい人の目の前で、絶望に血を染めてさぁ!」
 「やめなさい!」
 アンジェリカが使い魔に掴みかかり、逆上した使い魔はアンジェリカを壁に叩き付けた。その様子は、まるでスローモーションのように武闘家の目には映っていた。
 「チッ、女王様はそこで静かにしてな……今こいつを殺してから、楽にしてやるからよォ」
 言って振り向いた瞬間、使い魔の視界から武闘家が消えた。そして次の瞬間、そのちいさな体を的確に捉えた黄金の爪は、使い魔がその体を霊体に変換して逃れようとするよりも早く、肉と骨を切り裂いていた。
 血が飛び散り、使い魔は床にどさり、と落下する。その瞳は、死の恐怖に濡れていた。
 「バッ、ババババカな!……ににに、人間ごときに、こここのオレさまが、ここここ殺される?ままままさか、腕輪と爪を使いこなせる人間がいたなんて……」
 使い魔はその後もぶつぶつと小声で呪詛の言葉を呟いていたが、武闘家がその拳で使い魔の頭蓋を打ち砕くとようやく静かになった。
 使い魔が完全に息絶えたのを確認してから、武闘家はアンジェリカに駆け寄って抱き起こす。
 「おい、大丈夫か?おい、おい!」
 アンジェリカは目を閉じ、なにか苦しそうに呻いている。頬の赤みが失せ、次第に土色になっていくのがはっきりと判った。武闘家はアンジェリカを抱き上げて、地下通路から出ると、力一杯叫んだ。
 「勇者、起きてくれ!頼む、女王が……アンが!」



 「もう大丈夫。ただ背中を強く打っただけで、骨にも異常はない。数日軽く痛むだろうけど、命に別状はないよ」
 勇者のそのセリフを聞いて、武闘家はへなへなと床にへたり込んだ。
 「良かった……」
 「しかし何だな、今の話が本当なら、この城の防御はまるで手薄ってわけか」
 魔法使いはふうっとため息をつく。
 「アリアハンの何倍も強い法力でも、高位の悪魔に対してはまるで効果なし。参ったね、どうすれば各地の街を守れるのか」
 「なぁ、お前もケガしてるじゃないか。薬草、つかうか?」
 「いや、いい」
 武闘家は戦士の差し出した薬草を断ると、ベッドに寝かされた女王の顔を覗き込んだ。一時よりは随分と表情もおだやかになり、頬に血の気も通ってきた。
 「まぁ……二人の関係を詮索したりはしないよ。呪文も効いているし、もうすぐ女王さまも目を醒ますだろう……僕たちは退散するよ」
 勇者がよっこらしょ、とかけ声をかけて腰を上げた。
 「あのな、こいつ……この女王さま、俺の妹みたいなもんなんだ」
 「え……」
 「昔、うちの親父がどこからか女の子を預かってきて、しばらく一緒に暮らしてたんだ……それが、イシスの王族の血を引く、こいつだったってわけだ」
 武闘家は、女王の頬にそっと指を触れながら、訥々と喋り続けた。勇者も、戦士も魔法使いも、ただ黙ってその話を聞いていた。
 「こいつ……俺がこいつを守って防戦一方になった時、使い魔に飛びかかっていったんだよ……自分がケガするかもしれないのに……」
 勇者はまた床に座り直した。戦士も魔法使いも、それに倣った。
 「なぁ勇者よぅ。俺、こんな気分初めてなんだ。俺、こいつと暮らしたい。ずっとこいつの側にいて、普通の生活をしたい、例え世界が明日滅びるとしてもだ!……だけどさ、こいつは言うんだ……『私は女王だから、この地に住む人々を守らなくてはなりません』ってさ……『私のわがままで、兄さまの旅をここで終わらせるわけにはいかない』ってさ……」
 武闘家の目から涙が落ち、シーツを静かに濡らした。
 「なぁ勇者、俺はバラモスを倒すぞ!絶対に倒す!こいつが、こいつがそこまで言わなくちゃなんねえほどにまで、バラモスの魔力は世界を覆っているんだ!大手を振ってこいつと会うことの出来る日を作るために、俺はバラモスを倒すんだ……」
 「ああ」
 勇者は短く言うと、今度はかけ声をかけずに立ち上がった。
 「だけど、夜明けまでまだ間がある。しばらく二人で過ごすといい」
 勇者たちが出ていき、部屋には武闘家と女王だけが残された。静寂……そして、女王は目を開ける。

 武闘家は、涙を拭いて精一杯の笑顔を作り、
 「ああ!」
 と胸を張った。











一部ゲーム画面のように見えるものは合成画像です。実際にこんなイベントはありませんのでご注意下さい(笑)。


次回予告


 旅の途中で、何故かはぐれメタルになつかれる勇者たち。経験値への誘惑、しかし純真な瞳に思いとどまらざるを得ない。



まさ「ううう……こんなチャンス、もうないよな……」
ひで「我慢しようよ、な?」


とも「お、親を捜していたのか……」
ほだ「……両親もろとも倒せば全部で3万近い経験値……いやいや、ダメだダメだ!」



 両親に出会えたはぐれメタル。勇者たちはただ唇を噛み締めて、笑顔を無理矢理うかべて去っていくメタル一家を見送る……はたしてそれが優しさなのか、誰も知らない……


 次回、ドラゴンクエストIII「金属光沢」、ご期待ください!
 (内容及びサブタイトルは変更になる場合があります。ご了承ください)







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