私、泣いてるの?
どうして、泣いてるの?
なぜまた、泣いてるの?
悲しくないのに、泣いてるの?
泣いてるのは、私?

『何を願うの?』
わからないの……
『心がわからないの?』
そう……


私が私でない感じ。
心が自分でない感じ。
私が知らない、私の心。
言葉にならない、私の気持ち。
痛くない、苦しくない、寂しくない、悲しくない、
初めての気持ち。

『何が不安なの?』
不安……不安は、言葉にならないこと
『言葉が見つからないの?』
そう……見つからないの
『自分の気持ちを知らないの?』
知ってる……でも、言葉を知らないの
『何を望むの?』
望むのは、絆……
『絆が欲しいの?』
そう、絆……


新しい絆。
今までと違う絆。
今までにない絆。
今まで知らなかった絆。
知ってる人との、新しい絆。

この気持ち、伝えたいけど、言葉がないの……




第参日

涙の意味




「おはよー、シンジ君」
「おはようございます。ミサトさん」
「昨日ごめんねー。考えごとしながら飲んでたら、つい飲み過ぎちゃってー」
「いいですよ、別に……」
「なーに怒ってんのよー」
「怒ってませんよ、別に……」
「そーお? そうそう、昨日遅かったけど、どこ行ってたの?」
「ミ、ミサトさんでしょ、綾波と話して来いって言ったの……」
「あ、じゃー、レイのとこ行ってたんだー。で、どうだった? 何か言ってた?」
「別に、何も……ただ、絆が、どうとか……」
「絆? 何、それ?」
「わかりませんよ、そんなの……ただ、何か希望はないのってきいたら、絆って答えただけで……」
「ふーん……ひょっとして、レイったら、シンジ君のことが好きなんじゃないのー?」
「な、何言ってんですか! ……そんなことあるわけないじゃないですか……」
「わかんないわよー。男と女の絆が欲しいっていう意味かもしんないしー」
「そ、それって、どういう意味ですか……もう、わけわかんないこと言わないで下さいよ」
「じょーだんよ、じょーだん。でも、それって、ほんとにどういう意味なのかしらねー」
「さあ……」


水曜日
ネルフ本部内第2実験場
機体相互互換試験
被験者:綾波レイ


「あの、葛城三佐」
「何? 伊吹二尉」
「今日の試験……本当に大丈夫なんでしょうか。昨日、あんなことがあったばかりなのに……」
「大丈夫……だと思うわ。一応、レイには確認してあるから。今日のテストのことをね」
「了解したんですか?」
「ええ……珍しく、積極的にね……」
「でも……」
「万が一の時の用意、してあるんでしょう?」
「ええ、まあ……」
「なら、やりましょう。やるしかないのよ。私たちは……」


ここはどこ?
ここは初号機の中。エントリープラグ。
碇君の匂いがするところ。
悲しみが消えていく感じ。
心が温かくなる感じ。
なぜか、落ち着くの。
どうして、落ち着くの……


 レイは少し上を向くと、目を閉じて、肺の中に少しだけ残っていた空気を吐き出した。
 泡になって浮かんでいく、息……身体が、溶けていく感じ……


「第一次接続開始」
「了解。データ受信、再確認。パターングリーンです」
「主電源接続、全回路動力伝達」
「了解。相互互換テスト、セカンドステージに移行します」
 管制室は重苦しい雰囲気に包まれていた。
 昨日のあの事故の後での、異例とも思える相互互換テスト。
 被験者に対して了解を得たことが、葛城三佐から全スタッフに伝えられたものの、 緊張の色を拭うことはできなかった。
 否定的な考え方は、当然といえば、当然のことであろう。
 自然に、テストのペースも緩やかになっていた。
「第二次コンタクトに入ります」
「A10神経接続、異常なし」
「初期コンタクト、全て正常」
「双方向回線開きます」
「ハーモニクス、全て正常」
「第三次接続を開始します」
「オールナーブリンク、終了」
「セルフ心理グラフ、安定」
「絶対境界線まで、1.5、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.3……」
 管制室にはマヤのカウントダウンの声だけが響いていた。
 緊迫感をいやが上にも高める声。
 全員、こわばった表情でモニターを見つめている。
 ミサトは腕を組んだまま、じっと実験場の中を見つめていた。
 グラフを正視できる心の余裕がないなんて……責任者として、失格だわ。
「……0.2、0.1、突破!……」
 マヤの声と、小さなビープ音が管制室に響きわたる。
 誰もが息を殺して、マヤの次の声を待っていた。
 一瞬の静寂。緊張の瞬間。
「……初号機、正常に起動しました……」
 管制室に安堵の息が広がった。
 窓から様子をじっと見守っていたシンジも「ハァ」と大きなため息を漏らしていた。
 マヤも小さなため息を一つつくと、すぐにグラフに目を走らせる。
「ハーモニクス、誤差±0.03。正常です……」
 ミサトは大きなため息をついた。
 それは管制室全体の雰囲気を表していた。
 取り越し苦労……そうでもないわよね。
 心配事が起こらなかったのに、それが心配な感じ。複雑な気分。
 それでも、やっとグラフを見る心の余裕ができた。
 もう一つため息をついてからマヤに声をかける。
「シンクロ率は?」
「良好。以前のレベルに戻ってます」
「そう……どういうことかしらね……」
「さあ……」
「脳波は?」
「……安定しています。今日は、ずいぶん落ち着いてますね……」
 ミサトとマヤは、お互いに顔を見合わせて苦笑した。
 まるで、狐につままれたような気分だった。
 いったい、どういうことなの?
 何がどうしたっていうの?
 これまでの二日間は、何だったの?
 レイの身に、あるいは心に、何があったというの?
「とにかく、テストを進めましょう……レイ、聞こえる?」
 ミサトはプラグに通じるマイクのスイッチをオンにして言った。
「……はい……」
「引き続き連動試験に入ります。いい?」
「……了解……」
 いったい、どういうことなの……ミサトはマイクのスイッチをオフにすると、 腕を組み、答の出ることのない思考の海に沈んでいった。
 目の前でマヤがテストを進めていくのをじっと見ながら。


同日
ネルフ本部内第2実験場
機体連動試験
被験者:碇シンジ


「パーソナルデータ、書き換え完了しました」
「了解。第一次接続開始します」
「LCL注水」
「主電源接続完了」
「各拘束、問題なし」
「了解。第二次コンタクトに入ります」
「A10神経接続、異常なし」
「初期コンタクト、全て問題なし」
「ハーモニクス、全て正常」
「第三次接続を開始します」
「ハーモニクスレベル、プラス20」

(あ……)
 シンジは頭の中に違和感を感じた。
 確かめるように額に手を当てる。
(この感覚……前もあったよな……直接、入ってくる……綾波……綾波レイ……でも、 初号機なのに、どうして……綾波が、入って、くる……)

 ピーーーーー!!!!
 アラームが鳴り響く。管制室にさっと緊張の色が走った。
 まさか、事故? 初号機が?
「どうしたの?!」
 ミサトがヒステリックに叫ぶ。
 全く油断していた。何逆上してんの。落ち着きなさいよ、ミサト!
 必死で自分に言い聞かせる。
「パイロットの神経パルスに、異常発生! パルス、逆流しています!」
「精神汚染が始まっています!」
「どういうこと?!」
「原因不明! エヴァ、制御不能です!」
 実験場の中では、初号機は激しく全身を震わせ、拘束具から逃れようともがいていた。
「全回路遮断、電源カット!」
 マヤが緊急停止レバーを引く。
 バシュッ……と音がしてボルトが飛び、アンビリカルケーブルが初号機の背後から離脱する。
 コンセントは地面に落ちる直前、ジェット式のショックアブソーバーシステムを働かせ、 ゴトリと音を立てて床に転がり落ちた。
「エヴァ、予備電源に切り替わりました。活動停止まで、あと8秒!」
 怪我の功名……レイの相互互換テストが暴走したときのために、 エヴァの内部電源を10秒に設定してあったことが、こんな時に役立つなんて……
 ラッキー? いいえ、起こるはずのない事故が起こって、何がラッキーだって言うの?
「シンジ君は?」
「回路断線、モニターできません!」
 ミサトはいらだちながらも、エヴァの活動が停止するのを待つしかなかった。
 そしてそんなことしかできない自分を呪った。
 早く……早く、止まりなさいよ!
「5、4、3、2……」
 初号機はなおも激しく腕を振り回す。
 拘束具を固定した鉄筋コンクリート壁にピキピキと亀裂が走った。
「……1、0! ……エヴァ、活動を停止しました……」
 初号機は拘束具を破壊することもなく、苦悩を抱く男のように頭を抱えた姿勢で止まっていた。
 マヤは実験場の中を見つめながら呆然としていた。
 どうして……どうしてこんなことが起こったの?
 まるで、零号機の事故と一緒じゃない。
 レイの再起動実験、シンジ君の相互互換テスト……
「パイロットの救出、急いで! 下へ行くわ! 伊吹二尉! 後をお願い!」
「は、はいっ! エントリープラグ排出、LCL緊急排水!」
 マヤはミサトの声で我に返った。そう、仕事よ、仕事! ショック受けてる場合じゃない……
 ミサトは実験場へ通じるエレベーターに乗って降りる瞬間、不思議な光景を見た。
 レイ? レイが? どうして?
 レイは管制室から実験場を見渡すガラス窓に張り付くようにして、 初号機の方を……シンジの方を見つめていた。
 ガラスがなかったら、今にも飛び降りて行きそうにさえ見える。
 何よ、あの表情は? まさか、そんな……
 降りていくエレベーターからは、レイの表情がわずかにしか伺えなかった。
 しかしその表情は、ミサトが今までに見たことがないレイの表情のような気がした。



third day

just wait and see





ここはどこ?
ここは病院。
実験中の事故。
事故を起こしたのは初号機。
入院したのは碇君。
目の前に、寝ているのは碇君……


「……う……」
 どこだ、ここ? 真っ暗だ。この天井、見たことある。またあの天井だ。
 病院……そう、事故を起こして……それから、どうなったんだろう……今、何時だろう?
「……気がついた?……」
 誰? ……綾波? ……綾波の声……綾波だよな。
 どこにいるんだよ……どうして真っ暗なんだ?
 人のいる気配……人の動く気配……
 その時、天井の電気がふっと灯った。
 だんだん、明るくなってくる。
 少しずつ……変わった電気だな……目が慣れてきて……
 横を向くと、窓。反対側を見ると、ドア。ドアの横に、綾波……
「綾波……」
「…………」
 レイは無言でベッドに歩み寄ると、ベッドの脇にしつらえられた椅子に座った。
 そしてそのままシンジの方を見ている。
 赤い瞳。いつもと同じ、冷たい瞳。いや、いつもより、少し冷たくない瞳……
 シンジの心の中に、なぜだか不安がよぎった。
「あ、あの……また、出撃なの?」
「……いいえ……どうしてそんなこときくの?……」
「前にも、こんなことがあったから……」
 シンジは天井の方に顔を向けて言った。
 でも、これが3回目だよな。病院で起きたら、綾波がいたの……
 あの時の綾波は、今の綾波じゃないけど……
 まだ、頭が混乱してるのかな。うまく考えられないや……
 やっと、部屋の明るさに目が慣れてきた。今、何時なんだろう?
「あの……今、何時?」
「……8時……」
「よ、夜、だよね……」
「……そう……」
「……ずっと、いてくれたの……」
「…………」
 レイは返事をする代わりに、小さく頷いた。
 どうしてずっといたんだろう?
 昨日の、お返しなのかな……
「あの……」
 シンジがそう訊こうとしたとき、レイが言葉を遮って言った。
「……何か、食べる?……」
「え……」
 そういえば、お腹が減っているような気がする。そうだよな、8時なんだから……
「あ、うん……食べるよ……」
「……そう……じゃ、もらって来るから、待ってて……」
 そう言ってレイは立ち上がると、病室の外に出ていった。
 一人になった病室。いつもの光景。
 まだ、頭が混乱している。どうなったんだっけ……そう、いつもの、連動試験。
 起動したときに、綾波が……綾波が、頭の中に、入ってきて……
 そこまで思い出したとき、パシュッ……とドアが開く音がして、レイが戻ってきた。
 食事のトレイが置かれたワゴンを押して。
 ベッドの脇にワゴンを横付けし、 簡易テーブルをベッドの上に固定すると、 トレイをその上に置いた。
 シンジが起きあがって座ると、レイがコップにミルクを注いで、シンジの方に差し出す。
「……はい……」
「あ……ありがとう……」
 シンジはコップを受け取ると、ぼんやりと考えていた。
 これ、3回目だよな、綾波に、飲み物もらうの……
 昨日ももらったし、一昨日も……
 黙ってコップを見ているシンジに、レイが声をかけてきた。
「……どうしたの?……」
「え、あ、うん……食べるよ。いただきます……」
 レイはベッドの横で座ってじっとシンジの方を見ていた。
 見られながらって、何となく食べにくいな……
 でも、向こうに行っててって言うのも悪いし……
 シンジはレイの視線を感じながら、のろのろと食事を摂り始めた。



「失礼します」
 ノックと共に、マヤがミサトの執務室に入ってきた。
 ノートパソコンと、今日の実験報告書を持って。
「どう? 原因、わかった?」
 ミサトが勢い込んで訊く。
「まだです……システムには、異常は認められませんでした。ただ……」
「ただ、何?」
「事故の直前、被験者の脳波が大きく乱れています。 同時に、エヴァからのイレギュラーなパルスが確認されています。 それが原因ではないかと推測されるんですが……」
「シンジ君に訊いてみないと、わからないって訳ね……」
「はい……」
「病院からは何て?」
「脳波は正常に復帰していますが、ショックで事故の前後の記憶が乱れる可能性があるそうです。 事情聴取は時間をおいてからということになりますね。 それと、明日のテストには、ドクターストップがかかっています」
「ハーモニクステストもダメなの?」
「一応、様子を見た方がいいと……」
「そう……じゃあ、明日の実験は、今日の追試を兼ねて、 レイの相互互換テストにした方がいいかしら」
「私も、そう思います」
「シンジ君は、今日は帰れそうなの?」
「本人次第だそうです」
「そう……」
 ミサトとマヤは同時に大きなため息をついた。全く、どうなってるっていうの……



 食事が終わると、綾波がトレイを下げてくれた。
 その間に先生が来て、2つ3つ、質問をして帰っていった。
 ワゴンを置いて綾波が戻ってくると、またベッドの横に座って、僕の方を見ている。
 でも、視線は安定していないような気がする。
 顔だけこっちに向いてるけど、視線は僕を見ていたり、見ていなかったり……
 そう、何となく、虚ろな視線だ。
 どうして、ここにいるんだろう? いつまで、いてくれるんだろう?
「あ、綾波……」
「……何?……」
「あの……帰らなくていいの?」
「……どうして?……」
「だって、もう、夜遅いし……」
「……昨日、私の目が覚めるまで、あなたは待っていてくれたわ……」
 そう言ってレイは、じっとシンジの方を見つめた。
 赤い視線。いつもよりほんの少し、冷たくない視線。
「お返し……ってこと?」
「……そう……」
 レイの瞳の焦点が、シンジを通り越してその先にあった。
 遠い目……夢見るような瞳。
 夢? 綾波は、夢を見たことがあるの?
 ……そんなこときいて、どうなるの?
「あ、綾波……」
「……何?……」
「綾波は……夕食、食べたの?……」
「……まだ……」
「まだ、って……それじゃ、ずっといてくれたの……」
「…………」
 レイは返事をする代わりに、また小さく頷いた。
 昨日、僕は、病室に来る前に少しだけ食べ来たんだけど……
「どうして……食べてないの……」
「……待ってたから……」
 それじゃ、答になってないよ。どうして待ってたのかって、きいてるのに……
「どうして、待っててくれたの……」
「……そうしたかったから……」
 でも、どうして……
 レイはシンジから視線をはずした。
 うつむき加減に、どこを見るでもなく、視線を漂わせている。
 沈黙の時間が流れる。
 こんな時、どうしたらいいんだっけ。
 わからないんだったか、忘れたんだったか……まだ頭が混乱してるのかな。
「……帰るの?……」
「え……」
 シンジの意識が思考の霧の中で遭難していると、レイが救出してくれた。
 でも、はっきり聞こえなかった。今、何て言ってくれたんだっけ……
「……帰らないの?……」
「え……あ……う、うん……帰るよ……」
「……そう……服、もう、もらって来てるから……」
「あ……ありがとう……」
 レイは足元に置いてあった紙袋からシンジの服を取り出すと、ベッドの上にそっと置いた。
 きれいに畳んである。ハンガーに吊ってあったはずなのに……
 綾波が、たたんでくれたのかな……
 ミサトさんは、服なんかたたまないし……
 着替えようと思ってレイの方を見ると、まだじっと椅子に座っている。
 病室から出ていく気配がない。
 そうか、綾波だから……恥ずかしく、ないんだ……
「あ、あの、綾波……」
「……何?……」
 レイは視線を宙に漂わせたまま答えた。
「あの……外で、待っててくれないかな……」
「……そう……」
 レイはちらりとシンジの方を見て立ち上がると、くるりと踵を返してドアの方に歩み寄った。
 パシュッ……と電動ドアを開けて出ていく。
 そして廊下に出て、シンジに背を向けたまま言った。
「……退院の手続き、しておくから……」
「え、あ……ありがとう……」
「……それと、帰ること、葛城三佐に、連絡しておくわ……」
「あ……ありがとう……」
 シンジの最後のお礼の言葉は、ドアが閉じる音にかき消された。
 シンジは大きなため息をつくと、のろのろと起きあがって服を着替え始めた。
 綾波って、いつも冷静なんだな……
 昨日の僕は、この半分もできなかったっていうのに……



「綾波……」
「……何?……」
「夕食……食べなくていいの?」
「……うん……」
「どうして……」
「……いつも、あんまり食べないから……」
 綾波を家まで送っていく間にしゃべったことは、これだけだった。
 けが人であるはずの僕が、綾波を家まで送って行くと言っても、 綾波は「そう」とひとこと言っただけだった。
 断られなかったから、送って行くことにした。
 玄関まで送って行って、「もう遅いから」と言うと、 今日の綾波は引き留めなかった。
 ただ、「また、明日」とだけ言ってくれた。


 家に帰ると、例によってミサトさんは酔っぱらって寝ていた。
 僕のことなんか、全然心配してくれてないんだ……



ここはどこ?
ここは、私の部屋。
私の、ベッドの上。
あそこはどこ?
あそこは、碇君のエヴァ。
碇君のエントリープラグ。
碇君の魂の座
私が一番、落ち着いた場所。
私が一番、安心した場所。

『どうして、落ち着いたの?』
わからない……
『どうして、安心したの?』
わからない……

安心
不安がないこと。
心が安らぐこと。
心が落ち着くこと。
今日の私。
痛くない、苦しくない、寂しくない、悲しくない、
初号機の、エントリープラグ。
碇君のいた場所。
碇君のいる場所。
碇君の匂い。
碇君の感じ。

『どうして泣いたの?』
泣いた……私、泣いたの?
『どうして泣いたの?』
不安だったから……
『何が不安だったの?』
碇君……
『碇君を、心配したの?』
心配……わからない……

『どうして泣いたの?』
泣いた……私、泣いたの?
『どうして泣いたの?』
うれしかったから……
『何がうれしかったの?』
碇君……
『碇君を、心配したの?』
心配……してない……うれしかったの……
『何がうれしかったの?』
碇君が、気がついたこと……

碇君、泣いてた……
あの時、私を見て、泣いてた……
うれしかったの?
だから、私も、泣いたの……
うれしかったから……

うれしいときにも、涙が出るのは、どうして……



新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。

To be continued...



Written by A.S.A.I. in the site Artificial Soul: Ayanamic Illusions