前号からのつづき
「わたしは、あの夜、さくらんぼをさがしにいきました。かあさんが、さくらんぼを食べたいというので…。それで、外にでましたが、くらくて手さぐりであるきました。さくらの木があったのでのぼったのです。一番上までのぼったとき、お月さまが、雲のあいだから顔を見せました。そのとき、わたしは、さくらの木をまちがえたことに気づきました。それは、のん太ちゃんのさくらの木だったのです。わたしはすぐおりました。こうもりさんも、もぐらさんも、そのときのわたしを見たのだと思います。わたしは、すっかり悪いりすになってしまいました。うそなんかいったりして…」
「うそをいってたんだって!わたしにだけでも、話してくれればよかったのに。こまったことになったな」
りべる弁護士は、頭をかかえこんでしまいました。
「りべる弁護士はだまっていなさい。まり子、どうして、いままでそのことをかくしていたのだ」
と、ふくろう裁判長がたずねました。
「うたがわれたくなかったのです。もん吉じいさんから、さくらんぼがなくなったことをきいたとき、うたがわれると思ったのです。わたしは考えました。あんなくらい夜、外を出あるいたりすなんていないだろうと思ったのです。外へ出たということだけでも、うたがわれるのに、わたしは、のん太ちゃんのさくらの木にのぼっていたのですから、もっとうたがわれてもしかたがないと思ったのです」
「それで、のん太の木にはのぼったが、さくらんぼはとっていないというのだね」
「はい。ほんとうに、とったりなんかしていません。それからあと、自分のさくらんぼをかあさんのところへ、もってかえっただけです。ほんとうです。ほんとうに…」
まり子はかなしそうでしたが、もう、ないてはいません。ないたりなんかしない、ぜったいにないたりなんかしないって、がまんしているのです。
「正直によくいってくれた。さいごに、もうひとつだけきく。さくらんぼをとっていないということを、だれか知っているものがいるかね」
まり子はうなだれました。
・・・証人がいなければ、だれもほんとうとは思わないのかしら…。
「だれも、だれも知りません。ただ、お月さまだけが、わたしのほんとうのことを知っています」