第7章までのあらすじ
りすののん太のさくらんぼがなくなりました。さるのもん吉警察署長やブルドッグ検事がしらべたところでは、意外にも、のん太のなかよしのまり子があやしいようです。
裁判長は、ふくろう。弁護士は、はとのりべる。まり子は無罪を主張しました。もぐらや、りすのむんく、野ねずみなどの証言は、どちらかといえば、まり子に不利なものでした。けれども、からすの証言は、りべる弁護士がうそを見やぶりました。
第8章 三回めの裁判
ブルドッグ検事が、きつねのこん太をよびだしました。
「あなたが、五月四日の夜に見たことを、くわしく話してください」
「あの夜はくもっていましたけどね、ちょうど、雲のあいだから、お月さまが顔をだしたとき、まり子がさくらの木にのぼっているのを見ましたよ。それも、のん太のさくらの木にね」
「そのさくらの木で、まり子はなにかしていましたか」
「上から三番めの枝にいましてね、大きなさくらんぼを食べていましたよ」
「それにまちがいありませんね。では、質問を終わります」
ブルドッグ検事がすわると、りべる弁護士がたちあがって、質問をはじめました。
「あなたは、五月四日の夜、外に出たのですか」
「ええ」
「ほんとうに出たのですね」
「はい」
「では、あの夜、ひよこのぴー子が、あやしいものにさらわれそうになったって、にわとりのけっこうさんからききましたが、あなたのしわざだったのですね。きつねの足あとがのこっていたそうですから、なんだったら、あなたの足とあわせてみましょうか」
「とんでもない。そんなこと、なにかのまちがいですよ」
「だけど、あなたは、五月四日の夜、外に出たんでしょう」
「ええ、いや、そうじゃない。なにかのまちがいだな。いや、まちがいじゃなくて、わたしの思いちがいかな」
こん太が、目を白黒させている。
「ああ、思いだしましたよ。やっぱり、わたしの思いちがいです。そうそう、あの夜は、頭がいたくて、うちでねていましたよ。夢を見たんだ。それでまちがえたんだ。それを、ほんとうにおこったことだと思ってしまったんだ。それにしても、へんな夢を見たなあ」
からすとちがって、きつねは頭がいいから、うまいぐあいにとぼけている。
「それでは、五月四日の夜、まり子がさくらんぼを食べていたというのは、うそなんですね」
「うそじゃないんです。思いちがいですよ。頭がいたかったから、夢で見たのを、ほんとうにあったことだと思ってしまったんです」
「裁判長!」
ブルドッグ検事が、りべる弁護士をにらみつけながらいいました。
「りべる君は、ひよこのぴー子のことで、こん太をおどし、じぶんにつごうのいいことばかりをいわせている。こんなたずねかたをすれば、だれだって、りべる君の思っているとおりのことをいいます。おどして、質問するのは、悪いことです」
「ブルドッグ検事のいうとおりだ。りべる君のたずねかたが悪い。証人をおどしたりしないで、正しい質問をしなさい」
ふくろう裁判長がそういったので、ブルドッグ検事も腰をおろしました。
いいところだったのになと、りべる弁護士はざんねんそう。
「とにかく、五月四日の夜、あなたはまり子を見たのですか」
「いいえ、うちでねていました」
「質問終わり」
きつねのこん太が、証言席からたちあがりかけたとき、ふくろう裁判長が、
「こん太君、ちょっとそのままでいなさい」
と、するどい声でよびとめました。