前号からのつづき


「からすさん、あなたが、五月四日の晩に見たことを話してください」
「まってました。わたしゃ、いつしゃべれるかと、さいぜんから、もじもじしてたんですよ。あの晩はへんにねむれなくて、お空をとんでいたんだっけ。そしたら、まり子がのん太のさくらの木にのぼっているのを見たんですよ。『こいつはおかしいな』そう思いました。ところが、まり子はぼくが見ているとも知らず、一番大きなさくらんぼを、むしゃむしゃ食べはじめたんです」
 からすは、ちょっとつばをのみこんで、しゃべりつづけました。
「わるいことをしているのを見たら、とめなくてはいけないんですけど、まり子はいつも評判のいい子だから、見まちがいじゃないかと思ったもので。でも、あれは、見まちがいじゃありません。しっぽのさきが白かったもの」
「もうけっこうです」
 あわてて、ブルドッグ検事がとめました。からすはおしゃべりだから、一日じゅうしゃべりかねない。これじゃ、裁判がすすまなくなる、そう思ったのです。
 りべる弁護士が、質問をはじめます。
「その夜は、はれていましたか」
「ええ」
「くもってはいなかったのですね」
「ええ」
「裁判長、五月四日の天気をかいた森の新聞を見てください。『その夜は、くもりがちで、風がすこしあり、月もほとんど出なかった』そうかいてあるはずです。からすさん。あなたは、裁判でうその証言をしたら、罰せられることを知っているんでしょうね」
「ええ」
 からすは、おそるおそる答えます。
「まり子が大きなさくらんぼをとった枝は、上からなん番めでしたか」
「えーと、四番めです」
「またまちがえましたね。なくなったさくらんぼは、上から三番めになっていたのですよ」
「なにしろ、くらかったものですから」
「さっき、あなたは、その晩ははれていたといいませんでしたか」
「そういったかな。もしそうだったら、思いちがいです。その晩はくもっていました」


つづく