第4章までのあらすじ

 りすののん太の、さくらんぼがなくなりました。さるのもん吉署長とブルドッグ検事が捜査にのりだしましたが、意外にも、のん太のなかよしのまり子があやしいようです。


第5章 裁判

 森のなかほどに、広場がありました。そこが裁判所です。ながいあいだ、なにもおきなかったので、草がぼうぼうとしげっています。
 裁判がひらけるように、きれいにしなければなりません。
 やぎとうさぎがよびあつめられました。みるみるうちに、草は食べられてしまいました。
 さて、じゅんびができました。
 ひさしぶりの裁判に、少し興奮しながら、森の動物たちがあつまってきます。
 ふくろうの裁判長をまん中にして、右がわにブルドッグ検事、もん吉署長、のん太。左がわには、はとのりべる弁護士とまり子。
 証人席には、りすのむんく、もぐら、野ねずみ、からす、こうもり、それからきつねのこん太。
 まり子はうつむいていてすこし悲しそう。
 傍聴席には、森の動物たちがいっぱいつめかけています。
 はとのりべるは、頭がいいという評判で、りすのむんくがまり子のためにとくに弁護をたのんだのです。
 ふくろうの裁判長は、サングラスをかけています。そうでもしないと、まぶしくてかなわないのでしょう。
 そういえば、もぐらは目かくしをしています。お日さまを見ると、めくらになってしまうからです。
 裁判長がせきばらいをして、木づちで、トントンと机をたたきました。
 みんな、しーんとして、はじまるのをまちました。
「さて、これから、さくらんぼ事件の裁判をはじめます。みんな、さわいだりすることのないように。もし、そのようなことがあれば、裁判を中止してしまいます」
 ふくろう裁判長が、説明をはじめました。
「この事件をまとめていうと、次のようなことになる。五月五日、のん太は、さくらんぼがなくなっているのに気がついた。そのさくらんぼが、のん太のものだということや、ほんとうになっていたということは、りすたちみんなが知っているとおりだ。たぶん、だれかが、のん太にだまって食べたんじゃろう。こんなことがおきるなんて、わたしは、とても悲しい。森の平和のために、だれがやったのか、見つけなくてはならん。では、ブルドッグ検事からはじめなさい」
「ちょっと、ちょっとまってください!」
 のん太がさけびました。
「さくらんぼをとったのはまり子ちゃんだと、ブルドッグ検事がいっていますけど、それはまちがっています。まり子ちゃんとはなかよしだから、よく知っている。そんなことなんか、ぜったいにしやしない。もし、そうだとしても、ぼくは裁判してもらうのをよします。この前もそういったけど、ブル検事にいいくるめられたんだ。ぼくがよしたら、裁判なんかしないですむでしょう」
 ブルドッグ検事が、顔をまっかにして、
「わしはブル検事ではない。ブルドッグ検事だ。まちがえてはこまる。それはそれとして、なにかがなくなったのなら、見つけにゃならん。それがぬすまれたのなら、犯人をつかまえにゃならん。これは、あたりまえのことだ。なかよしか、なかよしでないか、そんなことは関係ない」
 まり子も、だまっていることができず、
「のん太!」
 おこっているから、よびすてです。
「ほんとうに、わたしがとったと思っているの。そんなことなんか、けっしてしないわ。だから、だから裁判してもいいじゃないの」
 ここまでいうと、まり子は、わっとなきだしました。のん太は、むねがしめつけられるような気がしました。
「だけど、だけど、のん太ちゃんまでわたしをうたがうなんて…」
 あとは、なき声とはなをすする音で、なにをいっているのかわかりません。
 森の動物たちは、わあわあ、ぎゃあぎゃあ、わんわんこんこんと、いっせいにさわぎはじめました。
「どうだい、ブルドッグ検事がまちがっているのかな」
 のら犬のわん公がいいました。
「そうだな。彼はいままでまちがったことがないからな。たぶん、正しいんだろう」
 ブルドッグ検事には、頭のあがらないおおかみが答えます。
「いやいや、まり子はうそをつくようなりすじゃない。病気のかあさんをたすけてな、かんしんな子じゃわい。わしも、かげながら、たすけてあげようと思っとるんだがね、あの子は勝ち気で、ほかのたすけはかりないというものでな」
 りすの、むうむうじいさんが反対します。
「わたしは、ブルドッグ検事が正しいと思う」
 わん公は、おおかみに賛成です。
 ほかの動物たちも、わいわい、がやがや、正しい、まちがっているとおおさわぎ。
 ふくろう裁判長は、木づちをトントンとうって、
「しずかに、しずかに。しずかにしないと裁判を中止する」
 これはたいへんだと、みんなおとなしくなりました。
「とにかく、裁判をつづけることに、みんな賛成なのかな」
 まり子がうなずきました。しかたなく、のん太もうなずきます。
「それでは、ブルドッグ検事、はじめてください」
 ブルドッグ検事は、それまでもん吉署長となにかうちあわせていましたが、いせいよく立ちあがりました。


つづく