前号からのつづき


「ブルドッグ検事、わしは署長をやめたいよ」
 もん吉署長は、すっかり気が弱くなっています。
「どうしたんだい。わしのほうにも証人があつまったがね、犯人は、りすのまり子だ」
「まり子ですって。いったい、だれがそんなことをいってるんです」
「こうもりに、からす、それにきつねのこん太だ。そのいっていることをまとめると、まり子にまちがいないのだよ。どうだい、もん吉署長。すっかりこの仕事がいやになったようだが、そのわけをあててみようか」
「どういうわけだというんです」
「たぶん、あんたがしらべても、まり子があやしかったのだろう。なかよしのまり子がうたがわしいので、やめたくなったのとちがうかい」
「そのとおりですよ。あの子がそんなことをするはずがないのに、しらべればしらべるほどあやしくなる。頭がどうかなってしまいそうです」
「しかしな、もん吉署長。だれでも、ふとしたことで、まちがったことをしてしまうものだ。まあ、それはそれとして、正しいものは正しい、悪いものは悪い、それを見つけるのが、われわれの仕事じゃないのかい。裁判をひらいて、みんなのいうことを聞いてみれば、このこともよくわかるだろう」
 もん吉署長は、しかたなくうなずきました。
 そのとき、のん太が、顔色をかえてとびこんできました。
 人さわがせなきつねのこん太が、あることないこと、のん太にいったようです。
「まり子ちゃんがあやしいなんて、そんなこと、うそだいっ!」
「まあ、まちなさい」と、もん吉署長がとめようとしました。
「ぼく、まり子ちゃんに聞いたんだ。そしたら、なんにもとったりなんかしていないっていったよ。それでも、まり子ちゃんを裁判にかけるつもりなら、ぼくのさくらんぼは、なくなっていないことにするよ。そしたら、裁判しなくてすむでしょう」
 もん吉署長には、のん太の気持ちがよくわかりました。
 ブルドッグ検事は、なきだしそうなのん太にむかって、しずかに話しかけました。
「それはそれとして、ほんとうに、まり子がなにもしていないのだったら、裁判をしても安心していていいのじゃないかね。それに、さくらんぼがなくなったのは、ほんとうのことだし、だれかがとったのにまちがいはない。わしは、うそをつくのは大きらいだ。だから、はっきりいうと、いまいちばんあやしいのは、まり子だよ。まり子は、きみと、なかよしかもしれん。もん吉署長ともなかよしなんだ。だけどな、のん太。それはそれとして、正しいものは正しい、悪いものは悪い。このことをはっきりさせないと、森の中の平和は、うそっぱちになってしまう。ながいあいだまもってきた平和が、たったさくらんぼひとつでだめになってもいいと思うのかい。そんなことはできない」
 たしかに、ブルドッグ検事のいうとおりです。だけど、のん太はがまんができず、思わずなみだぐんでしまいました。

第5章につづく


ものがたりのはじまりにもどります。