前号からのつづき・・・


「どうしたの、へんな顔をして。こんなにいいお天気なのに」
 声をかけたのはまり子でした。しっぽがかわいくゆれています。そのさきが白いのを、もん吉じいさんは悲しく思いました。
・・・きっと、まり子じゃないさ。こんないい子が、とったりするわけがないじゃないか…。
「うん」と、気をとりなおしたもん吉じいさんがこたえました。「さがしものをしているのさ。のん太の大きなさくらんぼが、ゆうべのうちになくなったのでね。だれかがぬすんだのにちがいないんだが、それをさがしているのさ」
 まり子のほっぺたが、ぴくっとうごきました。
「そ、それで」
「ちょっとねんのために聞いておくけど、きみは、ゆうべ外を出あるいたりしてはいないだろうね」
「ええ」
 なんだか、その声が不安そうでした。
・・・まり子は、うそをいっているのかな.......。
 もん吉じいさんは心配になりました。
・・・まり子がとったりするだろうか。そんなはずはない。あんなにのん太となかよしなんだ。ほしいといえば、もらえるにきまっている。そんなものを、とるわけがないじゃないか。そうだ、足の大きさをはかってみよう。きっと、あわないだろう…。
「いまね、みんなの足の大きさをしらべとるんじゃよ。このノートの上に、足をのせてくれんか」
・・・あわなければいい。きっとあわない…。
 もん吉じいさんは、そうつぶやきながら、まり子の足をノートの上にのせました。
 それは、さくらの木のねもとにのこっていた足あとと、ぴったりあいました。
 もん吉じいさんは、目のまえが、まっくらになったような気がしました。
・・・やっぱり、まり子なのだろうか。わしは、頭がいたいよ…。
 もん吉じいさんは、頭をかかえこんでしまいました。それでも、まり子に、へんに思われたくなかったので、
「かあさんの病気はどんなぐあいだい」
「もう、ずいぶんいいの」
「そうかい、そりゃよかった。かあさんを大切にするんだよ」
「ええ、でも、もん吉じいさん。どうかしたの。顔がまっさおだわ。だいじょうぶ?」
 もん吉じいさんは、もう、まり子の顔を見ることができませんでした。なにか、とてもたいせつにしていたものから、うらぎられたような気がしたのです。
・・・もし、まり子のいっていることがうそだったら......。ゆうべ、外に出なかったということも、ほかの、なにもかもがうそだったら…。まり子には、まだ、なにもいわないでおこう。もしかしたら、わしのしらべかたが、まちがっているのかもしれない。ほんとうに、そうだったらいいのだが…。
「じゃ、さようなら」
 やっとの思いで、それだけいいました。
「ほんとうにだいじょうぶ?元気をだしてね、もん吉じいさん」
「もう、なんでもないよ」
 もん吉じいさんは、うつむいてあるいていきました。なんだか、急に年をとってしまったようです。


つづく