前号からのつづき

「そうだべ。なにも見なかっただ。ゆんべはな、雲が出ててくらかったどもが」
 どうも、いつも土の中でしゃべっているせいか、もぐらのことばはわかりにくい。
「いや、ちょっと、ちょっぴりまってな」
「なにか見たのかい」
「うんうん、ちょっと雲がきれてな、お月さまがのぞいたときよ、だれか、この木のそばをあるいとった。「こんばんわ」っていったら、びっくりしたようじゃったぞ。ああ、ちいちゃな、あれはなんといったけな、年をとると思いだせん。だめじゃなあ」
「りすじゃなかったかね。それも、女のりすじゃなかったかい」
 ブルドッグ検事がよこからたずねました。
「うん、うん、そうじゃった。かわいいりすだったべ」
「だれだか知らないかい」
「うんにゃ、わしは、りすに知りあいはおらんでよ。名前は知らん」
「なにか、目じるしはなかったかい」
 こんどは、もん吉署長がたずねます。
「かわいかったべ」
「それだけじゃなくってさ。りすはみんなかわいいんだからさ」
「もぐらの子もかわいいべ」
「そうだな」と、もん吉署長もにがわらいです。「なにかほかに思いだしたことはないかい」
「うーん、あっ、そうだべ。あのな…」
「な、なんだい」
「そんなにあわてたら、忘れてしまうべ。あのなあ、しっぽのさきっちょがよ、ちょっぴり白くてな、かわいかったべ」
 しっぽのさきの白い、女のりすか。それをさがせばよいのだ。もん吉署長は、ブルドッグ検事と顔を見あわせて、大きくうなずきました。
「どうもありがとう。なにかあったら、また話を聞きたいんだが、どうすれば、あんたをよべるのかい」
「そうじゃな、このさくらの木の下をトントンと三つたたきなされ。そうしたら出てくるべ。だども、お昼はだめだ。夜じゃ、夜きなされ。ごちそうしてあげる」
「ありがとう。じゃ、さようなら」
 もぐらが行ってしまったあと、ブルドッグ検事は、もん吉署長と顔を見あわせてにがわらいしました。もぐらのごちそうは、えんりょしたほうが、おなかをこわさなくてよさそうだと思ったからです。
「もん吉署長。犯人はやっぱりりすだ。きつねのこん太は、どうも、ほんとうのことをいっとるようだ。もぐらの見たりすが、この木にのぼっていたにちがいない」
「そうとはきめられないと、わたしは思いますがね、ブルドッグ検事。そのりすは、なにか用があって、ここを通っただけかもしれませんよ」
「うん、まあ、それはそれとして、そのりすに聞いてみればわかることだ。しっぽのさきの白いりすなんてそんなにいるもんじゃない。足の大きさがぴったりだったら、それできまりだ」
「ええ、でもね.…」
「どうしたね、もん吉署長。いつものあんただと、ここではりきるところじゃないのかい」
「なんだか、こんどのさくらんぼ事件だけは、ふしぎに気がすすまないんですよ。とにかく、あしたからさがしてみましょう」

第4章につづく


ものがたりのはじまりにもどります。