前号からのつづき

 お月さまがぼんやりかすんで、とても大きく見えます。署長のもん吉じいさんは、むかし、お月さまに誓いをたてたことを思い出しました。
 それは、森の動物たちから、警察署長になってくれとたのまれたときのことです。
 そのころ、森では、よくないことばかりおこっていました。だから、そんなときに署長なんかになるのはばかげていると、友だちは、みんなとめました。いつ、わるい動物たちから、ひどいめにあわされるかわかりません。
「もん吉さんのことを思うから、よしたほうがいいっていってるんだ」
 ともだちは、そういってとめるのです。
 もん吉さんは、お月さまを見ながら考えました。お月さまは、とてもきれいでした。高い空から、やさしい光をなげかけています。森はしずまりかえっていました。お月さまを見ているうち、もん吉さんには、勇気がわいてきました。きっと、この森もお月さまみたいに、美しく、平和にしてやるんだ…。
 もん吉さんも、年をとりました。
 やくそくどおり、森は平和になりました。
・・・よかった、ほんとうによかった.......。
 もん吉じいさんは、そう思うのです。

「このさくらの木かな」
 ブルドッグ検事の声に、もん吉署長はもの思いからさめました。
「そうです、ブルドッグ検事」
「足あとはどこにある」
「この月あかりで見えますかね。えーと、虫めがね、虫めがね。あっ、ありましたよ」
「どれどれ、虫めがねをかしてごらん」
 ブルドッグ検事は、足あとをたんねんにしらべます。
「どうも、これは、りすの前足のようだな。この足あとの大きさも、ノートにうつしてあるだろうな」
「ええ、もちろんです」
 もん吉署長は、どっこいしょと腰をおろしました。
 そのとき、もん吉署長のおしりの下で、ぴくっと土がうごきました。
「うへっ!」と、とびあがると、土がむくむくっともりあがって、もぐらが顔を出しました。
「こんばんわ」
「なんだい、もぐらさんか。こんばんわ。おどかすなあ。あんまり、びっくりさせるもんじゃないよ」
「そんなつもりはなかったんだけど、天じょうがおっこちたもんでな」
「すまん、すまん。ちょっとつかれたものでね」
「そうかい。おたがい年はとったけな。それはそれとしてよ、なんでこんな夜おそく、ブルドッグさんとよ、こんなとこにいるんだべ」
「うん、さがしものでね」
「それはそれは、ごくろうなことだべ」
「あんたは、ゆうべ、このあたりにいたかい」
「うん」
「そしたら、なにか見なかったかね。たとえば、だれか、このあたりを通っていたとか、このさくらの木にのぼっていたとか」
 もん吉署長とブルドッグ検事は、もぐらの顔を見つめました。


つづく