前号からのつづき...
もん吉じいさんは、さっきの足あとと、のん太のものとをくらべてみました。
のん太のより、すこし小さい。
・・・やれやれ、やっぱり、のん太のなかまのしわざかな。だが、もし、りすがやったんだとすると、この木のさくらんぼが、のん太のものだと知っているはずだ…。
もん吉じいさんは、すっかり考えこんでしまいました。
・・・知らないで、食べたということもないだろう。だが、もし、りすだとしたら、くじ運のいいもの、わるいものはいても、どれかのさくらの木にはあたっているはずだ。自分のさくらんぼを、ぜんぶ食べてしまったりすかもしれんな…。
そこへ、きつねのこん太がとおりかかりました。
「やあ、こんにちは。いいお天気で」
「ああ、こん太さんかい。このごろは、しずかでなによりじゃ」
「へんなこといってら。このごろは、すっかり心をいれかえて、にわとりなんかおいかけていませんよ」
「いいこころがけじゃ。その調子、その調子」
「ところで、もん吉さん、こんなところでなにをしてるんです」
「いや、ちょっとしたさがしものだ」
「なにをさがしているんです」
「いや、たいしたものじゃない」
「それ、ゆうべなくなったものでしょう」
「そうだ。なにか知っているのかい」
「いえいえ、とんでもない。ただね、ゆうべねむれなくって、さんぽしてたとき、この木に、だれかのぼっていたようだから…。そうだ!なくなったのは、さくらんぼでしょう」
「だれが、のぼっとったんだい」
「あいにくと、ゆうべはお月さまがでていなくて、だれだかはっきりしなかったな。のん太が、あんまりさくらんぼをじまんするからだよ。大きい、大きいって。だから、だれかがうらやましがってとったんだ」
「さくらんぼがなくなったって、だれがいった」
「もん吉さん、あんたがいったでしょう」
「いや、なんにもいっとらん」
「そうかな、いや、おかしいいな。だけど、だれかがこの木にのぼっていたものな」
「のん太じゃなかったのかい」
「さあ、くらくってね。のん太より、小さかったように見えたけど…。だけど、どうしてそんなこと、ねほりはほり聞くんです」
・・・こん太は、ほんとうに見たのかな?
と、もん吉じいさんは考えました。
・・・ときどきうそをつくし、おしゃべりだし、あんまり信用しないでおこう。ただ、こん太のいうとおり、のん太より小さななにかが、木にのぼっていたとすると、もし、それがりすだったら、あの足あとは、犯人のものかもしれん。だけど、こんなに、そばにじっとされてたんじゃ、しらべるのにじゃまになる。すこし、おどかしてやるかな。
「じつをいうとな、いまから、あんたのうちに行こうかと思っとったんじゃ。どうも、よく考えてみると、なんとなく、行ったほうがよさそうに思えてならん」
「いやいや、とんでもない。なくなったものが、さくらんぼかなにか知りませんがね。ぼくは、なんにもしてやいませんよ。なんにも知らないんだから。いやはや、とんでもない」
こん太は、あいさつもそこそこに、ひきあげていきました。
「足あとひとつか」
もん吉じいさんは、ためいきをつきました。
・・・もうすこし、なにか手がかりがないと、しらべようがない。森の中には、なん匹りすがいるんだろう。ひとつひとつ、みんなの足の大きさをしらべるなんて、とてもできはしない。そんなことをしていたら、なん年たっても、だれがやったか、見つかりっこないぞ。さてさて、さくらんぼは、どこにいったんだろうな…。