前号からのつづき......


「なあ、のん太。この木になっているさくらんぼは、みんなきみのものなのかい」
「そうだよ。春になるとね、りすたちがぜんぶあつまって、くじをひくのさ。そして、この木はだれのもの、あの木のさくらんぼはだれのものってきめるの。だから、この木のさくらんぼは、みんなぼくのものになっているんだ」
「小鳥たちのぶんはどうなんだ」
「それは、ほかに小鳥たちだけで、くじをひくぶんがあるんだ」
「うん、それならけんかしないですむわけだな。だが、よくばりなりすがいたら、夜のうちに、とって食べることもあるだろう。のん太、その大きなさくらんぼのことは、りすたちみんなが知っているのかい」
「そうだな、たいてい知っているはずですよ。ぼくがいつもじまんしてたんだもの。まり子やむんくおじさんに、聞いてもらったらわかるとおもうな」
「まり子かい。あいかわらず元気じゃろうな。きみたちは、いつからいっしょになるんだ。はやくしないと、だれかのおよめさんになってしまうぞ」
「そんなこと、どうだっていいじゃないの。それよりも、だれがやったのか、はやく見つけてよ」
「のん太、それじゃほんとうに、だれがさくらんぼをとったのか、見つけてほしいんだね」
 もん吉じいさんが、ちょっと困ったような顔をしています。
「そうだよ。どうしたの、そんなことを聞くなんて」
「もしかしたら、きみの友だちがとったのかもしれないし、もしかしたら、わしの友だちがとったのかもしれん。そんなことじゃないかって気がしてならないんだ。とにかく、森の中で、いやなことがおきるのはきらいだ。きっと見つけてあげよう。ただな、わしはなんとなく気がすすまんのじゃ」
 もん吉じいさんは、首をひねりました。
・・・のん太には、きっと見つけてやるといったが、むずかしい事件じゃな。なくなったさくらんぼ、いまごろは、だれかのおなかの中だろうし…。それに、たねを見つけても証拠にはならん。のん太は、たよりなさそうにわしを見よる。わしは、年はとったが、まだまだ頭のほうは森で一番のはずじゃ。
 もん吉じいさんは、虫めがねで、もう一度さくらの木のねもとをしらべました。
 まだ新しい足あとが見つかりました。もん吉じいさんは、大きくうなずきました。
「のん太、足の大きさをはからせてくれ」
「うしろ足、それともまえ足」
「ぜんぶじゃ」
 もん吉じいさんは、ノートにのん太の足をのせて、大きさをうつしとりました。
「なくなったというさくらんぼを、きみが最後に見たのはいつじゃ」
「そうだな。きのうねるまえに、この木の下をとおったときかな。そのときはたしかになっていたよ。あしたの朝、食べようかなって考えたんだから、まちがいないや」
「よしよし、もうかえっていい。なにかわかったら知らせてあげる」
 のん太は、なんだか心配そうに、ふりかえりふりかえり、かえっていきます。


つづく