最低山極悪寺 珍宝院釈法伝
法伝 今日のお菓子はおいしいですねえ。いただきものでしょう。
本住 ふん。お前のためにわざわざ菓子を買うほど、豊かじゃないのでねえ。
法伝 冷たいお言葉。
本住 さあ、今日は、何の話をするんだね。
法伝 この間はお釈迦様の名前についてでしたから、どうでしょう、お釈迦様の生涯についてのお話なんぞ、いかがでしょう...。
本住 そうねえ、それも良いだろう。
法伝 戸籍調べみたいですが、まずは、お釈迦さまの生まれたところから。
本住 今の国名で言うとネパールということになる。
法伝 あれ、インドじゃないんですか。
本住 今の国名でいうと、ネパールだ。もっとも、当時は、今のような厳密な国家の概念など無かったから、それほど厳密に考える必要はないだろうね。
法伝 当時って、いつ頃ですか。
本住 そうねえ。今から2500年ほど前かな。
法伝 名前と一緒で、これも、正確には、解らないんですか。
本住 解らない。なにせ、インドには、近世になるまで、歴史を記録する習慣がなかったからねえ。
法伝 なぜですか。
本住 さあ、それはインド人に聞いてくれ。ただ、歴史を記述するというのは、キリスト教や、ユダヤ教みたいに、今、現在生きているこの世界が、唯一無二だと思うからできるんだろうね。それに、何というか、時間が始めから終わりに向かって、まっすぐに流れているというイメージが前提にあるから、歴史を記録しようとするんだろう。インドでは、三千世界というぐらいで、この世界一つという考え方がなかったからなあ。
法伝 難しい話になりそうだから、その話はまたの機会ということで。
本住 はっはっは。そうするかい。
法伝 そうしましょ、そうしましょ。次に、お聞きしたいのは、お釈迦様の家族構成。両親の名前くらいは知っていますけど。
本住 言ってごらん。
法伝 お父さんの名前が浄飯王(じょうぼんおう)、お母さんの名前が摩耶夫人(まやぶにん)。
本住 浄飯というのは白米のことだ。サンスクリット語ではスッドダナという。摩耶夫人は、マーヤという音を漢字で表記しただけだな。
法伝 お母さんは産後の肥立ちが悪くて早死にしたとか。
本住 そう。お釈迦さまを産んでわずか7日で亡くなってしまった。そこで、後妻に入ったのが、マーヤの妹のマハーパジャパティというお方だった。継子(ままこ)いじめをする事もなく、お釈迦様を育てたらしい。
法伝 それでもお釈迦様は、悩み多い青少年だったのでしょう。
本住 その話は次回に回そうか。少し、ていねいに話したいからね。
法伝 そうですか、まあ、お菓子もなくなったことですから。
本住 おまえ、少しは食い気から離れたらどうなんだ。