サウンドレスノベルツクール

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作:多津丘〆葉 (THE ANCHOR MAN)

銀天盤   ○表紙


「今年の脚本は僕が書く!」

 もう吉良一族に任せてはいられない。僕は残りわずかな時間で、とにかく斬新奇抜なシナリオを練ることにした。

 言うまでもなく忠臣蔵と言えば日本人の心。義理人情大好きなお茶の間の皆様にアピールするためにも、ある程度譲れない部分はある。

 しかしそこに拘泥しすぎたせいでマンネリになってしまい、逆にみんなに飽きられはじめてきてしまっているわけだ。まことに、大衆とはわがままなものだ……。

 とは言え、僕とてせっかく殺されるのならば、

「ああ。忠臣蔵か。年末はいつもやってるネー。もーいいかげん飽きちゃった。今回吉良誰? 誰でもイーけど。グォフォオーン(笑い声)

などという扱いは御免だ。どうせなら皆の心に残るような劇的なシナリオ。そう。

「今年の忠臣蔵は面白かったよ。俺感動しちゃった! グォフォオーン(笑い声)」 

と言われるくらいの物語で!

 無能な脚本家どもがマンネリな話しか作れないならば、この私自らが考える! 誰も予想だにしないスペクタクルロマン、ネオ忠臣蔵とでも言うべき物語を!

「こんなのは忠臣蔵じゃないよ」

 と、保守的な世間は反発するかもしれない。だが僕が目指すのは新世紀における神話なのだ。現実の出来事など越えてやれ! 誰かが言っていたじゃないか。

「卵の殻を破らねば、雛鳥は生まれずに死んでいく。

 我等は雛だ。卵は世界だ。

 世界の殻を破壊せよ!

 我等が生き残るために!

 世界を、革命する力を!!!」

 いまこそ世界を革命しなければならない! 我知らず手紙を握りしめながら、僕は大いなる決意に包まれた。

 正直、死ぬのは恐い。だが、その恐さに負けてはいられない。浅野一族のありきたりな復讐劇の果てに死ぬとしたら、それは僕のアイディンティティーの敗北を意味するのだから。

 しかしまあ、僕が目指す驚天動地の展開の末の劇的な死に比べたら、奴等の仕掛けなど所詮は日常の延長。やらせはせん。やらせはせんよ。貴様らなどに、僕の生き様の邪魔はさせない!

 そうと決まれば、わざわざ呼び出しに応じる必要はない。一刻も早く身の安全を確保し、新たなる神話の創世を目指すために、むしろ奴等を待ちぼうけさせてとっとと退散するべきだ。

 そう決意した僕は急いで手紙をポケットにねじ込み、靴をひっかけると玄関から走り出た。しかしその瞬間!

「待ちなさい! 正々堂々の勝負から逃げようなんて、そんな卑怯な真似は許さない!!!」

 夕日を背に、校門前に浮かぶシルエット。下校途中の学友達の好奇の目を一身に集めながら、僕の行く手を遮る不審人物……。

 なるほど。校門にも手勢を配し、呼び出しに応じようと応じまいと今日中に始末をつけるつもりだったわけか。いかにも人を欺くことが好きな大石あたりの考えそうな陰険な策よ。

「騒ぐな木っ端め! 恐れを知り、それを乗り越える勇気を持ち、大いなる決意に包まれてしまった今の儂よ! その儂を、十年一日が如き何のひねりもないお家大事の仇討ち精神なぞで、止められると思うのならばやってみるがいい! 旧世紀の遺物、赤穂浪士諸君よ! グォフォオーン(笑い声)

 なんだなんだと周囲が注目している中、不敵な笑みを浮かべながら僕は歩を進める。間違いなく、「正しいことの白」の中に、今の僕はいるっ! 大儀! 使命感! こんな動物に乗った女ごときに……。

 ……。

 ……女?

 赤穂浪士に女っていたか? あと動物って?

 つーか「そういう」忠臣蔵はアリなのか?

 急速に不安に包まれる僕の心中を余所に、我が校の制服に身を包んだ彼女は高らかに告げた。

「おだまりなさい! キラー一族の怪人め! 毎年毎年ご先祖様を切腹させるなんて許せない!

 士道と覚悟の、ブレザー服美少女戦士、浅野たく美ー!

 おとなしく、仇討ちされなさい!(+決めポーズ)」

「ガフォガフォ! そして僕が喋るヒトコブラクダ、マスコットキャラの倉之助だガフォ! あざといキャラの立て方で女子供に大人気! うーん。息子の名前は力。よろしくガフォ!」

「やーん倉之助ったら、よだれー」

「ガフォガフォ。ラクダのコブには水は入ってないガフォ!

 ……まだだ! まだ負けたわけじゃない!

 このくらいの展開、僕にだって思いついたさ! そうさ! 今の若者の心を掴むため、声優、つーか声ドル起用! 初めっからそのつもりだったんだよ! 似たようなもんだろ! これだって!

 現実の暗殺計画の方が僕の考えた脚本より突飛だなんて、そんなの認めてたまるか!!!

「僕が一番うまく脚本を操れるんだーっ!」

「ああっ! 敵は明らかにEVAのシンジ君を意識したオリジナリティもなにもない心理的葛藤から攻撃衝動へ移る行動プロセスを踏んだ最近流行の「暴走」で現状を打開しようと行動に出ているわ! このままじゃ仇討ちできない!」

「ガ、ガフォーッ!(ピキーン)

 ……たく美! 仇討ち棒だ!!!」

「オッケー! フレンドリー仇討ちパワー……、エスカ・レィション!

「「よっしゃーっ! たく美ぃっ! 俺達を使え!」」

「堀部さん、絵茂吉君……、みんな、みんなありがとう! 

 ……さあ、受けてみなさいっ! 私と部下四十七人の、愛と、勇気と、友情の! 仇討ちエナジーを!

 っはぁぁぁああっ超奥義! 「報復松廊下的怨敵誅殺拳王撃」!!!

「我が生涯に、一片の悔いなーっし!!!」

 ……。

 ……負けた。負けたよ。ここまでの展開は思いつかなかった。

 これぞまさに「事実は小説よりも奇なり」。斬新奇抜もここに極まれり。

 彼女達こそまさしく新時代の忠臣蔵。これならば安心して討たれることが、でき……

 ……。

 (……るのか?)

「奇跡の仇討ちミラクルアサノ」

 完