第四話
「俺はジュウベエ」 −My name is "jyuubee"−
彼方に覇王ゴルダークのファンダリア帝国を睨み。
ここ、イズモ一の高峰富士山に隻眼の将の姿があった。
彼の名はジュウベエ。剣を取っては国主ミカヅキをも凌ぐイズモ一の腕前。そしてまたその頭脳の冴えは人をして「イズモの隠れた軍師」とも呼ばしめる。でも内政力は52である。
それほどの国家の重鎮が、この御国の一大事にいったいこのような山奥で何をしているのだろうか。
「部長ー!」
その時、山麓の細道を駆け登って来る人影があった。
「うむ。どうした? バクラ」
「うへ。俺のキャラ紹介は無しですか?」
「おぬしは人気がないから……」
すまなそうに目を逸らすジュウベエ。しばし沈黙する二人。
「そ、そんなことよりですね」
気を取り直して話を戻すバクラ。
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃありませんか? なんでこの時期に合宿なんか……。やっぱり、合宿は口実でいち早くファンダリアの様子を偵察しようってんですか?」
「いやそんなとんでもない」
素で返すジュウベエ。
「本格的に戦争が始まると忙しくて遊んでられなくなるから、その前にキャンプしとこーかなー……って。せっかくワンゲル部も作ったことだし」
「あんた、本当に本心だけで喋ってるだろう」
「うん」
素直にうなずくジュウベエを不覚にもちょっと可愛いと思ってしまったバクラの、その視界に遠く北方を移動する煙が見えた。
「むおっ!? あれはもしや」
「ヒバゴン?」
「いないよ。珍獣はいないの」
「ちぇー」
ふてくされるジュウベエをあしらいつつ、バクラは観察を続ける。高台というか山にに登ったことで国境の峠を越えようとしているファンダリア帝国の部隊にいち早く気づくことができたのだ。
小国のイズモは財政的な理由から常設の国境警備隊を持てない。最低限度の守備兵力を要した山城があるが、先に敵の攻撃が予見できたのなら早いうちに援軍をまわすに越したことはないのだ。そういう意味では偵察の重要性は非常に高いのだが、いくらなんでもワンゲル部が専門の装備でなければ来ないようなところにまで物見櫓は建てていない。全くの偶然ながらこの合宿はイズモに大きな収穫をもたらしたのだ。
(……いや、本当に偶然なのか?)
バクラは考える。ひょっとしたらここに合宿に来たことも含めて、軍師ジュウベエの策略なのでは、と。普段は韜晦しているが、やはりこの隻眼のサムライはとんでもなく頭が切れる軍略家なのではないだろうか。
密かに恐れるバクラに対し、ジュウベエは不適に笑うと言い放った。
「じゃあそろそろカレーの準備を」
「ふざけんなーっ! 下山だよ! ミカヅキ様に報せるの!」
ジュウベエはひどく傷ついた様子で言った。
「えーーっ」
しかも不満げに。
「小学生かあんたはっ! 帰りますよ、ほらっ!」
「じゃあ一晩だけ泊まって朝イチで帰ろうよ」
「友達の家に遊びに行ったら酒も入って帰るのが面倒になった終電間際の大学生ですかあんたは」
結局、ダダをこねるサムライを担いで下山するバクラであった。
☆ ☆ ☆
「なんとも……。厳しい戦だな」
「ミカヅキ様、神の一手! 早く!」
ここはイズモ城中央作戦室。またの名を縁側。何故って前回誰かが天守閣を吹き飛ばしたから。
イズモ国国主ミカヅキは、お付きのホウライと二人で、将棋盤の向こうに軍師コウリンを迎えて頭を悩ませていた。
と、そこへ。
「ミカヅキ様ーっ! ジュウベエ様から報告で、ファンダリア軍が国境を越えてこちらへ進軍を……」
駆け込んできたのは隠密頭のシオンである。いつもの忍者装束の上に白いエプロン。頭にネコミミと鈴。首からは「罰ゲーム中だにょ」とマッキー極太で殴り書いたダンボールの札を下げている。
(しぃーっ……。シオンさん、お静かに)
ホウライにたしなめれてシオンは騒いでいた自分を恥じた。どのような手段によってか知らないが、ミカヅキはすでに敵軍襲来の情報を得、軍師コウリンを招いて戦略を練っていたらしい。
(どんな感じ?)
(戦局は良くありませんね。敵の出足が速すぎて、ミカヅキ様の部隊展開が間に合いません)
なるほど、とシオンは考える。
ミカヅキが率いるのは旗本隊である。一人一人の士気・練度は軍中でも随一であり、全員が乗馬を持っているので本来は迅速な傭兵が行えそうなものなのだが、人数が少ない割に構成者の身分が高いため従者が多く、しかもやはり身分の関係で従者を馬に乗せるわけにはいかないのでゾロゾロと荷物を持った徒歩の兵隊がついてくるのを待ちながら進軍せねばならない。
本来、最後に戦線に出るべき部隊でありその運用上の欠点はほとんど無視されてきたのだが、「急迫する国家の危機に対応するため必要不可欠な理由(申請書より)」により休暇申請を出したジュウベエとバクラの二人が、というかはっきり言うとバクラがいないということは、現在のイズモで出撃できる部隊はミカヅキの旗本隊だけ、ということになる。この現状ではその展開の遅さは確かに痛い。
(それにしても……)
シオンは心中後悔していた。「今はアイドルではなく一人の高校生としての自分を大切にしたい」というわけのわからない理由でジュウベエが大将軍を「引退」して以来、元・野盗の頭であったバクラはイズモ軍の編成、練兵、兵科維持、運用、福利厚生、その他諸々全てを一人で取り仕切っている。隠密頭として自分も少しは軍事運用について知っておけば、少しは状況もマシだったのかもしれないのだが……。
中学から直接忍者専門学校に入ってしまったシオンは、事務はちょっぴり苦手だった。
(低学歴を気にすることありませんよ、コスプレ中卒)
(んがっ……! こガキはぁーっ!!! 罰ゲーム考えたのあんたでしょーがっ!)
見透かしたような発言をするホウライの首を絞めていると突然、ミカヅキが叫び、盤上にコマを打ち込んだ。
「わかったぁっ! 『6.6ドリル成る』! これでどうだ、コウリン!」
(『……ドリル?』)
なんとなくいつもの予感がして盤をのぞき込むシオン。
それは一見してなんの変哲もない将棋盤であり、盤上のコマもコウリン側は普通の飛車や角や歩やその他諸々だった。しかしミカヅキ側は……。
「ドリル、パパ、三浪、ヨガ、ファイレクシアの抹殺者、SS装甲擲弾兵……」
「僕が考えた『将棋VS軍人将棋vsカプコン』ですよ! しかもオリジナルユニット・エディットも出来てしまうんです!」
「……ここの、『嫁き遅れくのいち』っていう駒について質問があるんだけれど」
「ノーコメントです」
「「この人に勝ちたい」と思ったぁーっ!(まっくのーうち、まっくのーうち)」
「シオンさん、デンプシーならもっとえぐり込むように打ちませんと」
シオンがホウライを滅多打ちにしている横で、コウリンは冷静にアドバイスしながら盤上を観察し、「では」と一つの駒を取り上げ、パチンと音をさせて置いた。
「王手ドリ取りです……」
(この状況で眉一つ動かさない……。この人もわけがわからないわね)
シオンの正直な感想である。
焔流殺人剣正当伝承者コウリン。ミカヅキの師でもある焔慶雲斎の愛娘でもある彼女は、まだ二十歳前という若さでありながら、技前はミカヅキ以上という恐るべき剣の使い手である。
そのうえ武だけではなく、年齢より遥かに老成したその落ち着きと幅の広い知識を持って、イズモ国の軍師として欠くことの出来ない人材でもある。本人は「単なる剣術指南役です」と謙遜すること著しいが、昔ミカヅキとジュウベエの「『陣形』ってなに?」「さあ? どこ湾で獲れるんです?」というやりとりを聞いて青ざめたことのあるシオンは、コウリンこそがイズモ軍の要と確信している。
「ぬおっ! このままでは拙者のドリルが」
ピンチに気づき、慌ててドリルを逃がすミカヅキ。しかし。
「なにやってんですか、ミカヅキ様!」
「ハッハッハ! こいつ、やりやがった!」
「え? だって、拙者のドリルが」
「……では、王を討たせていただきます」
「ああっ、ちょっ、ままま、待ったぁっ!」
「……『待った』?」
口調こそ変わらなかったが。
その時のコウリンの気配の変化には、部屋の中にいた全員が気づいた。
(ややや、ヤバい! 『バーサーカーモード』だっ! 僕、逃げたいです!)
(ミカヅキ様、早く謝って! 謝って!)
(せせ拙者、まだ死にたくない! 死にたくない!)
狼狽して奥の部屋の壁までほとんど一瞬で下がって逃げた面白三人組を余所に、コウリンは音もなく立ち上がり懐から鉄扇を取り出す。
「真剣勝負に待ったは禁物。そのような惰弱な発言が出ること自体が、たるんでいる証拠。ミカヅキ様、少々お仕置きが必要なようですね」
いつもと変わらぬ淡々とした口調で、淀みなく鉄扇を振りかぶる。
「くそっ! ホウライ! 『殺られる前に殺れ』だ!」
「はいっ! ほら、中卒さんも!」
「『中卒』って言うな!」
三者三様のかけ声と共に、三人組は行動を起こす。
「はあっ!」
疾風のような踏み込み。ミカヅキのゲイルプレート(峰打ち)をしかし。
「未熟」
肩を動かしただけの最小限の所作でかわし、手首のスナップを利かせて守護刀草薙を持つその手を鉄扇でしたたか打ち付ける。苦鳴を洩らし一瞬、動きの止まるミカヅキ。
「ミカヅキ様っ!」
本来、ミカヅキの一撃を受けるなり避けるなりして体制の崩れたところを狙うつもりでいたシオンが、慌ててフォローに入る。組み紐を絡ませて動きを封じようとするところへ、ミカヅキの後ろに回ってその身体を突き飛ばしてくるコウリン。
「きゃっ」
突然、目の前に飛んできたミカヅキをかわしきれず、シオンはもつれ合うようにしてその下敷きになった。はずみで懐から暗器が転がり出る。
「きゅう〜……」
「シオン! 巻きびし痛い! 巻きびし痛い!」
この二人はすでに戦力外と判断し、コウリンは残った一人、三人の中で最も油断のならない存在ホウライの気配を探る。見える範囲にはいない、ということは……。
(奇襲、ですね)
ある意味、二人を囮にして自らは有利な地歩を占めたというわけである。三人一斉にかかるのではなく、二人を捨て石にして確実に勝利へ近づく。そういう戦術をとれるということが即ち、ホウライの強さである。
(正しいですよ。そのお考えは……)
呼吸を整え、気配を探る。
「……はっ!? みみみ、みかづきさまっ!!! なにをやってるんですかこんなみんながみてるところでひるまっから堂々とそそそそんなわたしにもここころの」
「痛い! 痛い! 動く前に巻きびしを! 拾って!」
「動かないで、お静かに願います。気配が読みにくくなる」
「そっ、そんなこと言ってもこの体勢は倫理的にちょっと」
「肉体的痛みもだな」
「……物理的に黙って頂いてもよろしいのですが」
『静かにしております』
「結構」
改めて気配を探る。ホウライは……。
(縁側の角の向こうっ!?)
今の騒ぎの隙に潜まれただろう。そちらに気配を感じ、コウリンは一瞬で向き直ると居合抜きに鉄扇を打ち振った。
「焔流奥伝草薙の太刀参式」。大陸での一般的な呼び名は「ソニックブレスト」――。膨大な「気」の刃が奔流となって敵に襲いかかる。
戦場では百人をなぎ倒すというその一撃の後、しかしそこに立つ男の姿を見て、ミカヅキ達は驚きの叫びをあげた。
「バクラっ!」
「あの一撃を受けて無事とは……。お見事です」
「いや、つーか二人とも、もう少し大事なこと考えようよ。特にコウリンさんは関係ない人をいきなり……」
「当て身」
(こっ……!?)
崩折れるシオンを後目に駆け寄るミカヅキ達の前に、バクラの影から別の人物が顔を出す。
「ジュウベエ!」
「ジュウベエ様!」
「クッ……、バクラ殿……」
両目から涙を流して男泣きに泣くジュウベエ。
「バクラ殿はその身体を投げ出して拙者のために……」
「そうだったのか!」
「お見事です、バクラ様」
「う、う……」
ボロボロになりつつも呼びかけに応えて身じろぎするバクラ。
「動くなバクラ、今、医者を……」
「ミ、ミカヅキ様……。誰がいきなりこんな理不尽な暴力を……、あと部長、あんた俺を盾に……」
『当て身(×2)』
バクラが動かなくなったのを確認してからもう一度泣き出すジュウベエ。神妙な顔のコウリン。
「バクラ殿ぉーっ!」
「立派な方でした……」
「おのれ許すまじファンダリア! 奴等さえ攻めてこなければこのようなことには……」
「ゴルダーク、バクラ様の命は高くつきますよ」
冷や汗をかきながら保身のために黙り続けるミカヅキの前で、二人は責任転嫁の炎は強く、強く燃え上がっていった。
☆ ☆ ☆
同時刻。
「ホウライ様ー、なんか爆発とかしてますけど、お仕事いーんですかー? 中抜けして来ちゃって」
「いいのいいの! そんなことよりサー、さっきの話だけど、次の日曜なんかどう?」
「えー……。変なことしないならいーですけどー」
「しないしない! アステア様の名にかけて! 変なことなんかしないって!(なんちゃってね! するに決まってんだろ!)」
「ほんとかなぁー」
「ホントホント!(ウソだけど!)」
割にあわない役目をとっとと放棄したホウライは、飯場で今度食う女の子の物色に精を出していた……。
次回予告
迫るファンダリア軍! 軍事の要バクラを欠いたイズモに勝機はあるのか!? いやむしろ正気はあるのか!? あと良心とか!
次回ドラゴンフォース(偽)!
「女幹部と蜘蛛怪人」!
遂に戦乱の幕が開く!
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