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「てっめ日本に手出すとか最低だぞ!」
「おうおうやるのか?お兄さん相手になるけど?」

ぎゃいぎゃい、とはじまるのは、いつもの口論だ。何かにつけてケンカしたがるこの2人は、もう止めても無駄だ、とだいたいのメンバーが諦めている。
「だいたい、ついこのあいだ告白したとこ、のくせに。ずっと好きだったくせに〜」
フランスのやれやれ、と言わんばかりの声に、かっとイギリスの顔が真っ赤になった。
「そ、それは…。」
「お兄さんがアドバイスやらなかったら今でも告白できてなかったんじゃないか?」
「そ、そんなことねえよ!」
「ほんとかよ〜。」

昔からの腐れ縁で、ずっと知り合いのくせに、恋愛相談とかするくらいの仲のくせにどうしてこんなにケンカできるのか。…カナダがよく呆れてぼやくことだ。

「お願いしますっていうからアドバイスしてやったのになー。その恩を忘れてなあ。」
「…う…。」
「ちょっと大人げないんじゃないの〜?イギリスくん?」
によによ、と余裕、の笑顔を浮かべたフランスを、イギリスがにらみつける。…返す言葉が見つからないようだ。
「うっ…!おまえだってカナダをまた泣かせたらしいじゃないかっ!」
「ぐっ…!」
何も言い返せなくなったフランスに、ほらおまえは!とイギリスが怒鳴る。
「だからおまえなんかがカナダの彼氏なんて嫌だったんだよこの浮気魔!絶対おまえなんかにカナダやらないからな!」
「おまえいっつもそれだな!言っとくけどお兄さんは本気でカナダ一筋なの!そこまで言うならかっさらってくから!」
「させるかっての!」

ヒートアップしていく2人の口論に、少し回りが注目をはじめたころ。
のそ、と立ち上がった大きな影が、2人の襟首をつかんで、引き離した。

「なんだよ!」
「何!」 2人で同時にそいつを見て、うっと黙る。

そこにいるのは、2人より年下だが大きく、威圧感たっぷりのスウェーデン。
「…喧嘩は、他所で。」
「………はい。」
二人の声がそろった。









「ちっくしょーイギリスのやつ…。」
「はー、終わったーやっと終わったー…。」
ぐたり、とフランスとスペインがつっぷしたのをみて、馬鹿みたいに大騒ぎするよなおまえら、とプロイセンは呆れた目でピッツアを食べていた。

「あっ!ピッツア!俺も食う!」
「おう。結構いけるぞ。」
「マジで?」
終わりかけまでくると、もう食べる率より飲む率の方が高いから、食事が余っている。それをぱくぱくと食べながら、三人はビールで遅い乾杯をした。
「今日はドイツに絡みにいったりしないんだな?プロイセン。」
フランスの言葉に、俺だってそこまで空気読めなくないって、と遠くを見る。
視線の先には、にこにこと楽しそうに話をするイタリアと、その話をはいはいと聞くドイツ。

「弟の初彼女記念の日にだなあ…。」
「あかんねんてフランスー。こいつ、まだ本調子じゃないねん、腰。」
「あー。ぎっくり腰はくせになるっていうしな。ドイツに喧嘩売りには行けないか。」
「…おまえら話聞けよ…。」
そっちから話振っといて、と言われて、ごめんってーと全然心のこもってない謝罪をしてスペインはピッツアに夢中で、フランスはグラスを口に運ぶだけ。

「…それで、どうやった?プロイセン?」
「何が。」
「公演。」
「………ものすっごく忙しかったぞどっかの誰かさんたちのおかげで!」
雑用全部俺に押し付けただろおまえら!と言われて、えーやって。いるやつは使わないとなあ。なんて二人は笑う。

公演までは、フランスに頼まれた制作の仕事で宣伝活動に飛び回り、本番が近づいてくると、舞台監督補佐、みたいな役職を作られて、名前はかっこいいがつまりは雑用係だ。細かい仕事丸投げしてくるスペインに、いい加減にしろ!と怒鳴りながら、細かく丁寧に仕事を終わらせて。
本番は本番で、結局スペインは黒騎士の役でいっぱいいっぱいで役者サポートの仕事(男性陣の着替え手伝いとか道具の受け渡しとか)全部こなすことになって。
まあ、並大抵の忙しさではなかった。

「感謝しろよおまえら!」
「うん。助かったわ。」
「ありがとうな、プロイセン。」
「…ふん、当然だぜ。」
素直に言ってもらって、満更でもないのか、笑ってグラスを飲み干した。…まあ、忙しかったけれど、それはそれで楽しかった。…怪我なんかして、戻ってもできることないだろうし、と思っていたプロイセンには、予想外なくらい、公演に参加、できて。みんなと同じ思いで、ここにいることができて。…言わないけれど、二人に感謝、していたり…。

「次もあったらよろしくなー。」
「あ、俺もー。」
「…絶対嫌だ!」
そう怒鳴ったプロイセンに、あはは、と二人はグラスを掲げて楽しげに笑った。









「まったく…うるさいですね。」
「ほんと。みんな元気ですよね。」
独り言に返す声に、見上げると、隣失礼します、とハンガリーが座った。

「…お疲れさまです。」
「お疲れ様です。」
ちん、とグラスをあわせて、笑う。
「…どうでした?」
「そうですねえ、ちょっと疲れた、かな。」
「すみません。…あなたにはいつも負担をかけてしまう。」
「いえいえ。その分、楽しませてもらいました。…まあイレギュラーなできごともありましたけど。」

ハンガリーの笑顔に、そうですね、と額に手を当てた。ため息。プロイセンの方はまだしも…スペインの方は止めようもあったのだ。なのに、何故手を貸してしまったのか。
「さっきスペインに怒ってたのはそのことですか?」
「ええ。セリフを変えたりしない、という約束でしたのに…。」
最後のシーンをだいぶ変えてしまったのだから!…まったく、ごめんてーという彼はまったく反省していないようだったし。
「二度とごめんです。」
「ふふ。そうですね…。でも。」
私は楽しかったですよ。…みんなも、楽しかったと思います。

そう言われて、苦笑した。…そうだろう。みんな団結力が強かった。秘密を漏らさないように。けれど、ロマーノを不安にはさせないように。
ドイツをプロイセンの代役に決めたときも、そうだ。みんな、しっかりと支えてくれて。
それだけ、あの姉妹は愛されているのだろうと思う。

「…そうして、彼女たちは幸せに、暮らしましたとさ。」
「めでたしめでたし?」
そうだ。あれは童話調のお話だから。そう終わるのが、正しいのだろう。きっと。
「まあ、あの子たちがそうなるかどうかは、これから決まるんですけどね。」
「そりゃあそうですよ。…でも。」
きっと、そうなりますよ。そう言って微笑んだハンガリーに、そうですね、と笑った。

「どっちの結婚式に呼ばれるのが早いと思います?」
「…気が早いですね。」
「そうですか?」
くすくす、と笑う彼女は、いつもどおりに見えるけれど、やっぱり少し酔っているのだろう。楽しそうな、無邪気な笑顔。

「…彼女達より、私達の、方が先だと思うんですけどね…。」
「何かいいました?」
「…いいえ。」
きょとん、と言われて、首を横に振った。聞こえてないならそれでいい。…今度、酔っていないときに。ちゃんと。言うことだろうから。

ああ。やっぱり自分も酔っているようだ。そう思って、オーストリアは苦笑した。




花開く未来へ End!



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