.

それでは演出の挨拶でーす、という振りに、いえーいとか拍手とかされながら、オーストリアが立ち上がる。
「えー。それでは、本番も終わって、こうやって打ち上げを迎えることとなったわけですが…酒の席とはいえ、公共の場ですのでお店の方への迷惑も考えた上での行動を期待します。後スペイン、後で私のところに来なさい。」
「えっマジ!?」
「それでは!……皆さん、本当にお疲れ様でした。乾杯!!」
かんぱーい!と声が重なった。



そして騒がしい宴会が、幕を開く。


オーストリアはああ言ったが、酒の席で、しかも本番が終わった!という開放感の中では、騒ぎが起こるのもよくあることで。
「姉ちゃーん!!落ち着いてえええっ!」
「離せヴェネチアーノ!!俺は一発こいつを殴らないと気がすまないんだ…!」
「わかりますわかります!気持ちはわかりますからビール瓶を置いてください…!」

ぎゃあ、とさっそく騒ぎが起こったのは、壁にぶつかって逃げ場を失って引きつった笑みを浮かべるフランスと、ビール瓶持って目がマジなロマーノ。ロマーノの腕にイタリアがすがりつき、その足を日本が止めている。
…ちょっと、フランスがからかったのがまずかったのだ。黒騎士とのキスはどうだったのさーなんて。
一瞬で真っ赤になり、おっまえなあああ!と怒鳴ったロマーノが立ち上がって、現在の状況が発生したというわけで。

「ちょ、ど、どうどう。」
「おまえが言うなああ!だいたいおまえらは変なことたくらみすぎなんだよ!巻き込まれるこっちの身にもなりやがれ!!」
ビールの瓶を奪われて、それでもじたばたと暴れるロマーノがフランスに指を突きつける。
「悪かったって…でも俺だって巻き込まれた方だぜ?今回は。」
取り繕うように笑うと、きっとにらみつけられた。
「嘘付け!のりのりだったってスペインが言ってたぞこのやろー!」
「ああもうあの馬鹿…!」
「とにかく一発…!」

そう言って振り上げられたロマーノの手が、後ろからつかまれた。
「はいはい。もー…この子はやんちゃやねんから…。」
特徴ある声。後ろから回ってきた腕に腰を引きずられて、暴れてもその腕をほどけなくて。
にらみあげると、こら、女の子がそんな暴れたあかんやろー?なんて保護者ぶるスペインの姿!
「元はといえばおまえのせいだろーがー!!」
「がっ!!」
綺麗に顎に頭突きが決まって、思わずしゃがみこんだスペインは放って、あーもう疲れた!とロマーノは、どかどかとカナダやイタリアのいる席の方へと歩き出した。

「大丈夫かよ、おい…。」
フランスが声をかけると、スペインは涙目で首を横に振って。
その襟首を、がっしりと掴む手が一つ。
「ス・ペ・イ・ン?」
「げっオーストリア…!!」
「来なさい!あなたには言いたいことが山ほどあります!」
「えっ、ちょ、ま、待って、」
「問答無用!!さっさと来なさい!」
オーストリアに連行されるスペインの姿を見送って、あーあ、とフランスは苦笑した。

「ご愁傷様。」






「お疲れさま。」
「そっちこそ。」

ちん、とグラスが合わさる。
中身を一気に飲み干して、ドイツは深くため息をついた。…本当に、疲れた。今回は特に。……久しぶりに役者をやったから、だろうか。…いやそれ以外にも、精神的に、いろいろと。

「どうだった?」
「…そっちは?」
そう返すと、あらずるい。とハンガリーは笑った。大皿からサラダをよそって、そうねえ、とレタスを咀嚼しながら、つぶやく。
「楽しかったわ。やりがいはあった。…でも眠い。」
「だろうな。」

本番前日まで、彼女は、着替えがしやすくなるように衣装に工夫したり、衣装の修復をしたりと大忙しだった。本当に。
その前から、ずっと忙しそうにしていたのを知っているから、心から、お疲れ、と声をかけた。

「いいーえー。…で?ドイツの方は?」
「……疲れた。な。いろんな意味で。」
こんなに、どさっといろんなことがあった公演は初めてだ。もう身体的にも精神的にも、疲れ果てていて。…本当にビールがうまい。
「はい。お疲れ様。」
「悪い。」

中身の無くなったグラスにビールを注いでもらって、一口、口にする。…ペースを考えておこう。でないと、今日はひどいことになる気がする。俺も、だが、みんなが。…生き残っているのが日本やハンガリーだけ、とかそういう恐ろしい状態にならないように。
「…後悔は?」
「……ない、といったらまあ嘘になるが…。」
もっとうまくする方法はあったんじゃないか。そう思うところが、装置チーフ的にも役者的にもたくさんあった。

「けれど、まあ。…あれだけのお客さんによかったって言ってもらえたんだ。とりあえず、それで満足だ。」
「そうね。」
彼女がうなずいて、小さく苦笑して、サラダに乗ったプチトマトを口に運んだ。


「それで?イタちゃんと両思いになった感想は?」
「っ!!!げほごっ、な、何を…!!」
思わず気管につまらせそうになって、慌てて見上げると、によによと楽しそうな表情…!
「どうなのよねえねえ。」
「…っ黙秘する!」
「あー!ずっるい!」

ドイツ!と呼ばれても、彼はグラスを口に運びながら、赤くなった顔をそっぽに向けて、決して彼女の方に戻そうとはしなかった。


次へ
メニューへ