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「……。」

何も答えられない。うつむいたまま、ぎゅ、と手のひらを握る。力を入れた手が、少し、熱く感じた。
そのままでいると、ぐ、と腕を引かれた。

「!」
「来い!」
強い力に逆らえず、ずるずると引きずられる。痛いけれど、スペイン、と声をかけることもできないくらい、怖い。怒ってる。怒らせた。…怖い。
泣きそうになっていると、さらに強く腕を引かれて、倒れ込んだのはソファの上。

「わ、」
「腕上げて!」
言われて、つかまれた右腕を上げる、というか上げさせられる。
何だ、と思った瞬間に、腕に赤いものが伝った。…血、だ。
「このままやで!」
真剣に言われて、うなずく。その後すぐにスペインは救急箱、と走り出した。
血が出ているのは手のひら、だ。そうか、素手で触ったときに、切れたんだ。傷は痛い、というより熱くて。気づかなかった。血は、けっこう出ているのかも、しれない。あ、なんか見てたら貧血になりそうになってきた。

「あった!ほら、手貸して、心臓から上に上げたままやで。」
「お、う…。」
腕を差し出すと、血をぬぐって、消毒された。
あまりに痛みに腕を引っ込めようとすると、動くな、と強い声。
なんとか、そのまま動かずにいると、綺麗に絆創膏を貼ってくれた。

「素手でさわったら危ないやろ、それに怪我したらちゃんと手当せなあかんやろ。なんで逃げるねん。」
怒った声で、そういわれた。ちょっと怖い。けど、どこか心配げな、感情のこめられた、声で。
なんて、言ったらいいのかわからず、黙っていると、終わり。と手を離された。少し痛いけれど、しっかり指先にまかれた絆創膏。
見ていたら、目を閉じたスペインの顔が目の前に現れた。
驚いていると、こつん、と額にあてられる額。感じる体温。

「もー…子分がこんなやと親分心配やわ…。」
小さいけれど、…なんだか、愛しむ、ような声。心配されてるんだ。…愛されてるんだ。そう、感じて、ほう、とため息をついた。
「あんまり危ないことせんといて?」

お願いやから。囁くような声に、こくん、と小さくうなずいた。

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