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スペインに料理を作るのは、好きだ。

いや単に、料理をするのも好きなのだけれど。…あいつが馬鹿みたいに喜ぶから。
パエリアとか。本気で上手になったと思う。あいつが好きだから。あーもうなんだこの甲斐甲斐しさ!馬鹿じゃないのか俺!
とは思うものの。…やっぱ好き、なんだよな…

「んー、うまい!」
「そうかよ。」
朝日もあがってもう真上にたどり着こうとしているのにまだ寝てやがったこいつをたたき起こして、ついでに腹減ったので勝手知ったるキッチンを使ってパエリア作って、現在に至る。

自分のくちにも運べば、うん、うまい。
もぐもぐと咀嚼していると、じっと見つめてくる視線!
「何。」
「何も〜」
そう言うくせにじっと見てくるのが、居心地悪くて、皿に視線を落とす。

「やっぱロマーノ好きやわ。」
いきなりの言葉にえ!と顔を上げたら、ふにゃふにゃした、というかなんというか締まりのない笑顔。あ。やな予感。
「弟みたいでほっとかれへん。これからも仲良くしような?」
ああもう!そうじゃねえよちくしょー!と思うけれど、言えなくて。

…仲良くしたくないわけじゃない。ただ少し、方向性が違うだけ。
それに、うなずけばあいつが俺の好きな顔で笑うのわかってるから、つい、うなずいてしまった。
「ん!」
嬉しそうなスペインの顔から目をそらして、ばれないようにこっそりと、目を閉じてため息をついた。

瞬間、周りの音が消えて、

扉が閉まるような音がした、気がした。