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なんか、変なスペインから電話がかかってきたのは昨日のこと。
声上擦ってるしどもるし。電話中に一回舌噛んだらしく、いひゃい、とか言ってたし。
どうかしたのかと聞いても何でもないって言うばかり。何でもないって人の態度じゃないだろ!
それが気になってまあ、珍しく、約束時間ぴったりに行ってみたり、して。

「早かったな!」
「…何か、あったのか?」
無駄にぴかぴかに掃除された部屋を見回して、呟く。
「や、ええと…ちょっと無心になろうと思って、」
「思って?」
「やりすぎました…」
気づいたら一日中掃除してたらしい。
…無心に、ねえ。
基本的に空気読まないこいつが、何か悩み事?…似合わない…

「で?」
「へ?」
間抜けな返しに、呼び出したのはおまえだろうがとむっとする。
「あ、や、ええとその…」
…困り果てる、スペインの姿。珍し、すぎる。こんなスペイン滅多に、見れるものじゃない。…不安だ。何の、話だ?
「なんだよ…」
聞くと、深呼吸ひとつ。真剣な、瞳。
「ロマーノ」
「、何。」
まっすぐに見つめられると、困る。強い視線。自覚無いんだろうな、目力あるの。
「あの、な?」
「うん。」
うなずくと、まっすぐ、見られて。

「ロマーノ、が、好き、です」

…耳がおかしくなったのかと思った。
そんな、まさか、だって!
「…友達として?」
「恋人!」
「…からかって、」
「ない!」
即答、された。強い言葉。…信じられない。
聞き間違いでも冗談でもないなら、これは。
「ほんまに。好き。」
嘘でも冗談でもない。そう言いながら、強く抱きしめられた。それでも信じられなくて、でも肌で感じる体温は本物で。
「ロマーノ、」
そんな声、出せたんだ。聞いたこと、無い。甘い、声。呼ばれる名前。
夢でだって聞いたこと、ないような。
おそるおそる腕を回したら、抱き返された。抱え込まれる体。
…現実、と信じられないけど、感じる感覚は、現実で!

「なあ、ロマーノは?」
「…察しろ、ちくしょー」
そう囁いて。
けれど、察するのが苦手なスペインのために、好きだ、と小さくつぶやいてやって。
恥ずかしくなって、その胸に顔をうずめた。

そのとき、小さな金属が鳴る音と、

扉が開く音を、聞いた気が、した。