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「うるせーよおまえに関係ないだろちくしょー!」
怒鳴って、家の方へ歩き出す。
ああもう!関係ないってなんだ、関係ありまくるのに!なんでいつもこんな言い方しかできないんだろう!
悔しくて泣きそうになりながら、歩いていると、待ってロマーノ!と声。それでも、振り返らず前に足を踏み出す。
と、後ろから伸びてきた腕に、強く抱きしめられた。

「…っなんだよ…!」
「待って、」
離せ、と怒鳴ろうとした声が、その、か細くて弱々しい制止の声に、消えた。
…なんだよ、そんな声、出すなよ、…腕震えてる、し。やめろよ、今にも泣き出しそうな、そんな雰囲気出すの!
こっちまで泣きそうになるだろ…!

「…もうちょっとだけ、このまま。」
吐息混じりの声に、ちょっとだけ、だからな、となんとかふつう装って答えた。


「…なんや、ロマーノって意外と大きいんやなあ。手かかるからまだまだ子供やと思ってた。」
「悪かったな。」
こいつには生きてきた年数では負けるけれど、体も心だって大人、だ。ちゃんと。

弟と二人きりでも、やっていけるくらいには。

「…明日から、起こしてくれへんのかあ…」
「自分で起きろ、いい加減。」
「そうやな。がんばるわ。ああでも、家事は楽になりそう。」
「うっ…うるせーよちくしょー…」
悪かったな不器用で!
「でも、ロマーノの料理食べれへんのは残念やな…」

…ふつうの会話、のふり。小さく震える声には気づかないふり、で。それでもこいつが、沈んだ声出すのは、気づかない振りできなくて。
「…また、料理くらいしにきてやるよ、仕方ねーから!」
「ほんま!?」
…単純。そんなうれしそうな声出すなよこの野郎!そんな、次の約束がうれしくてたまらない、みたいな…期待するだろ…

ああでも、いいか。この体制ならどうせ、顔は見えないし。頬をほころばせて、仕方ないから、だからな!と声だけ怒って、みせる。
「そのかわり、パスタ常備しとけよ」
「りょーかい。ちゃんと置いとくわ。」
腕の力が、緩んだ。顔を不機嫌に戻して、振り返る。
…潤んだオリーブが、闇の中で光っていて。綺麗だ。世界で一番綺麗な緑。

「じゃあ、また、やな。」
「ああ、また。」
必ず。会いに来るから。


そうして俺は、独立した。

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