.


変だったスペインは、今日会ったときにはいつも通りで。
…何だったのかはよく、わからないけど。まあいいか。考えてみたら、変なのはいつものことだし。

「もうちょいやから待っといてな〜」
「ん。」
料理しているスペインを横目に勝手知ったる彼の家のリビングに入り、ソファに寝転ぶ。
それにしても腹減ったな今日朝食べてないし…いや別に!別に朝飯食べてないのは!早くこいつに会いたかったからとかそういうわけではない!断じてない!全然無い!
「って自分に言い訳しても仕方ないか…」
ため息一つ。
会いたかったんだ。…ちょっと寝坊したけど。食事作る時間も惜しくて。
…馬鹿みたいだけれど。走ってきて、家の前で息整えて、なんでもないふり、してさ。玄関であいつの顔見ただけでうれしいとか、重症だ。

「あーあ………腹減ったな…」
恋患いより目の前の空腹。とくにキッチンからおいしそうなにおいが漂ってくる今は!
何か入ってないかとポケットを探ると。あ。何かぶつかった。
ごそごそと取り出すと、それは。

「これか…」
不完全な、鍵。…向こうの世界へ戻るためには完成させないといけない、らしいけれど。
「…わっかんねー…」
完成するのはいつになるやら。半分諦めて、ため息。
そして、できたでーという声に、それをしまって、起き上がった。


トマト大量に使った(スペイン曰わく収穫しすぎたらしい)パスタは、素材の味もあるのだけれどうまい。
…いつも同じように作ってみるんだけれど、うまくいかない…何でだろうなあ…
「うまい?」
わくわく、とした声にちら、と彼を見る。きらきら光る瞳。…子供みたい
「まだましだな」
言ってやると、しかめられる顔。


「かっわいくない…でもそんなとこも、好きやで?」
苦笑して言われた言葉に、ぴし。と停止。……は?


「……え、い、いい今、なんて?」
上擦った声!ああでも仕方ない、こいつが悪い!
「え?ロマーノが好きやでって。」
あっさり言ったスペインに、声を上げそうになっていやいや、と思い直す。期待するな、相手はスペインだぞ!?

「家族、として、だろ?」
なんとかそう尋ねると、きょとんとする彼。
「え、なってくれるんやったらうれしいけど。…でも、とりあえずおつきあいする方が先ちゃう?恋人として。」
にこにこと、いつもと変わらない笑顔で、言われた。恋人、恋人?誰が。…俺が?

「…うそだ」
「嘘と違うで。」
ずっと一緒におりたいな。恋人、って言い方が嫌やったら何でもええよ、パートナー、伴侶、旦那さん?何でもええから、一番近くにいたいねん。なあ、ロマーノ。
あくまでふつうの口調が、じわり、と心に広がって。
…夢に見た劇的な告白、とかじゃないのがなんか、現実味あって。
でも信じられなくて、どうしていいのか頭が大パニックを起こして固まって、いたら、スペインが笑った。
「かわいくない、なんて嘘やな。こんなにかわええのに。」
する、と髪に触れて、花瓶に生けるつもりで置いていたカメリアを、耳の上にさし入れて。
「うん、似合う似合う。」
うれしそうな笑顔が、近い。

「あ。口の端にソースついとるで。」
「…え。あ。」
言われて指で拭おうとしたら、ぐい、と手をつかまれて。
顔を寄せてきたスペインに、舌で、なめとられた。
ぽかんとしてたら、目の前で、本当にすぐ目の前で、きらきらしたオリーブが、楽しそうに細められて。
「つきあってええんやったら、ちゅーしてもええよな?」
「……は、」
「逃げへんと返事はオッケーとみなします。」
ちゅーも、恋人になるのも。

その言葉に、何も言わずに、何も言えずに、ただ目を閉じることしかできなくて。
そっと、唇に唇が、触れた。

その瞬間、きん、と小さな金属がぶつかるような音と。


扉が開く、音がした、気がした。