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ん、と眉をひそめ、目を開ける。
目の前の色の濃い肌に、ぱちりと瞬いて。
「…近い」
「やってロマーノあったかいねんもん」
頭上から聞こえる声。見上げると、薄暗い中で見ると深い緑に見える、瞳。

「おはよ」
「…はよ…」
「珍しいなあ。ロマーノちっちゃい頃から早起きやのに。」
今日は俺の勝ち。なんてうれしそうな馬鹿に眉をひそめる。
「…まぐれだろ…」

言いながら、考える。…あれ。あれ?スペインの言葉、なんか引っかかった。何だ?
…『ちっちゃい頃から』?

じっと見上げると、どしたん?と首を傾げる彼。
「…なあ、俺がおまえと最初に会ったのって、」
「?オーストリアの家やな。」
さらっと言われて、ぱちり、と瞬く。だってさっきまで、いたのは。…あれ?俺、今寝てる、ってことは?

「…さっきまでの、あれ、夢…?」
…夢か。そうか。そりゃあそうだよな…ほかの世界、とかあり得ないよな…
なんだかほっとしたような、ちょっと残念なような、気分になる。

「何?怖い夢でも見た?」
「…いや。」
怖くは、なかった。…そうだな、今まで見てきた夢の中では。こいつ、出てきて、告白、されて。うん。いい夢、だ。
「…ええ夢やったみたいやな?」
「まあな。」
言えば、ふーん、と言いながら頬を撫でられた。
「夢じゃない方がよかった?」
あれが、現実、だったら?………うーん………
「…腹減った。」
「あー、はいはい。」
夢とか夢じゃないとか、それはどうでも、いい。…こっちが、俺の『現実』、なんだから。

じゃあ朝ご飯作ってこよかーなんて言ってるスペインを見上げていると、窓の方を見てあ。とつぶやいた。
「?」
手を伸ばす先には、花瓶。鮮やかに咲いたカメリアをとって、水をタオルで拭いて。
する、と髪に挿された。

「うん。やっぱりかわええ。」
「…うれしくない。」
嫌な顔作ってはっきり言う。かわいいと言われてもうれしくない!
「もー…口開くとかわいくない…」
眉をひそめたスペインにふん、とそっぽを向いて。
「ま。そんなとこも大好きなんやけど。」
夢に出てくるロマーノくらい、素直でかわいかったらええのになあ。
困ったような笑顔。え、とぱちんと瞬いて。

「夢?」
「そ。なんか、ありえへんねんけど、」
俺がロマーノのこと知らんくて、また親分なって、一緒に暮らして、でもロマーノは独立していって、好きになって、好きって言って。
「まあロマーノかわいくなかったで?」
もうほんまに。生意気やし口悪いし…。
言われて、悪かったな、とは思うけど、ちょっと待って、その夢、って、まさか。
ぽかんとして見ていたら、変な顔。とくすくす笑われた。

「ちゅーしてええ?」
逃げへんとオッケーと見なします。そう、夢とまったく同じに言った彼が、無駄にかっこいいのが非常に腹が立って。
「…ちゅーだけ、でいいのかよ?」
上目遣いで言ってやれば、今度は彼がぽかんとした顔をして、は?とすっとんきょうな声を出した。
「へっんな顔!」
笑ってやると、顔に手当てて深く息をつく。それから、抱きしめられて。

「キス以上もしたいです。」
そんな返事が返ってくるとは思っていなくて、か、と顔を赤くすると、鼻の頭にキスひとつ。
「あかん?」
言われたから黙ってみたら、あかんのー?ってそんな顔すんな!逃げないとオッケーと見なすって言ったのはどこの誰だ!

空気読め馬鹿、と思いながら、仕方のない恋人に抱きついて、耳もとで答えを囁いた。


『君へ、愛を込めて』End!


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