.




とりあえず仕事の説明を受け、息を吐く。
掃除洗濯料理等日常の生活に必要な仕事と、書類の受け渡しなど小間使い的な仕事。
とくにつらかったり、は無さそうだが、毎日のことなので慣れるまで大変そうだ。

…属国になった経緯、を詳しく聞き出すことはできなかった。けれど、戦って、とかではないらしい。…ならいい。傷ついた人が、いないなら。

自分の部屋だとあてがわれた部屋を出て、とりあえず家の構造を覚えようと歩く。

窓の外に見えるのは、イギリスさん自慢の中庭。知っているものと、咲いている花や木々が少し、違う。
「…けれど、綺麗」
思わず呟いて、まるで彼のよう、と思って小さく笑った。
「日本!」
呼ばれて振り返る。手招きするイギリスさんの姿。
何だろう、と思いながら足を向けた。

「紅茶、飲んだことあるか?」
「はい。」
ありますよ、あなたの入れてくれた紅茶を。
後半は思うだけにして、勧められた椅子に座る。
庭にテーブルと椅子を出してティーパーティ。…なんて、そういうのが似合うのもやっぱりイギリスさんだからだろうか。
「…じゃあ、本場の味を教えてやる」
ティーポットの蓋を開ける彼に、本来は私の仕事、じゃないんですか?と尋ねると、いいんだ、俺の趣味だから。と返ってきた。
「これと、庭の手入れは俺がやる。」
「…はい。」
わかりました、とうなずいて、彼の手元を見る。
手慣れた手つきでお湯を注いでいく手。…手袋を外した手は白くて綺麗だ。
「…きれい」
「は?」
声に自分が口に出してしまったことに気づいて、あの、庭が、とつけたすと、ああ。と微笑まれた。
「そうだろ?」
ここまでするのに苦労したんだ。そう、愛おしげに庭を見渡す顔は…知っている。優しい表情。
たとえ自分と出会っていなくても彼は彼なのだ。イギリスさん。…その事実に少しほっとする。

「ほら。」
差し出されるティーカップを受け取る。あがる湯気。…いい香りだ。ふわりと立ち上るそれを楽しんで、口に運ぶ。
思わず、笑みがこぼれた。
「おいしいです」
そう告げると、ふわ、とその表情が輝いた。けれど私が見ていることに気づくと、すぐに、顔を赤くして、ふい、と逸らしてしまう。
ああ、きっとこの後は。
「べっ、別におまえの為じゃないからなっ俺が飲みたいからそのついでに!いれてやっただけで…っ」
一字一句大当たりした内容に思わず笑ってしまう。な、何笑ってやがる!という声にす、すみません、と謝る。頬が緩んでしまうのは、許してほしい。だって相も変わらずのツンデレっぷり!
くすくす、と笑っていると、怒っていた表情が、ゆる、と困ったような笑顔になる。
「…なんだ。ちゃんと笑えるんじゃないか。」
「はい?」
「無表情だから。…何考えてるかわからなかったけど。」
そう言う顔もできるんだな。柔らかくそう言われて、なんだか恥ずかしくなって顔をそらした。
日本、呼ばれて、差し出される手。
「これから、よろしく。」
「…はい。よろしくお願いします。」
その暖かい手を、握った。


他愛のない話をしてから、部屋に戻る途中、ポケットになにか入っているのに気がついた。
「…これは?」
取り出してみる。…金属の、かけら。…鍵のような…
それではっとした。鍵のかけら。あの番人が言っていた。
「…これが…。」


『鍵の欠片』を手にいれた!
次へ