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隣同士だからか。
仲が悪いわりに、フランスさんがイギリスさんの家にやってくるのは、たびたびあることだ。

今日もその日、で。
さらりとセクハラまがい(というかそれ以上?)のことをしようとしてくる彼をお盆で撃退して、案内するのはイギリスさんの部屋。
案内してしまえば、たいがい仕事は無くなってしまう(あんまり内容とか聞いてはいけないでしょうし。)のだけれど、今日は違った。
フランスさんが日本茶飲みたーい!とリクエストをしたからだ。
日本こんなやつの言うことなんか聞かなくていいからないーじゃんかたまにはあ!といつもの口論を尻目に、熱いのでいいですか、ととりあえずキッチンへ向かって。

緑茶がここに常備されるようになったのは、…わりと最初の方、だった気がする。イギリスさんの気遣いには本当に、恐れ入る(だって浴衣とかお箸とか。放っておくとどんどん増えていくんだもの!)
のんびりと考えながらこぽこぽとお茶を入れて、お盆に乗せて。
部屋の前までは普通に来ても大丈夫だけれど、部屋に入るときは要注意。暴れ回ってると危ない。熱々のお茶とか。下手すると火傷、だ。それはまずいから。
まあでも、ここまで来て怒鳴り声も何も聞こえなければ、だいたい大丈夫なんだけれど。
念のため。そう思って、そっと耳を澄ませる。

「…おまえ変わったな。」
「は?何だよいきなり…。」
「いやあ?丸くなったもんだなあと。」
くすくす。笑う声がする。フランスさん、かな?
「…そりゃ、俺も成長したってことだろ。」
「いや。変わったのはついここ最近だ。」
「…そうか?」
「ああ。」
…珍しく、ちゃんと向き合って、喧嘩もなくお話してるみたいだ。本当に珍しいなと思いながら、お茶が冷めるといけないのでノック、しようと手を上げて。

「好きな娘。いるんだろ?」
「な…!」
「!!」
思わず手が止まった。

「い、いねえよそんなの!」
「嘘つき〜、なあ、どんな娘なんだよ?」
どもっているイギリスさんと、自信ありげなフランスさん。…どっちが説得力があるかは、明白で。

「…好きな、娘、かあ…。」
そりゃあいますよね、一人や二人。
…期待なんか、していなかった、はず。彼と両想いになれるなんて、そんな。

深くため息をついて、笑顔を作り直して、改めてこんこん、とノックした。


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