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はっと、飛び起きた。
一気に明るく開ける視界。まぶしくて、顔をしかめ、何度か瞬き。
…ここは、どこ?高い天井。どこかの部屋、だ。自分の家では、ない。欧州の方々の家のような。例えば、ドイツさんとか。
……いや違う。すぐに気付く。ここは。窓の外に広がる美しい庭と、この雰囲気は。

「…イギリス、さんの、家ですね…。」
そうだ。ここは。そう思うのと同時に、思い出す、さっきの夢の中の言葉。
『そう。お前が、愛する人と、お前がに出会わなかった、世界。』
「…まさか、ですよね…。」
そんなこと。…夢の中、だけの話のはず、で。
でもなぜか、不安が拭えなく、て。

不意にこんこん、とノックの音がした。
はい、と返事を返すと、がちゃり、と開く扉。
現れる色は、金。きっちりと着こなされた軍服。強い意志の宿った、瞳。
イギリスさんは、美しい人だ。本当に。…いつも、心の底からそう思う。

「…おまえが、日本、だな。」
確認するような一言に、す、と背筋が伸びた。冷水を浴びせられたような気分だ。
…これは、本当に、あの中国さんの格好をしていたものの言っていたことが、本当なのかも、しれない。
いつものイギリスさんならこんなことは言わない。日本。柔らかく呼ぶ声が、ちゃんと耳に残っているのに。
神経を研ぎ澄ます。何が起こってもおかしくない状況だということだ。警戒を怠らないように。けれど、その感情がはい、そうです。と肯定する声には出ないように注意して。

「俺が、イギリス、だ。…今日からおまえの宗主国になる。」
言われて、は?と聞き返しそうになった。耐えて、言葉を考える。…情報がすこしでも欲しい。
「…私のような遠い国を、属国になされるとは。」
そう返せば、遠いからこそ価値があることもある。そうだろう?と言われた。…事実、らしい。私が、彼の、属国!
じっと見つめる、好戦的、にも取れる、表情。…こちらが彼を試しているように、彼もまた、私を試しているようだ。ぴりぴりとした空気が、二人の間を流れる。

判断して、ふ、と息を吐く。警戒しているだけでは、話が進まない。…彼も、私に危害を加えたり、というつもりではないようだし。
…というか、それは当たり前のこと、だ。紳士の国、である彼が、理由もなくそんなことをするわけがない。
そう判断して、警戒を少し解いて、それで、と口を開く。
「それで。…私は、どうすればいいのですか?」
「ここで働いてもらう。」
そう言われて、わかりました、と答えた。小間使い…という感じ、だろうか。

「よろしくお願いします。」
頭を下げるとああ。と言われた。


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