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「日本!」
呼びかけに眉を寄せる。
「…何ですか?中国さん」
振り返りながらそう言うと、ひゅ、と風の切る音。手を顔のすぐ横に出す。
手でしっかり掴む、足首。
綺麗なハイキック。本気ではないようだけれど。
…久しぶりに会った知り合いにどうして出会い頭に蹴られなければならないんでしょう。
足を離して、間合いをとる。武器がないのは少々心許なく感じるけれど、彼も丸腰だ、条件は、五分。


「何ですか、中国さん。」
同じ質問をさっきよりはっきり言ってみる。
「うんうん。反射神経は鈍ってないようあるね。」
けれど彼は、追撃を食らわせる気はないらしく、足を下ろして楽しそうに言った。
「だから、何ですか。」
少々不機嫌を声に滲ませる。すると、怒らない怒らないって…最初に喧嘩売ってきたのはどっちですか、まったく…

「いや、さっき英國と話してきたあるけど、」
「何か変なこと言ってないでしょうね?」
にらみつけると、それ。と指をまっすぐ向けられた。
「は?」
「そういう顔、あいつの前ではしないあるか?」
「…する必要が、ないですから…」
そう、イギリスさんは大概において紳士で礼儀正しい方だから。警戒したり、は、お酒を飲んで帰っていらしたときくらいでいい。しかもそれは今のところ、ない。飲み会だった日は帰りが次の日だから。

答えると、なるほど、と彼は腕を組んだ。…一体何?
「だから、あるか。」
「何がですか?」
「英國が、おまえのことをか弱い、守らないといけない国だ、なんて言っていたのが、ある。」
不意打ちで蹴り入れても軽く対応できるやつの、どこがか弱いあるか。
呟かれる言葉に、きょとん、と瞬く。
あいつ。…そういえばさっきまで、イギリスさんと一緒にいたはず。
「…イギリスさんと比べると、そんなに強いつもりはないですが…」
「けど、自分の身くらいは守れる力は持ってる。その自負は持ってるあるな?」
…それは、まあ。
うなずくと、やっぱりあいつが勘違いしてるだけあるか。我が正しかったあるなって。
「…イギリスさんに何を言ったんですか?」
まっすぐ見ると、彼は肩をすくめた。
「日本という国は弱々しいウサギなんかじゃなくて、むしろ能ある鷹だって言ってやったある。」
その爪を隠して、じっと機会をうかがってる。寝首かかれないように気をつけるあるよって忠告してやっただけあるよ。
飄々とそれだけを告げ、遠くから呼ぶ声を理由にじゃあまた、なにかされそうになったら本当にやっつけるあるよ、協力するから、と逃げていく彼をにらんだ。…まったくよけいなことを…寝首をかくつもりなんてさらさらないのに。人の関係にひび入れて何が楽しいんだあの人は。…いや、ほんとうは心配してくれているんだろう。ドイツさんやイタリアくんと同じように。
ため息をついて顔を上げる。

そこには、じっとこっちを見ている真剣なエメラルドが、あって。
「…イギリス、さん…」
名前を呼ぶと、彼はなぜか真剣な表情のまま、こちらにやってきた。
「…中国とは、いつもあんな感じ、なのか」
ぼそりとつぶやかれた言葉に、首を傾げる。どうしてそんなことを?
「…まあ、いつもはハイキックはしませんが…」
素直に答えると、そうか。と一言。

それから、帰ろうか、と声をかけてきた彼は、いつもどおりの優しい彼だった。

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