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「日本」
呼ばれて、はい?と首を傾げると、ちょっと、と呼ばれた。真剣な瞳が、まっすぐにこっちを見て、すぐにきびすを返して歩き出す。慌ててついていって。
広い庭へ出て、何ですか?と尋ねる。水やりはしたところだし、テーブルが片付けられているから休憩、とかではなさそうだし。
「おまえに、チャンスをやるよ。」
「ちゃん、す?」
何の話を、と聞こうとしたら、ひゅ、と何かを投げられた。咄嗟に手を出して長い棒状のそれを掴む。
ずしりと重い、その感覚。懐かしく、手に馴染んだ。…まさか!
「これは…!」
袋に包まれたそれを取り出す。…黒く光を照り返す鞘から少し引き抜く。…日本刀の真剣、だ。間違いない。
「…どうして…」
渡された意味がわからない。研ぎ澄まされた刃が、当惑した自分の顔を映す。

「だから、チャンス、だ。」
ひゅ、と彼が手に持っていた剣を引き抜いた。まっすぐに向けられ、思わず体が抜刀の姿勢になってしまうのは、昔取った杵柄か、それとも。…彼が本気なのを、感じ取ってしまったからか。
(…まさか、そんな。)
本気の訳がない。今はそんな時代じゃない。理性がそう判断するのに、構えを解けない。
彼は本気だと、体が、経験が、訴えてくる。
真剣そのもののエメラルド。その目の威圧だけで敵を圧倒しそうだ。…見たことのない、表情。

「…どうして…!」
「知りたきゃ勝て。…いくぞ!」
軽く、地面を蹴ったイギリスさんが、剣を振り下ろす。鞘をつけたままの刀で受け流して、後ろに跳ぶ。
「抜け、それとも、俺には抜く価値もないか?」
「違います!どうして貴方相手に…!」
抜かなくてはいけないのか。そう問う前に、あけた距離を一気に詰められる。
輝く銀閃を体を反らせてかわし、二撃目がくる前に距離を取る。

「イギリスさん!」
思わず声を荒げる。すぐ追ってきて振り上げられた刃に、意識よりも先に、体が動いた。
「…っ!」
きいん、と鞘から抜いた刃が、ぶつかる音がする。
ぎち、と金属が擦れあう音。爛々と光る、瞳が、イギリスさんのものとは思えないほどに狂暴な色に染まっていて。
「…、やっと抜いたな」
口の端がつり上がる。次の瞬間、イギリスさんに押し返され、慌ててバランスを取る間に距離を空けられた。
互いの間合いより、少し遠い距離。刀を両手でまっすぐに構え、その瞳を見つめる。
…何を考えているのか、わからない。いつもより、ずっと澄んだ瞳の色。凶悪で乱暴な光を宿した、…そんな瞳は、見たことがない。

ひとつだけわかるのは、気を抜けば、やられる。彼は本気だという、こと。少しでも油断すれば、首元にあの輝く凶器を突きつけられるということだけ…!

「…いい目、だ。」
にらみつけると、そう言われた。心底楽しそうな表情に、何も言えなくなる。
動かない彼を、じっと見る。目はかろうじてついていっているけれど、体の方は全然だ。日頃の運動不足が祟っている。
おそらく、腕力、スピード、どちらでも勝てない。持久戦に持ち込まれても圧倒的に不利。
ならば、隙を探すしか、ない。
無意識にそこまで考えた自分に、泣きそうになった。隙、をついて、彼を殺そうとでも!?そんなこと、できるわけがないのに!

たん、と彼が駆け寄ってくる。考えていたせいで反応するのが遅くなり、避ける、という選択肢が消える。
刀を握りなおして、どう来る、と息を詰めて。
すぐ前に迫った彼に、最初と同じように受け流そうと、刀を構えかけて。
最後の踏み込みで、一瞬彼が迷ったのに、気づいた。
生まれる隙。彼に刀をつきつけるのならば、今この時しか、ない!足を前に、出しかけて。
(…けれど、本当にそんなこと……!!)

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