|
たん、と踏み込んで、剣の軌道をぎりぎりでかわし、その白い首元に刀を突きつけた! 全力で刀の勢いを殺し、ぴたり、と首のすぐ手前で、止める。そのままの体勢で動きを止める。…少しでも力を入れれば、その首をかききれるであろう体勢のまま、全身の動きを止める。 すぐ近くに、剣呑な光を帯びたエメラルド。 しん、と静まりかえった中、風が、駆け抜けた。 「…は。」 口の端が、つり上がる。からん、とその手から離される剣。それを見て、ゆっくりと刀を引いた。 「何だ。…やればできるんじゃないか。」 楽しげな声に、どういう意味ですか、と尋ねる。 「本気を出せば。…俺くらい倒せるくらいの、力を持ってるんだよな。おまえは。」 何故かすっきりしたように、彼は笑って。 胸元から、がさ、と一枚の折りたたまれた書類を取り出した。 「今日付けで、…日本国の独立を認める。」 書かれた美しく整った字が告げる内容を…彼は、その口で、言った。 ざあ、とまた、風が通る。 「………は、い?」 思わず何も言えなくなって、彼を見つめた。 何を、言っているんだろう、この人は。 「何呆けてるんだよ、喜べ。」 「…い、いきなりそんなこと、言われても…。」 呆れたような苦笑に、なんとかそう返す。だって、だってそんなの、全然聞いていなかった、のに、どうして? 「どうして、ですか?」 私は何か、したんでしょうか。…いや、それでは、さっきの『チャンス』、の意味がわからない。追い出したかったのならば、ただ素直に追い出せばいいのだから。 なら、どうして? 「中国に言われて、気がついた。ああ。俺、全然おまえのこと見てなかったんだなって。」 中国さん…ああ、この間のことか。私が寝首かくとかかかないとか。かかないけれど。 「だから、もっと知りたいと思った。今の関係だけじゃ見えないおまえが。もっとおまえとの関係が、互いにいいものになるようにしたいって思ったんだ。…今のは、その、決意表明みたいなもんだな。」 「…命懸けの決意表明ですね。」 真剣を使って、なんて。そう言うと、ああでもしないと見れないことだってあるだろうからな、とすがすがしい表情。 「その価値はあったしな。…あんな顔もできるんだな。いい顔だ。」 楽しげに言われて、少し恥ずかしくなった。 あまり詳しくは覚えていないけれど、…へ、変な顔はしてない、と思う、たぶん…。 「…だから、一端お別れだ、日本。」 その言葉を聞いて、寂しくなる。…わかれるのは、とても、本当に寂しい。少しだけ、うつむいて。 「次に会うときは、属国、支配国じゃなくて。」 続く言葉。強い、声。す、と、うつむいた視界に入る、黒い手袋。少しの間の後、一端引っ込められ、手袋を外した白い手が改めて視界に現れる。 「同盟国として、だ。…それじゃダメか?」 語尾だけが少し不安げなのが…彼らしいと、思った。 「いいえ!…いいえ。」 ダメじゃないです。そう答え、ふ、と息をはいて、顔を上げる。泣きそうな気分は押し込める。 せっかく、彼が認めてくれたのだから。認めてよかったと、彼が思うような、そんな国になりたいから。 差し出された手を握る。温かくて、固くて、強い手。それをしっかり、握って、笑ってみせる。 「同盟国として。改めて、よろしくお願いします、イギリスさん。」 「…こちらこそ、日本。」 『鍵の欠片』を手に入れた! 次へ |