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ドイツー!と遊びに来てはぐきす、と挨拶を求めると、もう少しで終わるから頼むから大人しく待っててくれ、と言われてしまったので、大人しく待ってることにした。 だって。ああいう風に言うときは、本当にもうちょっとのときだから。ちょっと、だったら俺だって大人しくしてられる。…ちょっと、があんまり長いと無理だけど…。 「ヴェ〜。」 ソファに寝転がる。…ドイツがいたら怒られるけど、いないからいいよね。うん。足をばたばたさせながら、庭をながめる。 …独立してから、一月経った。 最初のころはほんとに仕事多くて泣きそうだったけど、兄ちゃんもいたし、ほんとにドイツも、それから他の国もたくさん手伝ってくれたから、なんとか軌道に乗ってきていた。 こうやって、ドイツのところに遊びにくるのも、結構回数を増やしても大丈夫なくらいには。…兄ちゃんはまたじゃがいものとこかよって、言うけど。 せまいソファの上でごろりと寝返りをうって横向きになると、ペンダントが視界の端に映った。 黒い、クロスのペンダントと、それにくくりつけた、小さな袋。 「……これも、な…。」 中身を取り出す。…鍵、だ。先のかけた、不完全な鍵。 …ドイツと一緒にいることも、やっぱり減って、最近は新しい欠片を見つけることもなくて。 「…ずっと、こっちにいるのか、な…。」 …嫌かと言われれば、いやじゃないのかもしれない。…だって、ドイツいるし、でも。 目を閉じれば思い出す、向こう、での思い出も、やっぱり大事、で。どうしたらいいのか。最近頭を悩ませていることの一つ、だ。 それで、悩んでいることはもう一つあって、それは。 「…どうすれば…」 どうすれば。ドイツが俺の恋人になってくれるのか、だ! だってだって、足りないんだ。挨拶以上のハグがしたいキスがしたい! でも、言えなくて。もしも、ドイツがどん引きしたら。俺のそばからいなくなってしまったら! …それは何より、怖い。 「…言えないよ、Ti amo,Germaniaなんて…」 はああ、とため息をついたら、後ろからばさり、と音がした。本でも落ちたかな?と起き上がって振り返る。 そこには、目を丸くして固まった、ドイツの姿! ひ、と息を吸い込んで、後ずさりする。き、かれてた、よね、だってドイツびっくりしてる…! 「え、えと、早かったんだね、」 引きつった笑みを浮かべると、瞬いたドイツはまっすぐこっちに足を踏み出してきて。 っやだ、怖い! それで頭がいっぱいになって、体を翻して逃げる! 「っイタリア!」 けれど、俺が逃げるより早く、両側から伸びてきた腕に、抱きしめられる。待て、イタリア。呼ぶ声に嫌だと首を横に振って。 「イタリア、」 「やだやだ、聞きたくない!」 ごめんとか、俺はおまえをそう言う風には、とか、ネガティブな返事しか浮かんでこない。嫌だ、嫌われたくない! 「イタリア!」 大声で怒鳴られて、びく、と体を竦める。 「…その…俺の、うぬぼれでなければ、いいんだが…」 けれど、続いた声がひどく自信がなさそうで。思わずドイツ?と呼んだ。 「…好きだ、イタリア」 鼓膜を打つ声、が、信じられなくて。 「へ…?」 「好き、なんだ。おまえが。」 うそ、…ほんとに? 振り返ろうとすると強く抱きしめられて動けなくなった。ちょっと苦しい。 「ドイツ、苦し、」 「悪い…」 ゆるむ力。振り返れば、もうドイツの顔は真っ赤で。 うろうろとさまよう視線。…恥ずかしくて仕方ないらしい。 「ドイツ、」 呼べば、観念したようにこっちを見る、青。ああもう、愛しい! 「俺も大好き!」 目を閉じて、叫んで抱きついたら、きん、と小さな金属がぶつかるような音と。 扉が開く、音がした、気がした。 |