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それじゃあ。

ドイツに笑って言おうとするのに、どうしても言えなくて、うつむく。またすぐに会えるとわかっていても、どうしても、嫌だ。

さよなら、なんて。やっぱり笑顔では言えない。

「…イタリア」
「、ん?何?」
「おまえ、何の花が好きだ?」
「ふぇ?」
顔を上げると、何故か遠くを見るドイツ。
「え、な、何、花?」
「あ、ああ…」
…何でドイツ照れてるんだろ…
「んー…ヘリオトロープ、かな。」
首を傾げながら言う。思い出のたくさんある、花だから。何より大好きな、甘い香りの花。
「ヘリオトロープ…神の薬草か。そうか。」
うん、とうなずいて、それがどうかした?と尋ねると、いや、何でもない。だって。変なの。

ドイツ、と呼ぼうとしたら、彼が何かに気付いたのか、ああ、と呟いた。
「ほら。迎えが来たぞ。」
振り返ると、遠くに不機嫌そうな兄ちゃんの姿が見えた。なんか口動いて…は、や、く、こ、い、お、い、てくぞ!?ああもう待ってよもー!
「え、えと、その、じゃあ、」
ドイツに、何て言っていいのかわからなくて、けどたぶん、このままだと本当に置いていかれる、と焦ったら何にも言葉浮かばなくて、うーあーと言ってたら、ぽんぽん、と頭に触れる手。
「…またな。」
柔らかい笑顔。…言葉がすとん、と胸に落ちる。そっか、そうだよね、さよなら、じゃなくていいんだ!
「うん、また!絶対遊びに来るから!」
「構わないが、ちゃんと仕事をしてから来い。…忙しくなるぞ。」
「ヴェ…やだなあ…。」
思わず呟くと、まったく、と呆れたような顔。…大丈夫。いつもどおり。いつもと一緒、だ。だから。
決して、これでさよなら、じゃない。

「じゃあね!あんまり根つめて仕事しちゃダメだよ、ドイツ!」
「おまえはもう少し真面目に仕事しろよ、イタリア。」
そう言いあって、笑って。
俺は兄ちゃんの方へ、走り出した。



俺の家は、やっぱり俺が知ってるのとはちょっと違ってた。けど。
それを寂しいなとか思う暇もなかった。
もう、本当に忙しくて!
兄ちゃんは仕事サボるし、独立したからっていろんな仕事は舞い込んでくるしでもう一生分くらいがんばった!もう二度とやだ!
気がついたら3日も経ってて、ふらふらになりながらソファにばったり。ご飯は食べてたけど、この三日間一睡もできてない…。
「こら、馬鹿弟。んなとこで寝るな。」
兄ちゃんが声をかけてくる。…いいよねえ、今日もこっそりさぼってシエスタしてたの知ってるんだから!
「むり、動けない…。」
「ったく…。」
しょうがねえなあと言いながら、兄ちゃんは肩を貸してくれた。
ふらふらとよろけながら、二人でベッドに倒れこむ。ここ兄ちゃんのだけど、今日くらいいいよね…。
「ねむい…」
朧気な思考でそう呟いたら、ぐしゃぐしゃと強い力で頭を撫でられた。
ドイツみたい、とちょっと思ったら、何だか寂しくなった。

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