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ふわり、と花の香りがした。

「…あ。」
買い物から帰る途中、視線を引かれたのは赤い薔薇。
ほかの色もあるけれど、やはり赤がとても華やかで。
「買っていって!あなたの恋人もきっと喜ぶわよ」
「うーん…貴女みたいに綺麗な恋人がいたらよかったんだけど」
あら上手ね。楽しげに、おおらかに笑ったおばちゃんの隣にある薔薇を見る。
…綺麗な赤だ。
赤い薔薇というとどうしても、バレンティヌスを思い出してしまう。だって知らなかったんだ、ドイツのとこでは赤い薔薇が告白の花だったなんて。
…勘違いしてあげく暴走しまくっていたドイツを思い出して苦笑。…今のドイツにあげたら、どうなるんだろう?

「こんなところで何してるんだ?」
突然後ろからかかった声に、ぎく、と体を強ばらせた。…さっき思ってたの口に出してないよね俺!?
おそるおそる振り向くと、やっぱり仕事帰りらしいドイツの姿。
「どうした?」
不思議そうな顔。…大丈夫、みたい。ほっとため息。
「おや。友達かい?」
「…同居人、だ。」
…ヴェー…そうだよねー…友達、でもなかったことにしょぼん。

「で?」
ちら、と見られてええと、えと、と慌てて言い訳を考える。
「え、とその、家にバラ飾ったら、いいかなぁって。ほら殺風景だから、」
「悪かったな、殺風景で。」
「う、ご、ごめん…」
しょぼん、と呟くと、あはははは!そりゃ男二人暮らしじゃあねえ!と笑われた。

「なら、何色か混ぜた方が華やかになりそうだね。ちょっと待ってな。」
あ、と止める前に花束を作り出した彼女に、ちら、と伺うように隣を見上げたら、まあ構わん。と言われた。
「はいできた!」
言われて、振り返ると両手一杯になるくらいの薔薇の花束!
「わわ、」
とにかく荷物を一端置いて受け取る。両手でないと持てないほどの花束に瞬く。
あ、代金、と思っていたらドイツが財布を開いていて、料金を払って、俺がさっき置いた荷物をその腕に抱えてしまった。

「え、あ、」
「いくぞ」
そう言いながらすでに歩き出してしまうから、花屋さんにチャオ、と声をかけて慌てて追いかける。
「俺の荷物、」
「いい。…それより転ぶなよ」
せっかくの花が潰れる。言われて、大丈夫、潰さないようにうまく転けるから、と言ったらそう言う問題じゃないだろうって。ヴェ〜…
うつむいたら腕の中の花束が目に入った。赤、ピンク、黄色、白。鮮やかな色に、なんだか嬉しくなる。
「…帰ったら分けないと…コップ何個か使ってもいい?」
「あー…いや。確かもらいものの花瓶がいくつかあったはずだ。それを使え。」
「了解であります!」
答えてどこに飾ろうかなぁと考える。
リビングと、応接間と、あとは…ドイツの仕事部屋とか!…怒られるかな…少なめならいいかな?
色の取り合わせもたくさんあるから考えないと。
…一瞬、赤を全部、ドイツの部屋に飾って、俺の気持ちだよ、とか…やってみようかなって思ったけど、すぐに首を振ってかき消した。
「どうした?」
「何でも、ないよ。」
…この花の意味を知ってしまった後で、それをする勇気は、俺にはないよ、ドイツ…


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