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「…うれしく、ない。」

そう言ったら、な、に?と困惑した声がした。
「…うれしく、ないよ…。」
呟いて、うつむく。何も言えなくなった。泣いてしまいそう。
だって、それ、俺と一緒にいたくないってことだよ、ね…?
そりゃ俺、何にもできない、けど。よく転ぶし泣くし迷惑かけっぱなしだし、いたって邪魔なだけだって、わかってる…
でも一緒にいたい。ドイツと。これは俺のわがままだ。だけど、…一緒にいたいよ。それは、ダメなこと、かな…?

「…お前、何か勘違いしてないか?」
「…え、」
なんとか、顔を上げたら、呆れたような顔が、眉をひそめた。
「…泣くな。」
「ヴェ、」
ハンカチを持った手が伸びてくる。
強い力で擦られて、痛いよ、と声を上げると、悪い、と手が離れた。
その手がそのまま、くしゃ、と髪を撫でる。
「何で泣くんだ…」
「…だ、て、ドイツ、俺のこと、…嫌いになったん、でしょ?」
「あのなぁ…俺は別にお前が嫌いになったからこんなことを言い出したんじゃない。」
「…ちがうの…?」
おそるおそる見ると、深くため息。それから、しっかりとうなずいてくれた。

「おまえを認めた。ただそれだけだ。嫌いになったわけじゃない。信じろ。」

強い言葉。蒼い瞳。まっすぐな、強い光。
信じろ。その言葉は、本当に、強くて。大きくて。…胸が一杯になった。
「…うん、うん!信じる。」
泣きそうになりながら微笑むと、ドイツの頬がゆっくりと上がった。大好きな、ドイツの笑顔。
「じ、じゃあ、遊びに来ていい?明日も明後日も、ずっと!」
勢い込んで聞いたら、おまえそれじゃあ今までと何も変わらないだろ、と呆れた声!
呆れられたっていい。だって、ドイツ笑ってるから。しょうがないやつだなって、楽しそうに!
「…構わん。好きにしろ。」
「わあい!」
ドイツ大好き!と机によじ登って抱きしめたら、机に登るな!とすぐに怒鳴られた。

ごめんなさーいと言いながら、降りて、机を回ってはぐはぐ、と抱きつく。
仕方ないな。そう言いながら抱きしめてくれた。最初は渋っていたけれど、挨拶じゃんかーねー?と何度も言い続けたらそうしてくれるようになって。嬉しくてぎゅう、と抱きついたら、降りろ、と言われた。
「や!」
「やじゃない。」
やだよう降りたくないのにもう…
「ほう?じゃあこれはいらないんだな?」
ドイツの手が机の上に置いたままだった箱をこんこん、と叩いた。
「俺にくれるの?」
「ああ。だから降りろ。」
「えー…。」
「い・ら・な・い・ん・だ・な?」
「いるいるいります!」
慌ててどくと、その箱を差し出された。ドイツの手が、箱を開ける。


思わず、息を飲んだ。


「…まだ新しいのができていないから、とりあえず、俺がつけているもの、だが…。」
そっと、指を伸ばす。触れるのさえ怖くて。けれど、ゆっくりと、手を伸ばす。見てもわからないけれど、触れるとわかる。細かい傷がある。たくさんの。…知ってる。この手触り。よく、よく知ってる!

「出来上がり次第交換する。…俺の同盟国の証、だ。それがあれば、周りのやつらへの牽制になるはずだから。」
持っておけ。そう言われて、ちょうだい、と呟く。
「……やると言ってるだろう?」
「そうじゃなくて、交換なんてしなくていいから!俺、これがいい。だから。」
ちょうだい。囁いたら、変わってるな、と困った顔をされた。
「まあ、おまえがいいなら、いいぞ。」
ドイツにとってはきっと、それはさらりと言った一言。けど、俺にとっては何よりうれしいことで。
つけて、ドイツ。お願い。そう言ったら、ため息をついて後ろ向け、と言われた。
ちゃらり、と音。肌に触れる感覚。

…こっちに来たときにはもうなくなっていた、クロスのペンダント。
ドイツが初めて俺にくれた、大事なもの。
また、戻ってきた。ドイツが、もう一度これをくれた。
それだけでもう、十分すぎるほど幸せだ!

「ほら。できたぞ。」
「…ありがと、ドイツ…。」
ペンダントを握り締め、泣きそうになりながらそう言ったら、泣くな、と頭を小突かれた。
「俺がんばる、から、だから。」
「だから泣くな…おまえは、笑ってる方がいい。」
きょとんと顔を上げたら、ちょっと恥ずかしそうに視線を逸らすから、小さく笑ってうん、とうなずいた。

部屋を出て、ふと手の中に何かを感じた。手のひらを開く。
「…鍵の欠片…」
いつのまに、と思って、でもこれも大事なものだ、ともう一度なくさないよう握り締めた。


『鍵のかけら』を手にいれた!


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