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「…いや、です。」 「はい?」 「嫌、です…っ!」 いやだ、やだ、やだ。 それなら今のままでいい。ずっとずっと、このままでいい。 彼の隣に、一番近くにいたい。 それ以外は望まないから。 視界がにじむ。息が切れる。しゃくりあげたら、ぽろ、と涙がこぼれた。 「嫌です…っ!!」 でもそれを言うことはできない。 だからいや、いやと首を横に振ることしかできなくて。 「い、や…」 不意にふわり、と風を感じた。 瞬間、体を包む熱。 「…っ!」 「…わかりました。」 冷静な声に、自分が彼に抱きしめられていることに気づいて、体が硬直した。 何、何で? 何で、そんなに優しくするんですか、オーストリアさん……! 「縁談は、断ります。」 「、え、」 「もともとあまり気乗りはしていなかったので。…あなたの言葉で吹っ切れました。」 ありがとうございます、って、でも、それ大丈夫なのかな…? 「大丈夫です。」 心を読みとられたような一言に、ぎく、と体が震えた。 「心配しなくても大丈夫です。うまくやります。」 だからあなたは、笑っていてください。お願いします。 …優しい言葉と、頭を撫でる、少し、緊張したような手つき。 そうっと、頭を肩に預けてみる。より深く抱きしめられて。 …ねえ、オーストリアさん。どうして、抱きしめてくれるんですか? 泣きやませたいから?それとも。…私のこと、ああだめ、期待してしまう。彼は優しいから、きっとそれだけのことなのに。 私のこと好きですか、なんて、聞けるわけもないし。ああ、甘い期待なんてさせないで! でも、その、涙の出そうなくらい優しい感触に。 …このまま時間が止まればいいのにと思った。 かつん、金属製のなにかが、落ちる音がする。 『鍵のかけら』を手にいれた! 次へ |